【地震と原発②】新規制基準を見直すまで川内原発を無期限停止せよ!~「原子力市民委員会」が声明発表 | 民の声新聞

【地震と原発②】新規制基準を見直すまで川内原発を無期限停止せよ!~「原子力市民委員会」が声明発表

原発のない社会を目指すシンクタンク「原子力市民委員会」(吉岡斉座長=九州大学大学院教授)は17日午後、声明「熊本地震を教訓に原子力規制委員会は新規制基準を全面的に見直すべきである」を発表。規制委にも提出した。市民委員会は、熊本地震で避難計画に実効性が無いことや耐震審査の甘さが露呈したとして、新ら規制基準をつくるまでの川内原発1・2号機の運転停止を求めている。



【実効性無い避難計画、甘い耐震審査】

 A4判で4ページにわたる声明で、原子力市民委員会は「九州の住民たちを中心に九州電力川内原発1・2号機の運転停止を要求する動きが広がっている」、「今後、熊本地震が川内原発近辺の断層帯の地震を誘発する恐れが無いとは言えない」などとした上で「住民たちの不安は杞憂であるとは言い難い。むしろ、われわれがまだまだ自然現象の全容を理解していないという事実をこそ認識すべきだ」、「原子炉を一時停止しておくことは、地震に対して有効な方策である」として、原発稼働停止を求める市民の声に理解を示した。

 その上で「原子力発電所の安全をもともと保証していなかった原子力規制委員会の新規制基準の欠陥が、今回の熊本地震によって一層明白となった」と指摘。「一刻も早く新規制基準を見直すべき」と結論付けている。さらに「川内原発1・2号機は十分な安全性が確保されていないのであるから、新規制基準の欠陥が解消されるまで設置変更許可を凍結し、新たな基準ができるまで無期限に停止させるべきだ」と求めている。関西電力高浜原発や四国電力伊方原発への設置変更許可を凍結し、新たな基準の下で改めて審査を進める事も盛り込んだ。

 市民委員会の指摘する「新規制基準の欠陥」とは①防災・避難計画の実効性が無いこと②耐震設計審査基準が甘いこと─の2点。

 ①について、市民委員会は「今まで自治体から提出された『地域防災計画』は、鹿児島県のものをはじめとして全く現実性が無い」と指摘。「川内原発から30km圏内の住民23万人あまりと数千人もの原発作業員を効果的に避難させるにはインフラ(避難手段や情報伝達など)が完全に機能することが不可欠だが、2011年の福島第一原発事故ではインフラが長時間にわたってマヒした」、「高齢者や入院患者などの『要援護者』の受け入れ先や避難の具体的手順が決まっていない」、「警察官、消防士、自治体職員やバス運転手などの被曝をどのように回避するか、どのように逃がすかルールも定まっていない」と問題提起している。屋内退避についても「今回の熊本地震のように地震で家屋にとどまることが危険な状況では、屋内退避に依存した防災計画は無力である」として「複合災害時では住民の大量避難が困難を極めることは誰でも容易に想像できる」と計画の見直しを求めている。

 福島での原発事故を受けて原子力規制委員会が定めた新規制基準は「全ての既設原発が合格できるよう周到な配慮のもとに策定されたものであり(中略)それをクリアしても原発の安全性は保証されない」と厳しく批判している。耐震設計審査基準の「限界」について「単一の大きな地震動に原子力施設が耐えれば良いという考え方に立っている」とし「熊本地震では、震度7の地震動が繰り返し襲う『繰り返し地震』が起きている。1回目の地震動に耐えても2回目以降の地震動で倒壊することが原子炉施設でも起こり得る」と警鐘を鳴らしている。

 そして、市民委員会はこう結んでいる。

 「原子力規制委員会のなすべきことは、川内原発1・2号機の安全宣言を出すことではない。熊本地震によって明らかになった新規制基準の欠陥を解消すべく、迅速な行動を起こすことである」
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(上)熊本地震を受け、新規制基準の見直しを

求める声明を発表した「原子力市民委員会」

座長の吉岡斉・九州大大学院教授=左=ら

(下)立石雅昭・新潟大名誉教授は「まずは

川内原発を停めるべきだ」と訴えた


【共感呼んだ地質学者の書き込み】

 都内で記者会見を開いた市民委員会。座長の吉岡斉さんは「原発事故時の避難計画は、橋が落ちたり送電線が切れたり、そういうことが起きないことを前提としている」、「住民や公務員、原発作業員をどのように逃がすか。福島の教訓を受け止めないまま、あいまいなまま来ている」と指摘。川内原発について「九電と鹿児島県は安全が保証されていないのに漫然と稼働させている。鹿児島県の伊藤祐一郎知事は、原子力規制委員会の〝安全宣言〟を盾に取って川内原発は安全だと言っている。いつでも馳せ参じてアドバイス致します」と語った。

 新潟大学名誉教授の立石雅昭さん(地質学)は、熊本地震の「本震」とされる4月16日午前1時25分頃の震度7の地震を受けて、短文投稿サイト「ツイッター」上で「川内原発、直ちに停止するべきです。少なくとも、今地震が収まるまで原発を停止し、推移を見守るべきです(中略)今、中央構造線西端付近での地震は中部九州を横断して岩盤が破壊され続けています。動きが読めません」と書き込んだ。書き込みのリツイート数(拡散数)は1700を超えた。

 「多くの国民が、川内原発は停めるべきだと考えた。なぜそれに真摯に応えないのか。まず停めるべきだ。その上で、規制基準の不十分さを議論するべきだ。それが普通の市民感覚だと思う」

 石油プラントの技術者だった筒井哲郎さんは、原子力規制委員会の耐震性審査のプロセスについて「情報開示を求めたが、大事な所は黒塗りだった」と不透明性に言及。「既設原発は本体設備をいじらず外付けの過酷事故対策設備を追加することで合格させている。テロ対策も入門管理をしていると言うが、正門から名乗って入ってくるテロリストなどいるのか」と批判した。

 後藤政志さんは、東芝で原発の設計に携わっていた技術者。現在の耐震審査基準が、1回の揺れに対する耐性を対象としている点について触れ「長周期の地震荷重、繰り返しの荷重に対し、余裕を持って設計しているのか」と問題提起した。一度の衝撃には耐えられても、亀裂が生じればその後の揺れに耐えられる振動数が下がるとの実験データを示し、耐震審査基準の甘さを指摘した。「現在の日本には、その意味で安全だと言い切れる原発など無い」。
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東芝で原発の設計に携わっていた後藤政志

さんは「熊本地震のように長周期で繰り返さ

れる荷重に対して余裕をもって設計している

のか」と新基準に疑問を投げかけた

=東京都千代田区の「主婦会館プラザエフ」


【規制委「根拠なく原発停めない」】

 「原子力市民委員会」は福島第一原発事故から2年後の2013年4月に設立されたシンクタンク。座長の吉岡さんのほか、島薗進東大名誉教授、荒木田岳福島大准教授、海渡雄一弁護士、武藤類子福島原発告訴団長らが委員として名を連ねている。そのほかに、金子勝慶大教授、高木学校の崎山比早子さんらがアドバイザーとして加わっている。これまでに原発再稼働の凍結を求める提言などを発表したほか、2014年5月には、鹿児島県薩摩川内市で「川内原発再稼働についての自主的公聴会」を開催。2015年3月には、関西電力高浜原発の再稼働計画について、滋賀県の三日月大造知事と会談している。

 声明で求めている「新たな規制基準」について、吉岡さんは「新たな基準を満たす原発をつくることは難しいだろう」と、事実上の全原発停止提言であることを認めた。声明の表現については委員会内で意見の相違はあるものの「原発をやめるべきだ」という認識では一致しているという。立石さんは「いったん川内原発を停めて、熊本地震の教訓をどのように生かすか、薩摩川内市民がもう一度議論する余地を残すべきだ」と話した。
 川内原発の稼働停止について、原子力規制委員会の田中俊一委員長は4月18日の臨時記者会見で「原子力施設に異常は無い」、「安全上の問題は無い」と繰り返した上で「根拠が無く、そうすべきだという皆さんのお声があるからそうします(稼働を停止させる)ということは、するつもりはありません。政治家に言われても、そういうつもりはありません。根拠が科学的に我々が納得できるものでなければ、そういう判断はしません」と明言している。



(了)