相互にフォローしているブロガーさんがご紹介下さった作品。

 

 井村直美40歳。パートで働く主婦。子供は二人。

夫は小さな会社を経営し、義父母はその会社の役員。

 

 朝は家族の誰よりも早く起き、夜は誰よりも遅く寝る。ある意味、不自由な生活を送っている。

直美は、心に溜まった毒を吐き出す意味で毎晩日記をつけている。

 

 ある日、高校時代の友人・伊織とカフェでお茶してる時に、ふとした会話から「水曜日郵便局」の話を聞く。

 それは、普通の何気ない水曜日に自分の想いや考えを日記みたいな手紙に書いて水曜日郵便局に送ると、局員さんが全国から寄せられた手紙をシャッフルして、見知らぬ誰かの手紙を送ってくれるというものだった。

 

 直美は優雅でリッチな伊織に嫉妬しながらも、伊織に言われた高校時代の直美の夢を反芻する。それは「パン屋」さんになること。

 毎日のルーティーンの中で忘れかけていた夢を、大成功を収めた美味しいパン屋さんであるかのように直美は認め(したため)、投函した。

 

 本当に見知らぬ誰かから返事が来た。

 

 その誰かは今井洋輝、33歳。文具メーカーのサラリーマンである。

 絵本作家になるのが夢だったが、婚約者や結婚のことを考えるとフリーになりたくてもなれない。かつての同僚でフリーランスのイラストレーター・小沼を羨ましく思いながら、生活の安定を優先する。夢を諦めた言い訳だと自分で気づいている。そんな心のモヤモヤを水曜日の郵便局に書き送ったのだった。

 しかし彼は、受け取った井村直美からの手紙と妻となった人の言葉に励まされ、自分の人生について本気で考え始めた。

 生まれた子供の笑顔にインスピレーションを得て、滞っていた絵本を完成させようと気持ちが上向いた。

 

 直美は直美で、洋輝からの手紙で自分の意思を固め、本格的にパンを習い始めた。

 

 この作者は明夫という男性名になっているが本当に男性なのだろうか。

何故なら繊細なタッチで綴られる文章、登場人物の心模様、心の中や自然界に吹く風、風が起こす波の表情、月の描写。観察が細かい。それ故美しい。

 

 三日月を見て、恋人が笑った時の目の形に似ている、なんて、大伴家持が三日月をみて愛しい女性の眉の形に似ているとウタに詠んだそのものである。

 勉強している・・・と思った。