【南相馬】避難指示解除へ市民説明会。〝世界の〟桜井市長、低線量被曝のリスクを無視して復興に邁進 | 民の声新聞

【南相馬】避難指示解除へ市民説明会。〝世界の〟桜井市長、低線量被曝のリスクを無視して復興に邁進

一部住民が強制避難を強いられている福島県南相馬市で間もなく、避難指示が解除される。19日夜、小高区、原町区の避難住民を対象に開かれた市民説明会では、国は除染の効果や空間線量率の低減を強調した上で、改めて7月1日の解除方針を提示。桜井勝延市長も「前へ進もう」と呼びかけた。土壌を測らず、低線量被曝のリスクも無視。原発事故直後、米TIME誌で「世界で最も影響力のある100人」に選ばれたこともある桜井市長の〝本当の顔〟が垣間見えた説明会だった。



【被曝リスク答えられない市長】

 復興のためには被曝リスクには目をつぶれ─。桜井市長はそうとでも言いたいのだろうか。合言葉は「前へ前へ」。まるで、どこかのラグビーチームのようだ。威勢の良い、時には市民を諭すような言葉が次々と口をついて出た。「世界で最も影響力のある100人」に選ばれ、脱原発首長として脚光を浴びる桜井市長の真の顔だった。

 「原発事故の悔しさだけでは復興できない。国や東電とケンカをしても街は良くならない」

 「空間線量は下がっている。市内で生産された米に関しても、出荷制限になるようなものは全く出ていない」

 「市外に避難していた子どもたちは、震災前の7割の水準にまで戻って来た。出産数も増えて産科医が足りないくらい。お母さんは安心感を持って市内で出産している」
 「市民の怒りや不安はもっともだと思う。2015年3月の『脱原発都市宣言』で、国には一定のメッセージを送ったつもりだ」
 とにかく戻ろう。放射線防護はそれからだ。市長の腹は固まっている。もはや住民の意見を「聴く」会ではなかった。ある女性は「ずっとでたらめな原発政策をしてきた経産省が憎い。帰れ帰れと本気で言っているんですか?」とマイクを握った。やや感情的な発言だったが被害者として当然の想い。経産省職員は何度も「お詫び」と頭を下げた。だが桜井市長はなぜか、国を擁護してみせた。

 「弁護するわけじゃないが、今も廃炉に向けて一生懸命にやっている。いけにえのような形にして心が安らぐのですか?」
 別の男性は「市長は、低線量被曝が子どもたちに与える影響について分かっているのか」と迫った。不幸にして放射性物資に汚染された町には、低線量被曝のリスクが長くつきまとう。しかし、桜井市長は正面から答えなかった。答えられるはずがなかった。誰も分からないのだから。質問に答える代りに、苦し紛れの言葉を繰り返すしかなかった。

 「不安だからこそ、しっかりと測定・検査している。子どもを連れて戻って来た親たちは安全性について確信を持っている」
 内閣府原子力災害現地対策本部の後藤収副本部長は、こう言って市長をアシストしてみせた。

 「避難指示が出ている所に企業は進出しない。正直、5年前と同じ姿にはならない。不完全な状況で解除するのは致し方ない。全てが出来るまで待っていたら他にとられてしまう。国はやれる事は全部やる。恨みがあるのは分かるが、それでは小高は良くならない」

 被曝リスクを口にする市民は、企業誘致や復興を妨げる存在なのだ。
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「市民説明会」に出席した桜井勝延市長。

低線量被曝への不安や原発事故への怒りの

声もあがったが「そんな事を言っていては前に

進まない」と一蹴した


【除染効果を高評価する東大・児玉氏】

 「ここで線量の話をしたってしょうがねえべ」

 ある男性は終了後、ため息をつきながら会場を後にした。

 国の姿勢は明確だ。「避難指示を解除しても生命、身体に影響は無い」(内閣府原子力災害現地対策本部・紺野貴史次長)。配られた分厚い資料には、安全安心をアピールする文言が並んだ。

 「対象地域全体で、空間線量率1mが平均38%低減しました」

 平均0・75μSv/hだった空間線量は、除染によって0・46μSv/hにまで「下がった」というのだ。単純換算で、1年間の積算被曝線量が3mSvを超える水準。「金谷」、「大和田」、「川房」、「神山」の4行政区で実施されたフォローアップ除染の効果も強調された。「2・41μSv/hから70%も低減した」としているが、現在の空間線量率は0・72μSv/h。これで「下がった」と言えるのか。

 この数字にお墨付きを与えたのは、やはりここでも児玉龍彦氏(東大アイソトープ総合センター長)だった。児玉氏が委員長を務める「南相馬市除染推進委員会」は今年3月17日、報告書で「面的な除染の効果はおおむね維持されている」、「居住をしつつ、復興、環境回復に関わろうとしている市民を積極的に支援していく状況へと移行する段階に来ている」と評価した。説明会終了後に取材に応じた紺野次長は「専門家の判断をいただいた」と〝歓迎〟した。

 1時間ごとの被曝線量を測れる個人線量計「Dシャトル」を使い、準備宿泊をした小高区の住民の被曝線量を測定。年間被曝線量を推計したところ0・69mSv/年~3・96mSv/年。平均で1・36mSv/年だったという。しかし、これは「外部被曝」のみ。微粒子を吸い込む「内部被曝」は考慮されていない。
説明会の席上、紺野次長はこう言った。

 「早く戻りたいという人もいる。避難指示が出されたままでは町のにぎわいを取り戻す上で支障が出る。生命、身体に影響が無い限り、早急な避難指示解除が必要だと考えている」
 土壌汚染を測らず空間線量のみ。汚染された砂ぼこりを吸い込むことによる内部被曝も考慮しない。これが「専門家」と呼ばれる人々の物差し。桜井市長は言う。「この街に住んでいて良かったと子どもたちが思えるよう、復興に全力で取り組みたい」。臭いものにフタをしたまま、復興という名の公共事業がここでも進められていく。

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環境省(上)も内閣府(下)も、除染の効果を強調。

「生命、身体に影響が無い」との見方を繰り返した

=南相馬市・原町生涯学習センター


【「7月1日過ぎたら安全」の不思議】

 「市民説明会」は21、22の両日で終了。住民から出された「忌憚の無い意見」を集約し、国は避難指示の解除を正式に発表する。7月23日から25日にかけて開催される「相馬野馬追」の前には解除したい意向で、現段階では7月1日の解除を目指している。

 「7月1日を過ぎたら安全を保証出来るのか?だったらなぜ、避難させたのか?」

 宮城県内に避難中の男性の疑問は当然だ。だが、桜井市長は「不安の無い方はいらっしゃらない」と一蹴した。意見を求めておきながら、放射線への不安を口にすると封じられる。これが結論ありきの「説明会」の実態。国も市も結論は出ている。

 「2013年以降、住民説明会を3カ月に1回開いてきた。何も唐突に避難指示解除を持ちかけているわけではない。議論を積み重ねた上での解除。機は熟したと考えている」(紺野次長)
 命よりカネ。低線量被曝より企業誘致。〝世界のサクライ〟と国が「復興」に邁進する。


(了)