松野哲也の「がんは誰が治すのか」

松野哲也の「がんは誰が治すのか」

治癒のしくみと 脳の働き

松野哲也


1942年横浜市生まれ。

国立研究機関でインターフェロンの作用機作、ウィルス・化学発ガン、ガン胎児性タンパク質、腫瘍細胞ののエネルギー代謝機構、抗ガン物質検索などの基礎医学研究に従事。1996年渡米。コロンビア大学ガン研究センター教授。現在は退職しニュージャージーでノエティック・サイエンス研究室主宰。


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著書に「ガンはこわくない」(中央アート出版社)、「癌では死なない」(ワニブックス)、。「プロポリスでガンは治るのか!?」(中央アート出版社、) 「がんは誰が治すのか」(晶文社)、「病気をおこす脳病気をなおす脳」(中央アート出版)など。




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 理論の提唱者は、自らの理論に欠陥があったとしても認めないことがあります。認めたとしても、思い入れが強い場合、解決策を客観的に導くことが難しいのかも知れません。

 

 たとえば、「量子もつれ」の概念を提唱したエルヴィン・シュレーディンガーは、自らつくった波動関数の元来の解釈 ー 物質波の力学的運動を表すとの解釈 ー に拘泥しました。実験によって当初の解釈とは異なる結果が示されたにもかかわらず。1952年の論文、「Are There Quantum Jumps? (陽子飛躍は真実あるのか?)」では、量子の遷移について、ボーアやハイゼンベルクによる散発的な概念を否定して、連続的な説明の必要性を訴えています。

 

 また、同じくパウリも、晩年、自らが尊ぶ自然の一部に固執しました。他者の理論に対して批判的な姿勢を貫いたように、対称性こそ宇宙の原理とする考えに頑なにこだわり続けたのです。

 その森羅万象をシーソーに見立てた宇宙観ではすべてのものが対をなします。1方のスピンがアップであれば他方のスピンはダウンを示す。正の電荷を引き付けるのは負の電荷だ。シンクロ二シティのもたらす非因果性は、因果性に背反する。未来から過去への時間方向は、過去から未来への時間方向とペアを組む。実物は鏡像と相反する。

 ピタゴラス、プラトン、ケプラーと受け継がれてきた思想を汲み、パウリは対称性の中に真理を求めたのです。保存則と結びつき、自然界において非局所的な基本作用を導く対称性は、パウリにとって決定論の司る世界を補完すると同時に、新たな真理を示唆するものだったのです。それゆえパウリは、対称性に基づく統一的理論の構築に執念を燃やしたのでした。事実、特定の弱い相互作用においてバリテイ(空間反転的鏡像)対称性の破れが実証されても、1年後輩のハイゼンベルクの統一的理論を支持し、追い続けたのです。他の物理学者から矛盾点を指摘され、断念することになるのですが。

 

 

   地球に飛来する宇宙線から1950年代はじめに発見された新素粒子の中に、2種類の中間子(スピンが整数のハドロン(スピンが半整数のバリオンと、スピンが整数の中間子に大別される))が存在した。2種類の中間子は概ね同じ特徴を示したが、崩壊過程に差異が認められた。そして、発見された中間子とは別の3つの π(パイ)中間子に崩壊する種は「τ(タウ)中間子」、2つの π中間子に崩壊する種は「Θ(シータ)中間子」と名付けられた。いずれの崩壊過程においても、電荷量を含め、ほぼすべての物理量が保存されたが、空間的特徴だけは別だった。

 

 1956年、リー(Tsung-Pao Lee)とヤン(Chen Ning Yang)の2人の若手物理学者が、画期的な論文、「Question of Parity Conservation in Weak Interractions (弱い(核力)相互作用におけるパリティ対称性の真偽)」を発表して、τ(タウ)中間子とΘ(シータ)中間子が同じ粒子であると予想した。のちに同一粒子であることが実証され、k(ケー)中間子、またはケーオンと呼ばれるようになる。

  

 ともかく、τ中間子とΘ中間子の崩壊過程はお互いに全く同一ではなく、バリティ(空間反転的鏡像)対称的でもなかった。そのためリーとヤンは、電磁相互作用と強い(核力)的相互作用では必ず保存されるパリティ対称性が、特定の弱い相互作用では破れると推測した。コロンビア大学で研究するリーは、後に教授となる同僚の女性物理学者ウー(Wu Chien-Shing) に相談する。

 ウーのチームはワシントンにあるアメリカ国立標準局(NBS)(現アメリカ国立標準技術研究所)でコバルト60を絶対零度に近い超低温下で強い磁場に置いてスピンの重ね合わせを行い(偏光させ)、β崩壊を行わせ、放出される電子の方向を測定。原子核のスピンの向きに対して同一方向、もしくは反対方向に放出される電子の割合をそれぞれ求めたところ、測定結果に大きな偏りがあることを見出した。

 コバルト60は、まるで片面だけに散水するスプリンクラーのようだった。一方の芝生だけ水浸しで、他方の芝生は多少湿るといった具合に。全体的な対称性は保たれているにもかかわらず、電子の放出方向が非対称なのだ。バリティ対称性は破れていたのです。コロンビア大学に戻ってきたウーとそこにいるリーとランチを共にしたレオン・レーダーマンは先輩研究者のリチャード・ガーウインと指導する大学院生マルセル・ウインリッヒと共に、ミュー粒子(質量の高い電子のような素粒子)を使って実験を行ったが同じような結果を得た。ノーベル賞が贈られたのはリーとヤンの2人だけだったが。

 

 自然はβ崩壊に関して、対称性よりも偏りを好んだのです。

 

 

 CPT(荷電共役変換、パリティ変換、時間反転の3つの同時変換)対称性の保存は、現在まで、自然の真理として多くの支持を得てきました。しかし、その概念の一部に関しては例外の在ることも実証されたのです。それは、実際にフィッチ(Val Logsolan Fitch)とクローニン (James Watson Cronin)のニューヨーク郊外のブルックヘブン国立研究所での実験で実証されました。

 

 

 自然が織りなす純然たる対称性は何とはかないことでしょう。消えゆくひとかけらの雪。しぼみゆく晩夏のヒマワリ。時の流れもまた無常なのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 対称性という概念は、パウリが提唱したニュートリノの発見の他にも、素粒子物理学に多くの発見をもたらしました。

たとえばディラックの方程式 - シュレディンガーの波動方程式を拡張して、スピンが半整数のフェルミオンを記述した方程式 ー  では、2つの相対する解を得ることができます。正のエネルギーの解と、負のエネルギーの解です。負のエネルギーの解に対してディラックは、負のエネルギーの電子で限りなく充たされた海(ディラックの海)に存在する正のエネルギーの「空孔」との解釈を与えましたが、それは陽電子(電子の反物質)であることが後に判明しました。

 物質と反物質は、一部の特性に関しては全く同じでありながら、一部の特性に関しては鏡像対象性を示します。たとえば荷電粒子の反物質は、電荷を逆転させた粒子となる。負に帯電する電子ならば、正の電荷をもつ陽電子がその反物質です。両者は衝突すると対消滅をおこし、電荷を帯びない光子を放出して、その分のエネルギーを失います。

 量子力学では「レプトン数」という保存量が定義されます。電子やニュートリノなどのレプトン(強い核力 — 素粒子同士を結びつけて原子核を形成する ー の影響を受けない素粒子群。影響を受ける陽子や中性子は「ハロドン」と呼ばれる)であれば、レプトン数は1で、その反物質のレプトン数はー1となる。電子と陽電子の対消滅を考えると、電子のレプトン数(+1)と、陽電子(⁻1)を合計すればゼロとなる。これは、放出される光子のレプトン数(光子を含む非レプトンのレプトン数は0)と一致するのです。

 

 

 

 

 

 

 β崩壊をみても、レプトン数の保存則が成り立つのがわかります。

中性子がβ崩壊すると、電子と反ニュートリノ(レプトン数はー1)を放出して陽子になるが、反応前後のレプトン数を計算すると等しくなります。レプトン数は保存されるのです。

 

 

 物質と反物質はレプトン数や電荷が互いに逆になるが、共通する面ももちます。たとえば質量や、重力との作用はいずれも同じなのです。

 

 反物質は実験装置において生成し、閉じ込めることができます。しかし、対となる物質といつでも簡単に反応してしまうため、通常は短い時間しか存在できません。

 

 

 

 

 保存則が確立されたことで、物理学は驚くほどシンプルに自然を描写できるようになりました。

 

 たとえば力学的エネルギーの保存則を使えば、ジェットコースターの動きを説明できます。ジェットコースターは、エネルギーの総和を維持したまま、下降するときには位置エネルギー(重力によるエネルギー)を運動エネルギー(物体の運動によるエネルギー)に変換し、上昇時には、運動エネルギーを位置エネルギーに変換することでエネルギーの総和が保たれ、最終時にそれは元の高さに戻ります。

このように、一連の動きを首尾よく説明できるのです。もっとも、現実には、レールとの摩擦を考慮しなければならないでしょう。摩擦があると、力学的エネルギーの一部が失われ、それがもとの高さに戻ることはありません。しかし、ジェットコースター通過後のレールに触れてみれば、熱を感じます。そのため、熱として失われたエネルギーを一切漏らさずに計算すれば、エネルギーの総和 ー 力学的エネルギーと熱のエネルギーの合計 ー は保存されるのです。

 

 

 ジェットコースターの車両を素粒子に、レールをLHC(Large Hadron Collider: 大型ハドロン衝突型加速器)に置き換えてみましょう。実験対象の粒子は、一般に、LHCによって光速近くまで加速され、相対論的質量を得ることになります。質量とエネルギを等価とするアインシュタインの有名な方程式に照らせば、増加した質量はエネルギーの別の形としてみなすことができます。よって、(質量を含めた)エネルギーの総和は変わらないのです。

 

 

 

 しかし、ミクロの世界では、いわゆる「真空のゆらぎ」という現象において、エネルギーの保存則に破れが生じます。ハイゼンベルクの不確定原理に従えば、極めて簡明で存在する(時間が特定される)粒子に関しては、エネルギーの値が揺らぐため、一時的にエネルギー保存則が破られます。無の状態から自然に生まれ、極めて短時間だけ存在し、再び無に帰す粒子が存在するのです。

 通常、真空の量子ゆらぎで現れるのは、1つはプラスに、もう1つはマイナスに帯電する対をなす荷電粒子です。たとえば電子であれば、ペアで出現する陽電子です。荷電(この場合は電荷)の保存則が成立するためです。

 

 

 保存則の成立は、遠隔地における非因果的な相関の可能性を示唆するものでした。

 例えば全長数キロメートルにも及ぶ巨大な宇宙船が、はるか遠方の宇宙空間を移動しているとしてみましょう。周辺領域には宇宙船以外に物体が存在せず、天体の重力による空間の歪みも認められません。このように外部の力による影響がなければ、宇宙船の線形運動は保存されます。したがって、速度は一定です。ですから、宇宙船の先端の速度を計算すれば、後端の速度もたちどころに決まるはずです。要するに、因果関係によらなくても、遠隔地の情報は即座に得られるはずなのです。

 しかし実際は、宇宙船は原子の巨大な集合体です。船体を構成する原子1つ1つは熱のやり取りを通じて無秩序に振動しています。そのような系では、船体のどこをとっても同じ速度というわけではありません。但し、船体を絶対零度(マイナス273.15

℃)に冷やすことができれば、先端から後端まで一様に相関を示すでしょう。もしくは、量子コヒーレンス(すべての要素が足並みそろえて、一貫性のある一定の量子状態をとる現象)を呈する素材でつくられているならば、宇宙船は完全に一体化します。量子コヒ-レンスや非粘性状態にある物質は、超伝導や超流動といった現象を現すのです。

 

 1950年代以前、対象性と保存則の両者は、切っても切れない関係にありました。

 

 

 

 

to be continued

 

 

 

 

 

 

 

 

 1度も鏡を見たことのない宇宙人は地球に来て、鏡で自分の姿を見ると、それを複製装置と思って、その機能の速さに驚くかもしれません。もっとも光の速さは有限で真空中では 30万Km/秒ですが。

 

   いずれにしても、単なる偶然の一致や明らかに因果関係とは異なる結びつきが自然界には存在します。その1つが対称性です。それはある対象を別の対象に変換しても、特徴の1部が保存される物理的・数学的特性のことを指します。対称性は一般に、たとえ2点間が無限に離れていたとしても、非因果的な相関を瞬時に示すのです。

 もちろん、鏡の作用は光の性質をもとに成立するため、厳密には「量子もつれ」のような瞬間的なものとは言えません。しかし、量子力学では、順相関(お互いに同一の値をとる関係)や逆相関(お互いに反対の値をとる関係)を同時に示す現象が認められます。その最たる例が「スピン」なのです。原子内部の電子の状態を表す4つ目の量子数です。スピンは「アップ」と「ダウン」のいずれかの値をとります。

 パウリの排他律原理に従えば、2つの電子が同時に全く同じ状態をとることはありません。よって、等しいエネルギー準位に入る2つの電子が同じ軌道角運動量をもつ場合、スピンに関しては別の値をとることになります。つまり、弱相関を示すのです(観測によってはじめてそれぞれの値が決まり、それまでは2つの状態が重なり合っている)。

 たとえお互いがほぼ無限に離れていようとも一方のスピンが「ダウン」とわかれば、他方のスピンは「アップ」と決まる。逆もまた然り。このような状況を「もつれ」と言います。遠隔地でも成り立つスピンの逆相関は、いうなればシーソーのような関係なのです。

 

 

 ペアとして示される電子スピンなどの物理量は、因果律に基づかなくても、予想できる量です。逆相関のペアであれば、一方の値が決定されると、即座に他方の値が判明します。

 たとえば、赤と白のチョコボールが1づつ入ったパックを量子ケーキ店で買った場合、1つを食べればもう1つの色は見なくても(観測しなくても)わかります。2つのチョコボール粒子の間で情報交換が行われたわけではありません。つまり、因果律に基づいて情報が伝達されるわけではないのです。

 

 

 普段意識することのない中心力も回転対照性を現します。地球と月の間にはたらく重力もその1つです。地球の重力という中心力は、地球の中心に向かって対象を引きつけるため、公転する対象は地上から見て、エネルギーの大きさなどにかかわらず、常に同じ軌道を描くのです。事実、月の公転軌道は真上の方が遠いというズレを伴うものの、極めて真円に近い。そのため地上から見た月の軌道は、回転対照性を示します(月の満ち欠けは、太陽との相対位置による光の反射面の変化であり、公転対象性とは別問題となる)。

 

 

 

 1950年代以前の量子力学にはさまざまな種類の対称性が存在しました。ペアとして示される対称性もあれば、複数の要素からなる集合同士や、連続性を伴う対称性などもありました。さらに、数学者のアマーリエ・エミー・ネーターによって、対称性はあまねく保存則に従うことが証明されました。そして、その対照性の保存則から非局在的(この宇宙における現象が、離れた場所にあっても相互に絡み合い、影響し合っているといった)相関が導かれる ー すなわち、因果関係を伴わない2点間の結びつきです。

 

 

 

 

 

 

 

 私たちの多くは、原因があるから結果がある、すなわちこの世界には因果律があると思って生きているようです。

 局所実在論に立つアインシュタインにとっても「量子もつれ」はspooky (気味が悪い)で嫌悪すべきものでした。一緒の軌道を回っていて引き離された2つの電子はどんなに引き離されようと瞬時に光速(光子は太陽から地球までは約8分、月から地球までは約1.5秒かかって移動する)よりも早く瞬時にテレパシーをもったかのように情報交換するのですから。

 この現象はユングの言うシンクロ二シティ(スピンの発見者パウリも関与)とも関連性を持ちます。

 

 1982年、アラン・アスペは オルセーにあるパリ大学で、臨機に設定変更できる高性能の測定装置に加え、レーザー発振器や偏光器、非k理ファイバーケーブルを活用して量子もつれの非局在性を裏付ける統計データを示しました。

 

 

 量子力学には「状態の重ね合わせ」といった人間世界の因果律に背く概念があります。

「量子もつれ」もその1つです。ニュートリノとは違って電子や光子はヴォルフガング・パウリが提唱したコマの回転のようなスピンをもってます。

 

 量子もつれをの実験対象には4つの電子をもつヘリウム原子よりも光子(光の粒子)のほうがすぐれています。

光子のスピン状態は、左巻きと右巻きという2つの偏光状態として表現できます。ねじに左ねじと右ねじがあるようなもので、それぞれ、特定の軸に対する「アップ」と「ダウン」に相当します。

 量子もつれにある光子対は、2つの状態が等しく重なり合った状態にあるのです。

その光子対を偏光させると、特定方向に対して左巻きと右巻き、すなわち直交関係にある2つの偏光に分けることができます。偏光を得るのは非常に簡単です。ー 偏光サングラスをかけるだけで、光の強度は半分に低下します。

 

 2017年には ウイーン大学の アントン・ツァィリンガーのグループが 2つの望遠鏡をそれぞれ 1.6 Kメートル以上離れた場所に設置し、異なる恒星の光を観測。それぞれの光から検出される色波長 ー赤と青に相当するものー と、偏光器の設定を連動させ、光の測定を行った。

 きわめて離れた2つの天体から数百年前に発せられた光を活用するため、観測者の選択の自由や実験環境が測定結果に介入する余地は全くなかった。はたして、事件は、ベルの不等式の破れていることを明確に示しました。

 

 その後、地球から数10億光年離れたクエーサーの光を使って再度測定が行われたが、結果は <意識>とは何だろうか (A-16C) (2024-03-21) に示したように同じでした。アインシュタインは間違っていたのです。

 

 

 

      量子もつれに奇怪な面など一切ない。

      解釈を試みる哲学者が煙幕を張っているだけだ。

               ー フリーマン・ダイソン