いよいよ出陣の命が下っている。
軍の総勢は三十万にも及ぶ。
先陣は小西行長殿と加藤清正だ。
この国で戦うのなら、絶対に負けはしないであろう。
しかし、戦地は海の向こうである。
朝鮮はまだしも明と戦うことには無理があるように思えてきた。
この度、軍奉行を任された我らは、殿下と供に、博多の商人である神屋宗湛殿に招かれた。
茶会が開かれたのであった。
神屋殿が立てた茶に殿下が口をつけ、私のところにまわって来た。
そこで不覚にも、くしゃみをしてしまった。
私の鼻水か碗の中に入ってしまった。
石田治部はそれを見ているし、私の病のことも当然知っている。
私が飲んだ後、石田にまわった碗をどうするのか、とにかく不安であった。
病の感染を恐れ、碗をつき返すことも考えられた。
しかし治部は、何事もなかったようにその碗に口をつけ、茶を飲んだ。
嬉しかった。
治部が身を持って、私に恥がかかるのを防いでくれた。
治部がこれほどの男であるとは思っていなかった。
この男を生涯の友としたいと思った。