「なんでやのん!」
と、ドアを壊さんばかりの勢いで開け、野球帽を目深にかぶったおじさんが入ってきました。
診察の順番が来たからふつうに名前を呼んだだけなのに、
なんでやのんとはなんでやねん!(゚∀゚;)
私は、一瞬ことばにつまって、かたまってしまいました。
「なんでこないに俺の順番が早いのや!」
うさこ「(゚∀゚;)・・・え、ダメでした?」
「待ち時間30秒やったで!」
うさこ「良かったじゃないですか!」
「それが、良ぉないのや!!」
おじさんは、阪神タイガースの白黒模様の野球帽を脱ぎすて、ぽんとかごの中に放り込みました。
「もーーーーーーー終わりや、今年の運は最悪や! もうアカン」
うさこ「・・・ハァ?
待ち時間が短かったら、最悪なんですか?」
「短すぎるのやーー! こないにタイミングがいいなんて、おかしすぎるっ」
おじさんは頭を抱え、心底困った表情をして椅子にどっかりと座りました。
「受付で診察券出してからここ来るまで、ほとんど待ってないんやで、椅子座るひまもあらへんかったんや・・・」
私はなんと返答していいか分からず、そりゃまーおつかれさまでした、と意味不明の返事をしました。
「だいたいナ、病院なんか来たら、待ち時間は1時間くらい。1時間くらいって、相場が決まっとんのや。これがアタリマエやねん」
うさこ「はぁ・・・」…(゜∀゜*)
「それが今日は何や、これ。何してますのんや! 」(`m´〃)
おじさんは、口角泡を飛ばす勢いで私に食って掛かってきました。
私は思わず身を引きました。
何してますのん、と言われても!(゚Д゚)
待ち時間が長くて怒られるんだったらわかるけど、短いって怒られるのは初めてです。
「俺ナ、今日、アレや、ほれ、auショップに行ったんや」
おじさんはそう言って、まあたらしい携帯を胸ポケットから取り出しました。
「これや。機種変更したんや、ナンボしたと思う!?」
おじさんはその携帯を私の眼前に突き出し、私が答えるのを待たずに、
「0円! ゼロエン、や! タダやったんや、タダより高いもんはないちゅうけど、タダや!
タダより安いものはないでおますな」
うさこ「えーー。0円、良かったですねぇ」
「それが今日からちょーーうど、セールが始まったんや。
俺はちょっとだけ新機種見に行こうと思って、見に行っただけやったのに、
今日からたまたま、新機種がゼロエンになったのや!」
うさこ「ラッキーだったじゃないですか~」
「らっきーや、むちゃくちゃらっきーやで俺。
んでな、ホレ、病院のまえに、屋台あるやんか、たい焼きの屋台ナ、あれや」
おじさんの瞳は真剣です。
「俺、たい焼き1個ちょうだいってゆうて、金払ろたんや。
んで焼きあがるの待ってたら、店の人が聞き間違えたんか勘違いかしらんけど、2個入ってたんや!」
うさこ「えーーっ! またまたラッキーじゃないですか!」
おじさんは我が意を得たり!とばかりに膝を打ち、
身を乗り出すように私につめより、
「せやろせやろ!なっ!! センセもそう思うやろ、むっちゃくちゃ、らっきーや! 俺」
と、ツバ飛ばしながら言いました。
「ほんで最後はコレや! 病院来たら待ち時間ゼロやで! 何してますのんや、どないなってますのや!」
(・・・要するに、今日はあまりにもツイててこわいというわけですな)
おじさんは再び頭をかかえました。
「コレで一年間の運を使い果たしてもぉた! まだ一月やのに、どないしてくれるんや!
これから一年おれ、宝くじ当たらんで! あ~どないしよ、もう世界は滅亡や!」
うさこ「・・・いやいや、またあたりますって。まあまあ落ち着いて、椅子に座ってくださいよ」
(なんちゅう激しい性格・・・)(゚∀゚;)
「こないなこともあるねんなぁ、落ち着いてなんかいられへんワ、センセも機種変更しなはれ。
今日からゼロ円や、病院終わったら早よ行っといで、auショップ!」
うさこ「いやーーー、私、auじゃないし・・」
と私が言うと、おじさんは、なにっ! と目を剥いて、
「auじゃない奴は死んだらええのや!!!」
・・・と、怒号しました。
・・・・・なんの殺気ですか。
死ぬって。なんですかそれ。やめてくださいって、病院で”死ぬ”とか怒鳴るのは!
いろんな意味で、びっくりしました。