「俺さー、ひさしぶりに、クエバン、見たんだけど、いやー、久々に見ると、もう全然わかんなかった!」
一瞬、
クエバンってなんのこと。
って思ったのですが、すぐに思い出しました。
クエバンっていうのは、「クエスチョンバンク」の略で、
医師国家試験の過去問題を山ほどあつめた、
辞典並みの、めちゃんこ分厚い問題集のことです。
なにしろ、医師国家試験で出る問題っていうのは、
内科外科はもちろん、眼科も耳鼻科も麻酔科も救急科も産婦人科ももうとにかく、全科目におよぶのです。
そのため、医学部の学生は、高学年になると、必死で過去問を解き始めます。
ちょっとした「勉強会グループ」なんかを作ったりして、みんなで勉強します。
「後輩がもうすぐ国試受験でさ。
クエバンのわからないところがあるから教えてっていわれたんだけど、
問題読んで、選択枝見ても、選べない。
全部、不正解に見えたり、どれも正しく思えたり。
こんなのケースバイケースなんだよな。
状況によって、違うし」
私たちが学生だった頃、やっぱり同じように、
問題集を解いていてわからないところを、もうドクターになっている先輩に聞いたりしてたんですが、
同様のことを言われました。
臨床で、実際に患者さんを見ていると、一筋縄ではいかないんだよ、
・・・と。
その頃は、ふうんそんなものなのかなぁと思ってたのですが、
今、臨床の現場にいると、たしかに、そのとおりだと思います。
もはや、病気を治せばそれでいい、という時代ではなくなっています。
その典型例が、癌の治療です。
寿命が延びたのとともに癌も多くなってきました。
医療が進んで、むかしだったら命が助からなかったような癌でも、昨今は治療ができるようになりました。
すると考えなきゃいけないことは、心安らかに人生の終わりを迎えるにはどうすればいいかということ。
いわゆる、終末医療、緩和ケアなどです。
人それぞれ、考え方が違うので、むだな延命をしたくないという人もいれば、少しでも長く生きたいという人もいるでしょう。
でも、・・・誰しも、やがて命には終わりが来ます。
そのときを、できるだけ、安らいだ気持ちで、できるだけ心地よく迎えるために、
私たち医療者は、どんなことができるんだろう。
国試の過去問を見ながら、そんなことを考えていました。