不正競争行為における混同性 | 知財アラカルト

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令和元年(2019年)8月29日知財高裁4部判決
平成31年(ネ)第10002号 不正競争行為差止請求控訴事件

 

控訴人(原告):住友ベークライト

被控訴人(被告):日本コヴィディエン

 

 本件は、被告の商品(医療機器)は原告の商品形態に類似し、被告が該商品を製造販売することは混同惹起行為に該当するとして、原告が不正競争防止法に基づきその差止を請求したところ、一審東京地裁では原告商品の周知性、原告被告商品の類似性認められたものの、混同性認められず請求棄却となった判決の控訴審事件に関するものです。二審の知財高裁では、地裁の判断と同様に、周知性、類似性を認めた上で、地裁の判断とは反対に混同性についても認め、原告の逆転勝訴となりました。本件は、医療機器という言わば専門的な商品に関するものですが、そのような商品の混同性を考える上で参考になる判決ではないかと思います。

最高裁HP:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=88902

 

(1)事件の概要
①本件は,下記写真左の原告商品(携帯用ディスポーザブル低圧持続吸引器のうち排液ボトル及び吸引ボトルで構成されているもの。医療機器)を販売する控訴人が,下記写真右の被告商品(携帯用ディスポーザブル低圧持続吸引器のうち排液ボトル及び吸引ボトルで構成されているもの。医療機器)を販売する被控訴人に対し,控訴人の商品等表示として需要者の間に広く認識されている原告商品の形態と類似する形態を有する被告商品の販売は,原告商品と混同を生じさせる行為であるから,不正競争防止法2条1項1号不正競争に当たる旨主張して,同法3条1項及び2項に基づいて,被告商品の譲渡等の差止め及び廃棄を求める事案。

     (原告商品)                  (被告商品)

②原判決(東京地裁)

 原告商品の形態が控訴人の商品等表示として需要者の間に広く認識されていること,被告商品の形態が原告商品の形態と類似することは認められるが,被控訴人による被告商品の製造販売行為は,原告商品と「混同を生じさせる行為」に当たると認めることはできないから,同法2条1項1号の不正競争に当たると認められない。控訴人の請求をいずれも棄却。

③争点

1)不競法2条1項1号の不正競争の成否(争点1)
 ア 原告商品の形態が周知な商品等表示といえるか(争点1-1)
 イ 原告商品の形態と被告商品の形態とは類似するか(争点1-2)
 ウ 被告商品の販売は原告商品と「混同を生じさせる行為」に当たるか(争点1-3)
2)不競法2条1項2号の不正競争の成否(争点2)(新たな主張)

 

(2)裁判所の判断

 裁判所は、一審東京地裁と同様に、原告商品の周知性、及び原告被告商品の類似性を認めた上で、原告被告商品における混同性については、概ね次のように判断し、一審東京地裁とは異なる判断を示しました。

4 争点1-3(被告商品の販売は原告商品と「混同を生じさせる行為」に当たるか)について
 (1) 原告商品の形態は,控訴人が昭和59年に「SBバック」の商品名で原告商品の販売を開始した当時から,他の同種の商品と識別し得る独自の特徴を有していたものであり,その後被告商品の販売が開始された平成30年1月頃までの約34年間の長期間にわたり,他の同種の商品には見られない形態として,控訴人によって継続的・独占的に使用されてきたことにより,少なくとも被告商品の販売が開始された同月頃の時点には,需要者である医療従事者の間において,特定の営業主体の商品であることの出所を示す出所識別機能を獲得するとともに,原告商品の出所を表示するものとして広く認識されていたこと,原告商品と被告商品は,同一の形態に近いといえるほど形態が極めて酷似し,被告商品の形態は,原告商品の形態と類似する。
 そして,医療機器の取引プロセス等に係る取引の実情として,①医療機関が医療機器を新規に購入する場合,医療従事者が,医療機器メーカー又は販売代理店の販売担当者から,商品説明会等で当該医療機器の特色,機能,使用方法等に関する説明を受けた後,臨床現場で当該医療機器を1週間ないし1か月程度試行的に使用し,使い勝手,機能性等の評価を経た上で新規採用を決定し,医療機器メーカー又は販売代理店に対して当該医療機器を発注することが一般的であり,一定の病床数を有する医療機関にあっては,医師,看護師その他の医療スタッフから構成される「材料委員会」が開催され,その構成メンバーによる協議を経て,当該医療機器の新規採用が決定されているが,一方で,個人病院や病床数が少ない医療機関にあっては,材料委員会が開催されることなく,医師の意向により新規採用が決定される場合も少なくないこと,②医療機関が従前から使用している医療機器を継続的に購入する場合,各種医療機器の画像,品番,仕様,価格等が記載された医療カタログに基づいて,医療機器メーカー又は販売代理店の販売担当者に対して品番等を伝えて発注し,また,インターネット上のオンラインショップで購入する場合があること,③消耗品等の比較的安価な医療機器については,医療機関が新規に購入する場合においても,医療カタログに基づいて医療機器メーカー又は販売代理店の販売担当者に対して品番等を伝えて購入したり,オンラインショップで購入することもあること,④医療機関においては,用途が同じであり,容量等が同様の医療機器については,一種類のみを採用し,新たな医療機器を一つ導入する際には同種同効の医療機器を一つ減らすという「一増一減ルール」が存在するが,「一増一減ルール」は,主に大学病院,総合病院等の大規模な医療機関において採用されており,小規模の医療機関においては,各医師がそれぞれ使いやすい医療機器を使用する傾向が強いため,そもそも「一増一減ルール」が採用されていない場合があり,また,「一増一減ルール」を採用している医療機関においても,徹底されずに,医師の治療方針から特定の医師が別の医療機器を指定して使用したり,新規の医療機器が採用された後も旧医療機器が併存する期間があるなど,同種同効の医療機器が複数同時に並行して使用される場合があり得ること,⑤バーコードで医療機器を特定して発注や在庫管理を行い,また,医療機関で使用される物品の発注,在庫管理,病棟への搬送などのサービス(SPD)を事業者に委託している医療機関もあるが,全ての医療機関において,このようなバーコードを利用した医療機器の発注,在庫管理やSPDの委託を行われているわけではなく,SPDの委託率も決して高いものではないこと,⑥原告商品及び被告商品は,消耗品に属する医療機器であり,カタログ販売のほかに,商品画像とともに,品番,型番,価格等掲載されたオンラインショップ(「アスクル」のウェブサイト)による販売が行われていることなど,両商品の販売形態は共通していることが認められる。
 以上を総合すると,原告商品の形態が,控訴人によって約34年間の長期間にわたり継続的・独占的に使用されてきたことにより,需要者である医療従事者の間において,特定の営業主体の商品であることの出所を示す出所識別機能を獲得するとともに,原告商品の出所を表示するものとして広く認識されていた状況下において,被控訴人によって原告商品の形態と極めて酷似する形態を有する被告商品の販売が開始されたものであり,しかも,両商品は,消耗品に属する医療機器であり,販売形態が共通していることに鑑みると,医療従事者が,医療機器カタログやオンラインショップに掲載された商品画像等を通じて原告商品の形態と極めて酷似する被告商品の形態に接した場合には,商品の出所が同一であると誤認するおそれがあるものと認められるから,被控訴人による被告商品の販売は,原告商品と混同を生じさせる行為に該当するものと認められる。
 (2) これに対し被控訴人は,①医療機関においては,多数の医療従事者が関与し,試用期間を設けて商品の機能や安全性等に着目して慎重に医療機器の選定が行われ,製品名や規格等に着目して販売代理店を通じた発注や物品の管理が行われるのであるから,通常,医療機器の購入に際して,商品の形態に着目したり,形態を手がかりに商品が購入されることはなく,このことは,医療機器カタログやオンラインショップを通じて医療機器が購入される場合であっても同様であること,②医療機関が臨床での試用や機能性等の評価を経て採用した商品を継続購入する場合は,医療機器カタログやオンラインショップを通じて購入するが,医療機関においては,商品名や品番等により採用している医療機器と同一の医療機器を発注するよう管理しており,商品の形態だけを見て発注することはないし,カタログ購入やオンラインショップ購入の場合でも,これまで医療機関が発注したことのない医療機器が新たに発注されたときには,必ず医療機関に連絡を行い,試用を勧めることが通常であること,③原告商品と被告商品がオンラインショップ等で同一の機会に販売されることがあったとしても,そもそも,医療従事者は商品形態には着目しない上,オンラインショップにおいては商品の商品名及び製造販売元等が明記されているのであるから,医療従事者が,その形態のみから,原告商品と被告商品の出所を誤認混同することはないこと,④医療機関においては,用途が同じであり容量等が同様の医療機器については一種類のみを採用するという,いわゆる「一増一減ルール」が採用され,一つの医療機関又は診療科において,原告商品と被告商品が同時に採用されるといった事態は生じ得ず,医療従事者が原告商品と被告商品を取り違えたり,使用方法を誤るといった事態の発生を想定することができないし,仮に単一の医療機関において同種の複数の医療機器が同時に用いられることがあったとしても,原告商品及び被告商品にはそれぞれ商品名及び会社名が明確に表示されている上,原告商品及び被告商品は,控訴人及び被控訴人のそれぞれが製造販売する専用のカテーテル以外に接続することができない専用設計品となっており,相互に互換性がなく,このことは添付文書等からも確認できるから,実際の発注や使用において両商品の取り違えが生じることはないこと,このような取引の実情を踏まえると,需要者である医療従事者において,原告商品の形態及び被告商品の形態に基づいて商品の出所の同一性について混同が生ずるおそれはないから,被控訴人による被告商品の販売は,原告商品と混同を生じさせる行為に該当しない旨主張する。
 しかしながら,上記①ないし③の点については,原告商品の形態は,控訴人によって約34年間の長期間にわたり継続的・独占的に使用されてきたことにより,需要者である医療従事者の間において,特定の営業主体の商品であることの出所を示す出所識別機能を獲得するとともに,原告商品の出所を表示するものとして広く認識されていたことに照らすと,医療従事者が,原告商品の形態に着目して,医療機器カタログやオンラインショップを通じて医療機器が購入する場合もあり得るものと認められる。また,バーコードで医療機器を特定して発注や在庫管理を行い,また,SPDを事業者に委託している医療機関もあるが,全ての医療機関において,このようなバーコードを利用した医療機器の発注,在庫管理やSPDの委託が行われているわけではなく,SPDの委託率も決して高いものではない
 上記④の点については,小規模の医療機関においては,そもそも「一増一減ルール」が採用されていない場合があり,また,「一増一減ルール」を採用している医療機関においても,徹底されずに,医師の治療方針から特定の医師が別の医療機器を指定して使用したり,新規の医療機器が採用された後も旧医療機器が併存する期間があるなど,同種同効の医療機器が複数同時に並行して使用される場合があり得ることからすると,「一増一減ルール」が存在するからといって,原告商品の形態と極めて酷似する被告商品の形態に接した場合には,商品の出所が同一であると誤認するおそれがあることが否定されるものではない。また,原告商品及び被告商品は,控訴人及び被控訴人のそれぞれが製造販売する専用のカテーテル以外に接続することができない専用設計品となっており,その点においては相互に互換性がないとしても,そのことから直ちに原告商品又は被告商品を購入する際に両商品の形態が極めて酷似することにより商品の出所が同一であると誤認するおそれがあることが否定されるものではない。
 したがって,被控訴人の上記主張は理由がない。

5 まとめ
 前記によれば,被控訴人による被告商品の販売は,不競法2条1項1号の不正競争に該当するものと認められる。そして,控訴人は,被控訴人の上記不正競争行為によって,原告商品の販売に係る営業上の利益を侵害されているものであるから,不競法3条1項に基づいて,被控訴人に対し,被告商品の譲渡,引渡し,又は譲渡若しくは引渡しのための展示,輸入の差止めを求めることができ,また,同条2項に基づいて,被控訴人に対し,被告商品の廃棄を求めることができるものと認められる。一方,被告商品の製造については,同法2条1項1号が「製造」を「不正競争」として規定していないこと,本件においては,同法3条1項及び2項に基づいて被告商品の製造の差止めを請求できる根拠についての主張立証がされていないことに鑑み,控訴人の被控訴人に対する被告商品の製造の差止請求は認めることはできないというべきである。なお,同法2条1項2号が「製造」を「不正競争」として規定していないことからすれば,控訴人主張の同号の不正競争に係る被告商品の製造の差止請求についても,これと同様である。

 

(3)コメント

①本事件は、不競法2条1項1号ないし2号に基づく侵害性に関する争いですが、原告商品(形態)に関して意匠権や商標権があれば、そちらの知財権で保護を求めるのが合理的・簡便であるところ、いずれも有しないことから不競法での争いになったと思われます。ただ、不競法の場合、意匠権や商標権と異なり、周知性(著名性)、類似性、混同性といった要件事実の主張立証が必要となり、一般にハードルが高いものとなります。一方、意匠権や商標権では、せいぜい類似性のみが問題となりますが、意匠権は有限ですし、商標権は、本件のように容器(立体)の場合、使用により周知性を獲得していないと、自他識別性ありとして登録要件(3条)をクリアーすることが難しいものがあります。なお、本件の原告商品の場合、裁判所で周知性が認められていますので、立体商標としての登録の可能性はあると思われます。

 

②本事件は、主に不競法2条1項1号の該当性が争われました。その場合、まず、対象物が商品等表示であることが必要ですが、本件の場合、原告商品の「容器」の形態が対象であり、当該条文の括弧書きにも例示されている通り、「容器」は文言上、商品等表示に該当します。

 そして、商品等表示であっても、単なる容器であれば、通常、識別性はなく保護に値しないのですが、長年の使用により周知となり識別性ないし出所表示機能を獲得する場合があります。そうなればそこに化体した信用(財産的価値)を保護してやる必要性が出てきます。本事件では、原告商品の容器は、長年の使用により周知となり識別性を獲得していることが地裁・高裁共に認めています。即ち、原告商品の容器(形態)は、セカンダリーミーニング(使用による識別性)を獲得したいわゆるトレードドレス(知財権の一種)ということができます。

 

③不競法2条1項1号による保護を受けるためには、続いて、原告商品と被告商品との類似性が必要となりますが、本事件の場合、上記写真からも明らかと思われますが、原告・被告商品は酷似しており、この類似性についても地裁・高裁共に認めています。

 

④地裁・高裁で判断が分かれたのは、不競法2条1項1号の必要要件である「混同性」の有無です。地裁はこれを否定し、知財高裁はこれを肯定しました。この点につき、同種同効の一般の商品同士であれば、周知性と類似性とが認められれば、混同性もほぼ自動的に認められても不思議ではないと思います。

 一方、本件の商品はいわゆる「医療機器」であって、その取引者・需要者医師や看護師といった医療機関であり、高度の専門性と注意義務を有している者です。そのため、概ね、まずは商品を見誤るようなことはないであろうし、混同が生じないようシステム化されているであろうと想像されます。100%完全に混同しないとは言えないかもしれないが、そのような高度の専門性と注意義務を有している者が需要者であれば建前的に「混同性」なしと考えられるという判断もあるかもしれません。これが地裁の判断のように思われます。これに対して知財高裁は、医療機関といっても大病院や個人病院など色々なレベルがあり、本件商品が消耗品であることなども考慮して、僅かかもしれないが、混同が生じうる可能性を見捨てず、「混同性」ありと判断されたように思われます。よりプロパテント的であると思います。この結論には特に異論ありません。

 高度の専門性と注意義務を有する者が需要者である医療機器のような商品でも混同性が認められていますので、同種同効で消耗品である商品であることを前提として、原告商品が周知であり、原告被告商品が類似していれば、混同性が認められない場合は、ほぼ皆無ではないかと思われます。

 

⑤但し、周知性のある原告商品(形態)について、類似する他社の商品の排除をいつまでも認めるか(半永久か)という問題があるように思われます。いつまでも認めれば、価格競争を阻害し、良い後発品ないし先発品と同等な後発品を安価に消費者(患者)に届けることが困難になるおそれがあるからです。そのバランスを考慮する必要性があることも場合によりあるように思います。そのために、一つは類似性の範囲を広く認めないことが挙げられるかと思います。

 尤も、本件商品の場合、他の同種同効の商品もあるようですから、デザインを工夫(デザインアラウンド)して原告商品と類似しないものにすることが可能であったかもしれません。ただ、そうすると、使い勝手が悪くなるのかもしれませんし、原告商品での慣れを凌駕するほどのものを構築しがたいのかもしれません。

 また、どうしても容器の形態の類似性を回避しがたい場合、混同を防止する手立てを講じて、例えば、混同防止表示を行って、混同性の認定を積極的に回避する努力をすることも考えられるかもしれません。ただ乗りしていないことを暗に主張することにも繋がると思います。

 

⑥最後に、本事件では、「製造」の差止は、製造が不正競争と規定されていないこともあって認められていません。確かに、製造は不正競争とは規定されていませんが、製造は、侵害品の譲渡等を行うに際しての前段階の行為であり、侵害からの保護を充実させるためには、侵害品の「製造」に関し何らかの規制をかけることも一考かと思います。例えば、拙速ながら間接侵害行為として。

 

以上、ご参考になれば幸いです。