カンボジアの元気による元気になるブログ

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ルアンプラバーントレイル、55km地点のエイド。

 

残り6kmの最後のエイドだ。朝6:00から走って時間は21:30。

 

足は太ももに筋肉を握りしめられるような痛みを感じ、体は鉛のように重い。

足の裏はマメが潰れて踏ん張るたびに針を刺すような痛みが走るし、膝と腕はジャングルの藪とアリの大群に襲われ、傷だらけ。

満身創痍で迎えたエイドだった。

 

 

「あと6kmでゴールだ」
 

ペプシコーラをコップに入れながら呟く。2つ前のエイドで確認した順位が間違いなければ現在9位のはずだ。
コーラを喉に流し込み、スタッフに順位を確認する。

すると予想外の回答が返ってきた。

 

 

「君は現在8位。6,7位の2人は一緒に出ていって走る力も絶え絶えで5分前にここでで行ったよ」と。

 

 

8位?1人リタイアしたのだろうか。

この距離のトレイルで後半にリタイアが出てくるのは珍しいことではない。

ここで2人を抜くことができれば一気に6位に上がることもできる。

 

鼻から新鮮な空気がすっと入ってくるような、背筋が締まる思いになる。


口にしていたバナナを口に押し込み、プラスチックの椅子から立ち上がる。不思議と体は重くない。


そして呟く。
 

 

「まだ6kmある。いけるかも」
 

 

エイドに着いた時はもう早く終わりたい気持ちで「あと6km」と思っていたのに、

 

いまは「あと6kmあるならいける。」と残りの距離をポジティブに捉えている。

 

かくも情報ひとつで自分は変わるものか。

 

ーー

 

「コースはどっちだ」

 

「右曲がって左行ってすぐ右だ。狭い道。」

 

「ん?よくわかんない。どっち?」

 

 

周りは真っ暗で何も見えない上に、理解力が落ちてる僕にスタッフが途中までコースに誘導してくれる。

ありがたい。
 

ヘッドライトのスイッチを入れ、残り6kmの足を踏み出す。
 

 

前にいる2人は40km地点で見送った2人だ。

彼らの顔が頭に浮かぶ。

 

 

「一気に抜くぞ」
 

 

思ったら体から痛みが消えていた。

 

あの痛みは、あの辛さは、なんだったんだろう。

 

頭がピリピリと動いてくるのを感じる。

 

鳥肌が立つような身震いがして、視線が前だけに集中する。

 

周りの音が聞こえなくなり、ゾーンに入ったような状況になる。

 

 

 

これは何?アドレナリン?脳内麻薬?

 

ーーー

 

フルマラソン走るようなスピードで山を走る、走る、走る。
 

足音と荷物の揺れる音と呼吸音だけが聞こえる。

 

月も見えない。

 

ライトの先以外はほかに光が見えない真っ暗な世界になる。

 

「この世界に自分1人だけいて、1人でここを走ってるのではないか」

 

とさえ思えるような時間。6分ペースかな、と冷静にペースを見てる。

 

さっきまで歩きながら11分ペースだった自分では考えられないペースだ。

 

加えてコースは今の方が圧倒的にきつい。

 

それでも登り坂を登ってもキツさを感じない。

 

だんだん怖くなってくる。

 

軽く舌を噛む。

 

全く痛くない。

 

頬をつねる。

 

痛くない。

 

足は?

 

痛くない。

 

---

 

走り続けると残り4kmくらいのところで2人に会う。
 

 

「え、お前1人?え?一緒にだれが?」
 

「いない。1人で来た」
 

「速いね。アメージング」
 

「ありがと、じゃ僕いくから」

 

そんな会話をして2人を抜き去る。
 

 

一気に6位だ。足も体も全く痛くない。
 

限界なんてどこにいったんだろう。
 

---

痛みを忘れて走り抜け、61kmゴールした時にはすでにあの2人とは10分の差がついていた。

 

 

----

 

今回の経験を通じて思うのは「僕らが普段思う限界なんて、全然限界じゃなんだな」ということだ。
 

全身が縛られたように痛みが覆っていても、6kmをダッシュできるらしい。
 

「それは脳に騙されていたんだね」とはゴール後に言われた、年間25本ウルトラトレイルを走る鉄人の言葉だ。

 

僕たちの限界を決めているのは、案外自分の脳が作った思い込みなのかもしれないな、

 

なんてことを感じた、ルアンプラバーンのゴール前最後のワンシーンでした。