冒頭の0章で「なんだかスゴイ」と引き込まれ、1章からすこし辛抱が続き、低体温のまま読み進めることになるがジワジワと引き込まれる。語り手が誰なのかわかっていないと辛くなるが、

人間の肉体と意識の分離の認識に、神学問答が加わった内容なので仕方なし。作家(ぼく)、死刑囚(おれ)、教誨牧師(わたし)、作家の父親(わたし)の語り手が故人の意識を理解する度に入れ替わる。先の語り手が理解を示すと、次の語り手はその反証や前の語り手の思い違いを指摘してきて、箱庭的な時間軸のブレを感じる様になる。科学的な見方にくみしたいのに神学的な見方にも魅力を感じてしまう。 難しかったけど面白かった。

★★★★☆

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長野県松本で暮らす作家のぼくは、連絡がとれない父・伊郷由史の安否を確認するため、新潟の実家へと戻った。
生後三カ月で亡くなった双子の兄とぼくに、それぞれ〈文〉〈工〉と書いて同じタクミと読ませる名付けをした父。
だが、実家で父の不在を確認したぼくは、タクミを名乗る自分そっくりな男の訪問を受ける。
彼は育ての親を殺して死刑になってから、ここへ来たというのだが……
神林長平、三十六年目の最新傑作にして最大の野心作。