藤崎翔の作品は、どれもドンデン返しで締めくくられる。

ある時はすっかり騙され、またある時はそっちだったのか・・・と

意外性に事欠かない。

 

 作者の作品を3冊以上読んでいれば、ひねりを把握し、

ストーリー展開は大体の想像がつく。

 よって、この本には「その手には乗るものか」と

眦(まなじり)を決して意気揚々と挑んだ。

 

 かつてプロ野球チーム東京エレファンツに、名投手といわれた竹下竜司がいた。

そのモノマネをする芸人・マネ下竜司こと関野浩樹は、持ちネタがたった一つしかない。

 竹下に嫌われたりしたら、そのたった一つの持ちネタで食べていけなくなり芸能界から去ることになる。

 

 だから、竹下からの酒の誘いの連絡が入ると、半同棲の恋人との夜を断ってでも、竹下邸に赴く。

酒の相手というより完全に幇間(ほうかん=太鼓持ち)の御機嫌取りである。

 だが、ご馳走になり、片付けをして帰る時には6万円のタクシー代を渡されるので、マネ下にとっては

いい小遣い稼ぎだと割り切っている。

 

 ある夜、また緊急呼び出しがあった。声に落ち着きがない。

マネ下が駆け付けると、そこには女の死体があった。

女房の留守中にナイトクラブで買った女と浮気をし、その女がスマホでベッドシーンを盗撮していたのに気づいた。

竹下は、逃げる女に向かって手近にあったトロフィーを投げつけた。引退したとはいえ、元は名投手である。

トロフィーは女の頭を直撃した。

 

 竹下の妻・MAHOは看護士からグラビアアイドルに転身し、今は旅番組のレポーターをしている。

翌朝には仕事から帰って来る予定だ。死体を早く始末しなければ・・・。

 

 竹下とマネ下は死体をブルーシートに包み、茨城の田舎の藪の中に埋めた。

3カ月ほどして女の死体が発見された。解剖の結果、女の体内に精液が残っていることが判った。

 

 女のスマホは死体遺棄の前に竹下が自宅で水没させ、壊した。GPSはその時点で停止している。

警察はその周辺地域の捜査に乗り出し、男性の住人を対象にDNA検査をした。

 

 警察が竹下邸を訪問した時、マネ下は竹下に扮装して自分のDNAを提供した。

これで逮捕は免れたかに思ったが、MOHOは自宅に仕掛けたカメラから夫とマネ下の犯行の秘密を知った。

 

 MAHOはマネ下に自分の計画を話し、協力しないと犯行をバラすと脅迫した。

MOHOの計画とは夫殺しである。

 竹下は過去に2度も心筋梗塞で入院していて、血圧を急激に上昇させれば簡単に逝くだろう。

元看護士のMAHOはそう考え、マネ下の誕生パーティーを自宅で行い、その時に計画を実行した。

 

 計画は巧くいった。

ここまでは戦国時代の魔女の推理どおりだった。

 

 だが、ここからがドンデン返しである。

竹下はマネ下にサプライズプレゼントとしてある人物を招待していた。

サプライズだからマネ下もMAHOも知らない。

 

 その人物が予定どおりに竹下邸を訪れた時、哀れな竹下が救急車で搬送されるところだった。

 救急隊員はその人物と竹下の関係を聞き、警察はその救急隊員から搬送時の状況を聴取した。

その聴取内容と、MAHOの証言に大きな食い違いがあり、殺人、死体遺棄、

病死に見せかけた夫殺しのすべてが白昼の下に曝された。

 

 ”サプライズプレゼント”の出現に I  was  surprised!

意気揚々と挑んだ魔女は、今回も敗北。

 

 この小説で笑ったのは、マネ下のおバカキャラ竹下に対する内心の批評や、

マネ下の仲間たちのお笑い芸人たちの芸名である。

 例えば、役所広司は役所狭司、福山雅治はぷく山雅治、椎名林檎は椎名すりおろし林檎、藤田ニコルは藤田似トル・・・

といった具合に「よくもまあ、これだけ考えられるものだ」と、どうでも良いところで感心してしまった。

 

 作者はお笑い芸人から作家に転身した経歴なので、芸人たちの楽屋話を作品の中に巧く取り入れているし、

いつ犯行がバレるかもしれないとハラハラドキドキしながらも、平然と生活しているマネ下の心理も面白かった。