今年のNO.1になるかも知れない小説らしい小説。よくこんなことが考えられるなあという設定に、静謐で耽美な文章、どこかしらに必ずうならせる文章があり、『人間の存在=他者との記憶の共有』という真理を紡いでいく。だが根底にある喪失感はずっと変わらない。ら物語の底で静かに流れる哀しみがラストでは解き放たれてホッとする。現代版「浦島太郎」の逆バージョンという感じかな。お薦めです。

★★★★★

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宇宙飛行士・甘南備俊介は、木星衛星探査船でのミッション中、太陽面爆発による事故に遭遇する。事故時に人工冬眠に入っていたため、58年9ヵ月後に奇跡的に救出され、地球に生還した。姿かたちは出発時の33歳のままだが、記憶は断片的にしかなく、愛する妻・葵はすでに他界していた。担当医務官、橘ムラサキが彼の復帰を助けるが、訓練が進むうち、甘南備は橘の不思議な挙動に気付く。彼女はいったい何者なのか―。