昔気質のヤクザの親分・阿岐本雄蔵(あきもとゆうぞう)の組は、

組員6人の小さな組織である。

 昔気質というのは、素人さんには手を出さない、

地元の困りごとや問題を解決するのをモットーにしているということ。

昨今の組織暴力団とは一線を画している。

 

 親分始め6人の子分たちは、ITに強かったり情報収集に長けていたり、

それぞれの個性がある。

 親分はスキンヘッドでいかにも組長といった風体だが

外見とは裏腹にとても優しい人情家である。

 

 そんな親分の下に、地元で永年愛され続けてきた映画館「千住シネマ」の

立て直しの話が持ち込まれた。

 今や、映画やドラマはネット配信の時代。経営不振に陥る映画館が増え、

千住シネマも落日を迎えようとしていた。

 

 存続を訴える「千住シネマ・ファンの会」会長の所に嫌がらせの電話やメールが届くようになった。

クラウドファンディングで資金調達を始めたものの、集まりは少ない。

 組員たちが調べを進めると、嫌がらせの裏には

「千住シネマ」を経営する「千住興業」の常務取締役・犬塚、

経済学者であり「サイバーオン」という会社の相談役でもある・梅中、

(実は政財界と太いパイプを持っている)元半グレの武井が絡んでいた。

 

 武井と繋がっているサイバーオンの社長・木島は事業を拡大し、

最近では不動産を手掛けている。

 

 ここまでくれば話は読める。

 常務の犬塚は優良物件の「千住シネマ」の土地社屋を売却したがっていた。

その陰には国交省の「千住再開発」が始まる前に「千住興業」の土地社屋を

犬塚と梅中が組んでサイバーオンに売却し、

再開発となれば土地高騰で大儲けしようという企みがあった。

 

 一方、「千住シネマ・ファン」の会長や阿岐本組に出入りする近所の女子高生の活動により、

ファンサイトへの映画に関する自由な書き込みが増えていった。

 

 半グレの武井は再開発の話を聞きつけ、自分の儲けを主張した。

「この厄介な問題を任せてくれ」と阿岐本親分がサイバーオンの木島に提案すると、

木島はこの儲け話にヤクザが絡んだのなら興味を失ったと手を引くことに。

 

 こうして、社屋売買の話は立ち消えになり、

「千住シネマ」はファンの期待に応えて存続が決定。

 

 阿岐本組は今回もタダ働きである。

組は今までに、営業不振の私立学校、病院、書店、公衆浴場を立て直してきた。

1回も儲かったためしはない。

 

 地元民が困る問題を解決し、書店や大衆浴場や、映画館という文化を守るために

ひと肌脱ぐ。それが阿岐本組である。