殿下に敦賀を与えられ、まだひと月も経たないというのに、今、駿府にいる。

 関東の北条のせいである。


 北条は、当主氏直殿が上洛する予定であった。

 その条件として上州沼田領を要求し、殿下はそれを認めた。

 ただし、その時の領主であった真田殿のために、沼田領の中でも名胡桃だけは真田家のものとした。


 ところがこの度、北条が名胡桃を攻め、これを奪った。

 これに対し、殿下はたいそうお怒りになった。

 だが、すぐさま北条を攻めるわけにはいかなかった。

 北条のいる小田原と大坂の間には徳川殿がいる。

 その徳川殿の娘が北条家の当主氏直に嫁いでいるのだ。


 そこで、徳川殿の家臣である榊原殿の娘を妻にもつ私が、徳川殿に協力を求める使者として駿府に来たのだ。

 とはいえ、直接徳川殿にも会うわけにもいかず、岳父である榊原殿を説得しようと思っていたところ、榊原殿のお屋敷に徳川殿が直接お越しくださり、協力を受け入れてくださった。

 まずは、北条氏直殿に殿下への謝罪をするよう申し付けるとの事であった。

 これが上手くいけば、小田原まで軍を出すこともないのだが、北条殿が受け入れるかどうかは疑問である。