加納英司42歳。金融系人事から大手生命保険会社・永和生命に転職した。

彼の任務は、会社内に巣食う「妖精さん」たちの処分を実行すること。

 

 妖精さんとは、高い給料を貰いながら”遊ばず休まず働かず”、

フレックスタイム制を利用して早朝出勤し、食堂で時間を潰し、

3時ごろには退勤していく、シニア社員。

 自分の席に居たかとおもうと、いつの間にか姿が見えなくなるから

「妖精さん」と呼ばれる。

 

 妖精さんたちはITに弱く、教えてもそれを使いこなそうともしない。

昨日教えたことは今日は忘れる。若手から言わせれば給料泥棒である。

 

 加納の「構造改革」(良く言えば退職勧奨)に反発した妖精さんたちは「妖精同盟」を結成し、

両者の対立は深まる。

 

 ある支所に、億単位の契約を取って来る生保レディ歴50年の「竹内ゆかり」がいた。

ゆかりは、ロシアの専制君主エカテリーナ女帝を捩ってユカテリーナと呼ばれ、実際女帝であった。

 彼女の高額契約の秘密は、一人暮らしの認知症の家庭を訪問し、勝手に契約書を作り、

引出しの中から通帳やハンコを探し出して押印するからである。

 これは犯罪である。

ユカテリーナに言わせると「契約の時はお客様はちゃんとした意識があった」と。

所長は何も言えない。

 

 こんなことを続けていたら会社の信用にかかわる。

加納と妖精同盟は対立している場合ではなかった。

事情を知り、義憤に駆られた同盟者たちは加納とタッグを組んだ。

「妖精退治」は「ユカテリーナ退治」に変わった。

 

 現地に赴き、ユカテリーナの犯行現場と証拠を掴んだのは「妖精同盟」の面々である。

妖精さんたちにはそれぞれ特技があった。

 

 若い頃、演劇をやっていた奥地は認知症の婆さんに化け、

商品開発課の溝口はユカテリーナの言動を全てタブレットの動画に収めて、加納に転送した。

計算に強い溝口は、ユカテリーナ契約件数の分析を行い、数字の面でも不正を割り出した。

趣味でバンドを結成している高木はAV機器を使い慣れている。動画に音響効果を入れた。

タブレットが入った加納のカバンを何者かがひったくった時は、バスケットボールをしている毛利が

これを取り返した。

その他の面々においても、評価すべき事柄が見いだされた。

 

 妖精同盟のメンバーは自分たちのホームページで、ユカテリーナ事件の経緯や

ITスキルにしても自分たちが本気になったらできる、

できなさと向き合うのが恐くて逃げていた旨の心情を綴った。

 

 以来、妖精さんたちは新しい事について行く努力をし始め、

それは妖精さんたちを敵視する人々の意識を変えた。

 

 加納は本当の意味での構造改革の施策を打ち出し、上層部に諮(はか)った。

役職定年は廃止された。

 

 結果、妖精さんたちの経験やスキルが再評価され、彼らの労働意欲は大いに高まった。

メンバーのうち、会社に残って新しい役職に就く者。

丁寧なキャリアコンサルティングで希望退職して会社を去る者。

新たに資格を取得して第二の人生を歩もうとする者も。

 

 私はサラリーマンの女房だったから、こういう話は小説ネタではないことは知っている。

シニアとはいえ、スキルやキャリアに応じた働き方とそれに伴う体力があれば、

何歳になっても張り合いのある仕事人生を歩めると思う。

 

 現実問題として、昨今の物価高と年金の目減り、上がらない給料を考え合わせると

この先、働けるうちは働かないと生活不安が出て来るのは必至である。

 社会問題を含んだ小説だと思った。