三浦/木原、坂本、宇野が世界選手権を制した2022-23シーズン  コロナ禍を経て会場に戻った熱気は、来季も続く

マリニン・三浦の台頭、宇野の世界選手権連覇

  2022年北京五輪を終えて迎えた今季は、2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪に向かう4年間の幕開けとなるシーズンだった。ロシアのウクライナ侵攻を受け、昨年3月からロシアとベラルーシの選手には国際大会への出場が禁止されている

 

  男子シングルでは、昨年7月、2014年ソチ五輪、2018年平昌五輪を連覇し世界を牽引してきた羽生結弦がプロ転向を表明。また北京五輪金メダリストのネイサン・チェン(アメリカ)も今季は休養している

 

  その中で新たな力躍進したのが、18歳のイリア・マリニン(アメリカ)だ。昨年9月に行われたUSインターナショナルクラシックで史上初めて4回転アクセルを成功させたマリニンは、異次元の高難度に挑み続けた。昨年12月のグランプリファイナル・今年3月の世界選手権で銅メダルを獲得し、世界トップレベルのスケーターとなった。世界選手権での記者会見ではリスクを避けてクリーンな滑りを目指す方向性も示唆しており、来季は違う形で強さをみせるかもしれない

 

  世界選手権で銀メダルを獲得したのがチャ・ジュンファン(韓国)だ。昨季四大陸選手権王者であるチャ・ジュンファンは今季力を出し切れていない印象があったが、大舞台にしっかりピークを合わせてきた。ブライアン・オーサーコーチの教え子らしく高いスケーティング技術に基づいた総合力で勝負するチャ・ジュンファンは、今季ショート・フリーともにシェイ=リーン・ボーン氏に振付を依頼。洗練された表現も武器にして、世界選手権で初めて表彰台に上がっている

 

  目覚ましい成長を遂げたのが、日本の18歳・三浦佳生だ。初出場したグランプリファイナルでは5位に終わったものの、四大陸選手権では優勝。昨季は怪我の影響で13位と苦戦した世界ジュニア選手権でも金メダルを獲得し、雪辱を果たした。ジュニア時代から注目されていたジャンプの能力に加え、勢いのあるスケーティングを生かした表現も魅力で、来季もさらなる活躍が期待される

 

  一方、ジュニア時代から期待されながら長く怪我に苦しんできた23歳山本草太にとり、今季はようやく真価を発揮するシーズンとなった。今シーズン果たしたグランプリファイナル進出は、ジュニア時代に出場し3位に入った2015年以来で、シニアとしては初めてだった。7年を経て再び立った大舞台で獲得した銀メダルには、雌伏の時期に積んできた山本の努力が詰まっている。世界選手権にも出場した山本には、これからも伸びやかな滑りをみせてほしい

 

  そして、頭一つ抜けた強さを見せたのが宇野昌磨だ。世界王者として臨んだ今季は、出場したすべての試合で優勝している。だが簡単に勝ち続けたわけではなく、特に連覇を果たした世界選手権は苦しい中で勝ち切った試合だった。調子が上がらない中で迎えた上、公式練習で右足首をひねり、怪我を抱えて臨むことになったのだ。しかし、本番では経験を生かして手堅く演技をまとめ、母国開催の世界選手権で金メダルを獲得した。どんな状態でも結果を残す頼もしい強さを備えた宇野は、今後は表現面を磨く意志をみせている。来季の宇野は、どんなプログラムを披露してくれるのだろうか

 

躍進のシーズンとなった三原、底力をみせた坂本

  近年圧倒的な強さを誇っていたロシア勢の不在もあり、今季の女子シングルではトリプルアクセルや4回転といった高難度ジャンプに挑む選手は少なく、演技の完成度が勝負を分ける試合が多かった

 

  今季シニアデビューしたイザボー・レヴィト(アメリカ)は、そんな現状に適応した強さをみせたといえるだろう。大技は持っていないものの、跳ぶ選手が限られる3回転ルッツー3回転ループを武器にしており、またジャンプの前後に凝った動きを入れられる能力を持つ。まだ16歳とは思えない情緒豊かな滑りも強みで、グランプリファイナルでは銀メダルを獲得。世界選手権でも表彰台まであと一歩の4位に入っており、多くの名スケーターを輩出してきたアメリカ女子を牽引する存在となっている

 

  また、昨季の世界選手権銀メダリストであるルナ・ヘンドリックス(ベルギー)も安定した強さをみせた。欧州選手権で銀メダル、グランプリファイナルと世界選手権では銅メダルを獲得。23歳のヘンドリックスにはダイナミックなジャンプと成熟した滑りがあり、大人のスケーターとして長く活躍してくれることを期待したい

 

  シーズンが進むにつれて調子を上げ、四大陸選手権で優勝、世界選手権でも銀メダルを獲得したのは18歳のイ・ヘイン(韓国)だ。伸びやかな滑りと安定感のあるジャンプを武器にする彼女の強さは、ジュニア世代にも優れた選手がひしめく韓国女子の充実ぶりを象徴しているともいえる

 

  実力はありながら難病や体調不良で苦しんできた三原舞依にとり、今季は飛躍のシーズンとなった。グランプリシリーズで連勝し、初出場したグランプリファイナルでも優勝、ついに世界の頂点に立っている。世界選手権では万全の状態ではなく5位という成績だったが、名実ともに世界トップクラスのスケーターとなって臨む来季こそ、シーズンの最後まで本来の滑りをみせてくれるだろう

 

  昨季北京五輪銅メダル、世界選手権優勝という最高の結果を残した坂本花織は、今季序盤は重圧に苦しんだ。しかし5位に終わったグランプリファイナルをきっかけに気持ちを切り替え、全日本選手権で優勝、世界選手権でもミスを引きずらない強さをみせて連覇を果たしている。ショート・フリーともに新たな振付師に依頼して表現の引き出しを増やしたシーズンでもあり、来季はどんな坂本がみられるのか、楽しみでならない

 

日本のカップル競技にとって歴史的なシーズン

  そして、今季は日本の弱点といわれてきたカップル競技が大きく前進した画期的なシーズンでもあった

 

  アイスダンスでは、全日本選手権で優勝した村元哉中/高橋大輔が世界選手権に出場。目標としていたトップ10入りにわずかに届かず11位となったが、会場のさいたまスーパーアリーナを包んだ熱気は二人の魅力によるものだろう。村元/高橋は今年5月に現役引退を表明したが、日本のアイスダンスへの関心が今後も続くことを願う

 

  そして、ペアでは三浦璃来/木原龍一がついに世界選手権の金メダルを獲得した。グランプリファイナル、四大陸選手権でも優勝している二人は、日本勢として初のシーズングランドスラムを達成。日本の歴史に名を刻んだ三浦/木原だが、今もなお向上心を持って前進し続けている。二人を目標とする日本のペアが、後に続くことを期待したい

 

  カップル競技でも好成績を残した今季は、日本が真のフィギュアスケート大国への道を歩み始めたシーズンだったといえる。コロナ禍を経て、ようやく会場にも熱気が戻ってきた。来季も、世界中のスケーターが氷上で繰り広げる華麗な戦いから目が離せない