【自主避難者から住まいを奪うな】「正式発表まで言えぬ」~ひた隠す福島県庁が避難者を翻弄 | 民の声新聞

【自主避難者から住まいを奪うな】「正式発表まで言えぬ」~ひた隠す福島県庁が避難者を翻弄

自主避難者向け住宅の無償提供打ち切り問題が浮上して間もなく1カ月。だが、国も福島県も口を揃えて「協議中」とくり返すばかり。福島県の担当者は直接取材に対し、「避難者は発表があるまで待ってろ」と言い放つ始末だ。当事者の意見を聴く公聴会の開催も拒否。避難者に寄り添うと言いながら、実際には密室で秘密裏に進められる避難者の切り捨て。声を荒げた県職員の姿が、すべてを物語っていた。


【「避難者の気持ちは分かっている」】

 「言えないものは言えないって言ってるじゃないですかっ」

 テーブルを叩かんばかりの勢いだった。福島県庁の5階。避難者支援課の一角で取材に応じた生活支援担当幹部は、わずか5分ほどの取材でもいら立ちを爆発させた。

 何度も尋ねた。「自主避難者は不安を抱えて推移を見守っている。国への協議書を既に提出したのか?それともいつ提出するのか」。幹部は「国との協議を進めていることは認めます。でもね、それ以上の事は言えないですよ」とくり返すばかり。「公になることでどのような支障があるのか」。私の問いに幹部は押し黙ってしまった。「来年の2月になって、いきなり打ち切りが発表されたら避難者はどうなりますか?」。幹部は答える代わりにこう言った。「私だってね、避難している方々の気持ちが分からなくて仕事をしているわけでは無いんですよ」。それなら詳細をきちんと避難者に伝えて、ていねいに協議を進めるべきだ。それこそ「避難者支援」のあるべき姿ではないか。そう畳み掛けると、幹部は冒頭のように怒った。「鈴木さんが何度も聴くからですよ」。まるで子どもの言い訳だ。

 「待つ身のつらさが分かりますか。あなたが逆の立場ならどう思いますか」。幹部は再び黙ってしまった。気持ちは分かる。避難者に寄り添うと言いながら、口をつくのは「言えない」「明かせない」ばかり。そしてとうとう、語気を強めてこう言い放った。

 「避難者は発表があるまで待ってろと言うのかって?そうです」

 これには言葉を失った。怒りを押し殺していると「国に尋ねてください。内閣府は何と言っているんですか?」とも。そして幹部は時計を見た。「打ち合わせがありますから」と席を立った。私は何度も言った。「あなたは避難者の気持ちなど何も分かっていない」。幹部は黙って聴いていた。
1434090407088.jpg
避難者支援課の幹部は「何も言えない。発表するま

で待ってろ」と言い放った=福島県庁


【「長いスパンで住宅支援を」】

 山形県子育て支援課とNPO法人「やまがた育児サークルランド」が協力して発行している情報紙「たぷたぷ」。今年3月31日に発行された第二号には、福島県福島市などから山形市や米沢市に避難中の母親らの座談会が掲載されている。「帰る、帰らないという話は(夫の前では)つい避けてしまう」、「きのこや山菜は食べさせないようにしている」、「できることなら働きたいが、子どもとの関わり、時間、場所など決めることができないでいる」など、本音が飛び交う。そして、住宅問題に関しても、2人の母親がこう話している。

 「住宅の補助は本当にありがたい。避難する、帰らないと決めるポイントとなっている」

 「1年、1年という期限でなく、もう少し長いスパンにはならないかなと思う。子どもの進学を決める時に悩んでしまう」

 米沢市の母親たちの苦悩も深刻だ。「避難について、もっと理解が深まればいいな」、「義理の母親に避難していることを大反対されている」、「子どもが土遊びをするうちは米沢にいたい」…。

 どの母親にも共通するのが、放射線被曝の危険性からわが子を守りたい。被曝の心配ない土地で思い切り遊ばせたいという思い。だが、政府は12日、「居住制限区域」と「避難指示解除準備区域」を2017年3月までに解除することなどを盛り込んだ復興政策の指針改定を閣議決定した。自主避難者向け住宅の無償提供も、避難指示解除と連動して打ち切られるとの見方が強まっている。

 「2020年の東京五輪までに避難者数をゼロにしたい」という国の思惑も漏れ伝わってくる。自主避難者を〝兵糧攻め〟にして帰還を促すのに必死な国と行政。しかし、実際にウクライナやベラルーシを視察した田村市の原木シイタケ農家は、福島を離れた母親たちの不安に理解を示す。

 「空間線量は確かに下がった。原発事故直後、福島市は20μSv/hもあったからね。でも、土壌をきちんと測らなきゃ。それも㎡当たりの汚染をね。そうしたら、まだまだ汚染なんか解消されていないことがはっきりする。そんな状態で帰還を促したって帰るわけないよ」
1434090489049.jpg
福島市などから山形県に避難した人々の座談会が

掲載された情報紙。住宅支援について「もう少し長い

スパンにならないかな」と求めている


【「福島県は方針を語れ」】

 福島県富岡町から神奈川県に避難している坂本建さん(47)のハンガーストライキは13日で10日目を迎える。「支援を打ち切るかどうかは、自主避難者の声を聴いてから決めて欲しい」との思いから、抗議の意味も込めて水と塩分しか摂っていない。今月9日には避難者支援課に直接、申し入れたが、自主避難者と内堀知事との公聴会開催は「できない」、「難しい」と拒否されたという。

 「毎日、1キロずつ体重が落ちてます」と話す坂本さん。「全国の避難者からこれだけ要望が出されているのだから、県としての方針くらいは語るべきです。それすら話せないというのは何なんでしょうか」。

月曜日から、再び福島県庁前での座り込みを再開する。



(了)