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ド少女文庫

編集者&ライター・粟生こずえによる、少女漫画・小説をはじめ少女ごのみのあれこれを語るド少女魂燃焼ブログです。

「デビュー50周年記念 くらもちふさこ展  ―デビュー作から「いつもポケットにショパン」「天然コケッコー」「花に染む」まで―」

弥生美術館で開催中の原画展をやっと見てきました。展示替えアリの、第4期に入っております。

 

 

私が最初にくらもちふさこの作品に触れたのは、『赤いガラス窓』。

姉の友達の家にあった「別冊マーガレット」に掲載されていたのでした。

主人公は、想いを寄せる人が監視員をしているプールが見える喫茶店でバイトを始めます。

喫茶店の窓ガラスは赤と青に分かれているーーという設定がなんとも印象的です。

 

展示の解説によると、くらもち先生は赤と青のカラーを使うことが多いそうで

「まさに初期からそうだったのか!」と思いましたね。

 

ちなみに、↓この号ですね。

『故国の歌は聞こえない』(河あきら)、『風と緑と青い空』(大谷博子)を読んだことも

よく覚えています。

 

当時、小学低学年の私にとって『赤いガラス窓』の何がそんなに鮮烈だったかというと、

それは「赤いガラス窓ごしに好きな人を眺める」というロマンティックさです。

ただそれだけと言ってしまうとそれまでなのですが

恋というのは「見つめる」ことで。

 

考えてみるとくらもち先生の作品って、

主人公が人を「見つめる」ときの心情の描き方がとても臨場感があるのです。

 

うろ覚えなのですが……。

『おしゃべり階段』で主人公の加南が、バスケットをやってる線を遠巻きに見つめて

(見て、私の好きな人は、あの人よーー!)と心の中だけでつぶやくモノローグがあったと思うのですが。

(間違ってたらすみません。あるはずのコミックスが見つからず…。)

片想いなんだけど、胸の中で恋する喜びの感情がふくらんでいるような

あの感情を、なんて見事に描いているのだろうと。

 

 

それにしても、原画は圧倒されるような素晴らしさでした。

ファッション性の高さはもちろん、色使いや表現技法のこだわり。

 

心情を表す画面構成、背景効果の表現などについてはよく言及されています。

『赤いガラス窓』を読み返してみると、ときに劇画っぽいと思えるような効果もあったりしてちょっと驚きました。

 

こちらは原画展に合わせて刊行された『THEくらもちふさこデビュー50周年記念画集』(集英社)。

書店でも入手できます。

 

この展示の図録といえる内容です。

『いつもポケットにショパン』のカラーカットで

「劇画っぽくて少女まんがらしいタッチではなかったため、描いた当初は掲載には至りませんでした」

と解説説されている小さいカットが載っていまして。

つくづく、いろいろなタッチに挑戦されていたのだなと。

 

初期から近年の作品までの原画を一気に見ると、

くらもち先生がいかに意思的に絵を変えてきたかが感じられます。

画風、タッチだけではなく、もちろんストーリーにしてもですが

「変わる」というより、意図的に「変えてきた」のではないでしょうか。

みずみずしい挑戦心を感じて、気が引き締まるような感動を覚えました。

 

 

改めて考えてみると、くらもちふさこの(読み手から見たときの)ポジションというのは

なかなかに独特な気がします。

重厚な読み応えを望むややマニアックなタイプの読者にも、

ざっくり言うとマンガをあまり作家で選ばないタイプのライトな読者にも愛されている

稀有な作家だと思うのです。

 

コミックス『赤いガラス窓』に収録の、同時期の短編『いちごの五月館』も思い出深い作品です。

舞台は、まんが家姉妹が経営している会員制の貸本屋。

(くらもち先生姉妹がモデル⁉︎)

 

やって来る人たちは閲覧室の壁や床に「好みの人のタイプ」を思い思いに書きつけています。

この貸本屋でバイトをしているヒロインは、絵本を描くのが趣味。

本棚の中に、自作の絵本をまぎれこませ

こっそりと「求む わたしの絵本を気に入ってくれた人」と書いたりするんですね。

 

私はこのシチュエーションが気に入って、

かなりまんま、マネっこしたお話を書いたりしたような……。

 

さて、ヒロインの描いた絵本はこんな感じなのですが。

この「笑わない女の子

「りりあん 」という名前で当時の「別冊マーガレット」の公式キャラクターになっているんですね。

りりあんがプリントされたトートバッグの全員プレゼントの記事が、図録にも掲載されています。

 

『わずか1小節のラララ』や『いつもポケットにショパン』などについても書きたかったのですが

またの機会に。