【棄民にNO!】原発事故被害者が都心をデモ~住宅無償提供打ち切り撤回求めるも、復興庁は拒否 | 民の声新聞

【棄民にNO!】原発事故被害者が都心をデモ~住宅無償提供打ち切り撤回求めるも、復興庁は拒否

都心のサラリーマンやOLの目に、怒りの声をあげる原発事故被害者の姿はどう映っただろうか。想いは胸に響いただろうか。「謝れ!、償え!、保障しろ!」─。原発事故の被害者でつくる「原発事故被害者団体連絡会」(ひだんれん)が2日、都内で集会とデモを行い、国の棄民政策にNOを突き付けた。集会に先立って行われた政府交渉では、避難者向け住宅の無償提供打ち切り撤回を要求したが、復興庁の役人は拒否。4年後の東京五輪に向けて切り捨てられてはたまるかと、改めて団結と連帯と確認し合った。被害者として当然の権利主張すら聞き入れられない人々がいることを、忘れてはならない。



【「福島県民は切り捨てられて良い?」】

 なぜ被害者が都心をデモ行進しなければならないのか。なぜ、サラリーマンに耳をふさがれ、迷惑そうな表情で振り返られなければならないのか。原発事故から5年経ち、東京五輪を4年後に控え、被害者切り捨てが進行しているからに他ならない。
 デモに先立ち、午前10時から衆議院会館で開かれた政府交渉。復興庁や環境省などから役人がずらりと席を埋めたが、口をついて出てくるのは「復興」への取り組みのアピールと、除染の〝成果〟ばかり。「除染はほとんど終わっている」、「心の復興にも支援していきたい」、「先行調査で見つかった甲状腺がんは、放射線の影響とは考えにくいと評価されている」…。役人らが早口で現状報告を終えると、当然ながら当事者から手が挙がった。

 「福島県民は切り捨てられて良いんですか?原発事故は福島県民のせいですか?」

 福島県浪江町から兵庫県に避難中の菅野みずえさん(63)=原発賠償関西訴訟原告団=だ。

 「甲状腺を調べてもらったら、『癌だ、直ちに切った方が良い』と言われました」と話す菅野さん。周囲から「オラたちは、病院に行っても『何ともねえ』と切り捨てられてしまう」という声を多く耳にしているという。「福島県民、特に子どもたちが守られていない。子どもは国富じゃないですか。東京オリンピックのために戻すのですか?そっだらごとおかしいじゃないですか?」と語ると、会議室には「んだ、んだ」という声が響いた。
 いわき市から都内に避難中の鴨下祐也さん(47)=福島原発被害東京訴訟原告団=の質問にも、役人は誰も答えることが出来なかった。

 「除染が終わった終わったと言うけれど、原発事故前の土壌の数値はどのくらいなのか?事故前の何倍か把握しているのか?」

 そもそも国は、被害の実態を把握していない、把握しようともしていない。政府交渉に同席した「福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク」(SAFLAN)副代表の福田健治弁護士が「何度『県が』と言うか数えようと思ったが、途中でやめた」と呆れたように語ったが、国は積極的に避難者数を把握しようとしないばかりか、住宅支援についても「福島県が」、「福島県が」と何度もくり返した。

 あくまで住宅支援を打ち切ったのは自治体であって国ではないという姿勢。そのくせ、福島県が既に打ち出している、2017年3月末での住宅無償提供打ち切りについては「政府の方針は既に決まっていること」、「方針が変わるものではございません」と撤回を明確に拒否してみせる。SAFLAN事務局長の大城聡弁護士も、口調は静かだったが国の姿勢をこう批判した。

 「私の周りには、住宅支援の打ち切りを『分かりました』、『仕方ない』という避難者は1人もいない。子ども被災者支援法14条にもうたわれているように、避難者の皆さんがどう思っているのか、しっかり意見を聴いて欲しい」。同条には「施策の具体的な内容に被災者の意見を反映し、内容を定める過程を被災者にとって透明性の高いものにするために必要な措置を講ずるものとする」と記されている。しかし、実際には被害者の意見が反映されているとはとても言えない。安倍晋三首相も内堀雅雄福島県知事も、当事者に会おうともしない。

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(上)東電本店前でシュプレヒコールをあげる武藤類子

さん。「福島原告告訴団」の団長として、ようやく東電

旧幹部らの強制起訴にこぎつけた

(下)外堀通りをデモ行進する参加者。サラリーマンら

が振り返るなか、被害救済を訴えた

=東京都港区新橋


【「犯人が私らに命令している」】

 政府交渉の場では、「ひだんれん」共同代表の長谷川健一さん(飯舘村)が7項目にわたる緊急要請書を、安倍首相宛てに提出した。

 要請書では、避難者への住宅無償提供継続を求めているほか、年間追加被曝線量が1mSvをしたことが科学的に実証されるまで帰還を強要しないこと、「支援法」が定める避難・期間・居住の選択の権利を認め、「被曝を避けて生きる権利」を保障することなどを要求している。
 しかし、役人たちが用意した資料には、帰還を前提とした施策ばかりが網羅されていた。土壌測定をせず、空間線量だけであたかも汚染がなくなったかのように判断する。葛尾村から都内に避難している小島ヤス子さんは「根拠なく東京に来ているわけでは無いんです。犯人の側が勝手に私らに命令している」と怒ったが、どれだけ交渉の場を設けても、どれだけ被害者自ら怒りをぶつけても、霞が関の役人には届かない。交渉後、長谷川さんは「何の進展もなかった。がっかり」と肩を落としたが「これに負けてはいけない。国や東電は我々が声をあげることを嫌っている」と自らを奮い立たせるように話した。

 この日の政府交渉は「子ども・被災者支援議員連盟」の総会として行われたが、会長を務める荒井聡衆院議員(民主・北海道)が途中、「メディアがいると率直な意見交換ができない」との理由で取材者に退室を求め、避難者らと紛糾する場面もあった。

 「感情的なことがマスコミを通じて流れるのは良くない」と非公開を主張する荒井会長に対し、オープンにするべきだとの声が避難者や取材者からあがる。すると荒井会長は「私たちも命がけで法律(支援法)を作ったんですよ」、「ここは議員の総会なんですよ、間違えないでください」と怒鳴り出す始末。最後は、出席した国会議員らの挙手で取材を認めたうえで質疑応答が行われたが、支援法を制定したと威張る前に、荒井議員はこの5年間、支援法が原発事故被害者を守れなかった現実を真摯に受け止めるべきだろう。

 同議員は「災害救助法には限界がある。そろそろ議員立法で支援法を一部改正する時期に来た」と何度も口にしたが、立法を待つ間に、来年3月末には避難者向け住宅の無償提供は打ち切られてしまう。帰還困難区域以外の避難指示区域が解除されれば、さらに多くの「自主避難者」が生じる。「棄民」は目の前だ。立法を待つ猶予はない。鴨下さんもこう話す。

 「災害救助法は、住宅の無償提供打ち切りの根拠にはならない。それは福島県も認めている」
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(上)日比谷公会堂で開かれた全国集会では、「被害

者を切り捨てるな」と書かれたプラカードが掲げられた

(下)政府交渉で緊急要請書を手渡す長谷川健一さん。

住宅無償提供の打ち切り撤回を求めたが、役人の

回答は「NO」だった=衆議院会館


【「なくすべきは避難者数ではない」】
 日比谷公会堂で開かれた全国集会。

 京都に避難した宇野朗子さん(原発損害賠償京都訴訟原告団)は「避難の権利が認められないなど、あってたまるか。なくすべきは避難者数ではなく、被曝の強要です」と訴えた。「なぜ福島だけが年20mSvなのか」と語ったのは菅野秀一さん(南相馬・避難勧奨地域の会)。年1mSvでなく20mSvを基準値として住民を戻そうとする国の帰還政策を「東京オリンピックへの参加国が減らないようにするため、海外に日本の原子力の技術を輸出するためだろう。電力業界からの政治献金もある。まさに経済優先。原子力ムラがこの国を動かしている」と批判した。

 南相馬市から神奈川県横浜市に避難中の村田弘さんは「もう静かに怒るのはやめましょう」と呼びかけた。「先日、住民説明会のために小高区に帰ったら、小学校の国旗掲揚台に除染作業中のゼネコンの社旗がはためいていた」と話し、「(故郷の)山は青いはずだった。それが今はフレコンバッグの黒い山になってしまった」と悲しみを口にした。「知事は内堀だが、われわれは外堀を埋められようとしている」。

 原発事故から5年。ここに来て、国による切り捨てが加速している。原発事故当時の東電幹部らを相手取って集団刑事訴訟を起こし、検察審査会による強制起訴にまでこぎつけた武藤類子さん(福島原発告訴団)は「私たちは理不尽な被害を受けた被害者です。償えと言っているだけ。当たり前の事を言っているだけです」と語った。
 当たり前のことを何度訴えても、大声をあげても涙を流しても、聞き入れられない被害者が数多くいる。巨大地震への危機感も節電意識も薄れた都心で、果たして原発事故被害者への理解は深まっていると言えるだろうか。

 なぜ被害者が都心をデモ行進しなければならないのか。

 その一因は、あなたの無関心かもしれない。

(了)