『進撃の巨人』を表現する三浦佳生、″苦手”に挑む友野一希  ハイレベルな日本男子は、今季も強さを磨く

『足がつりそう』三浦佳生のハードな新プログラム

  翌日から2023-24シーズンが始まる6月30日、横浜で行われた日本代表エキシビション『ドリーム・オン・アイス』では、選手達が新プログラムを披露した

 

  昨季は四大陸選手権と世界ジュニア選手権を制した18歳の三浦佳生は、フリープログラム『進撃の巨人』(シェイ=リーン・ボーン氏振付)を勢いよく滑り切った。自分を例えるなら『進撃の巨人』ではどのキャラクターか問われ『自分はすごいスピードがあって、突進していくような感じなので、ライナーかなと思います』と語る三浦は、自らの強みをよく分かっているようだ

 

  振り付けの際には、それぞれの曲が使われている部分の動画をボーン氏に見せながら、一緒にプログラムを作り上げたという

 

『ところどころキャラ(クター)のシーンも入ってきて、いろいろな場面があって、面白いプログラムになっています』

 

  演技を終えた三浦は、観客が立ち上がって拍手を送る中、膝に手をついて疲れた様子をみせている。終演後、三浦は『足がつりそうなぐらい疲れていて』と振り返った

 

『とにかく、最後のコレオシークエンスも本当に足が動かない感じだったので、そこがまず一つ課題。ジャンプは全然本来の構成でやっていないので、それできついということは本来の構成でやったら死んでしまう。死なないように、今から特訓していきます』

 

  今季の目標を問われた三浦は、昨年ショート13位と出遅れたことが響いて6位に終わった全日本選手権での雪辱を誓っている

 

『今シーズンは、去年悔しい思いをした全日本選手権でしっかり表彰台に乗って。もう優勝する気持ちでしっかり練習を積んでいって、世界選手権につなげていけたらいいなと思います』

 

  ポテンシャルの高さは世界でも有数の三浦がどの試合でも実力を発揮できるようになれば、さらなる高みに達するだろう

 

スケーティング技術が問われる友野のショート

  昨季世界選手権6位の25歳友野一希が新しいショートプログラムで使用する『Under ground』は、不思議な印象を与える歌詞に深い意味が含まれている曲だ

 

『歌詞だけを見ると電車にひかれた人の話なのですが、裏の意味があって。人生や恋愛の素晴らしさを表現している曲で、そういった部分を表現できればと思います』

 

  この『Underground』で目指すのは『少し余韻が残るような、今までとは違った印象』だという

 

『静まり返るような、でその後に″ワーッ”となるような、そんな反応が理想かなと思います』

 

『Underground』を歌うコーディー・フライは、友野がいつかプログラムで曲を使いたいと考えていたアーティストだという。また、ここ2シーズンはショート・フリーともにミーシャ・ジー氏が振り付けていたが、新たな挑戦をしたいと考えた友野がジェフリー・バトル氏に振付を依頼。憧れの存在だったというバトル氏が手がけた『Underground』は、友野の念願がかなって生まれた作品だといえる

 

  踊り心がある友野は、今までは曲の盛り上がりに合わせて細かくステップを踏んでいく印象が強かった。しかし緩やかな旋律が続くこの『Underground』では、常に一蹴りで長く移動することに心を砕いているようにみえる。友野自身、『今までとは違った伸びやかで少しダイナミックな印象なので、そういったスケートを見せられたらいいなと』『シンプルな振付で、だからこそスケーティング技術のごまかしがきかないプログラムになっている』と語る

 

  友野は、今季はショートだけでなくフリーも『自分の苦手とする部分が出るプログラム』だと明かした。『今年はあえてそういった曲を選んでいます』という

 

『何年もシニアでやってきて、いろいろ自分の強さも分かってきて、さらにもっともっと成長したいなと思った』

 

  友野が挙げた自らの弱点は、″ポジションの正確さ” ″ボディコントロール” ″フリーレッグ(氷についていない足)”、そして″スケーティングの伸び”である

 

『一年を通してそういったものがしっかり出るようなプログラムをやることで、しっかりその弱点を克服して、成長していければいいなと思っています』

 

  現在、友野は基礎練習に力を入れているという。完成度の高いスケーターになるという夢へ近づくため、自ら選んだ道

 

  ジュニア時代にはジュニアグランプリシリーズの選考で漏れる悔しい経験もしている友野は、常に自分を分析して強みを伸ばし、また弱点を克服した結果、今の立ち位置まで上がってきたのではないだろうか。この日の公演でも、選手席で他の選手の演技をたくさん見ていたことについて問われると、友野は『シンプルに楽しいっていうのもありますし』と答え、言葉を継いだ

 

『それぞれみんなが滑っているのを見て、どういったところがその選手の強さだったり学べるところだったり、逆にどういったところが足りないのかなっていうのも…分析しながら観ているわけではないですが、とにかく楽しんで観ていましたね』

 

  そのクレバーな視線は、友野自身にも向けられているのだろう

 

『この次は、世界の舞台でメダルをとるだけだと思っている』と友野は意気込む

 

『全試合で表彰台に乗れるように。そういった気持ちで、一つひとつ大切にこなしていきたいなと思います』

 

  体力の限界に挑む三浦、そして弱点克服を目指す友野が、今季も日本男子のレベルを押し上げていく