善人と書いてヨシトと読む。彼は空き巣で前科2犯。出所したばかりである。
昔仲間のスーさんの家に転がり込んだヨシトは、彼から目ぼしい物件を紹介される。
下見を兼ねて忍び込んだ家でヨシトが見たものは、写真立ての中の懐かしい顔と自分が卒業した中学・高校の卒業アルバムであった。
その家は、初恋相手のマリアの家だった。
彼女は同級生のタケシと結婚していて、セレブ生活を送っていた。
偶然を装い、ヨシトはマリアと再会する。
マリアは高級レストランやカラオケにヨシトを誘い、「夫を殺してくれない?」と意味深にささやく。
一見殺人事件に発展するかと思いきや、そこは藤崎翔の手腕。
所々に点在する布石を辿っても、ん?まさか・・・と混乱させられる。
逆転トリックが何層にも重ねられ、普通に読んでいたらチョット見破れないかもしれない。
ヨシト、タケシ、マリアの青春時代が交錯する陰での最大のテーマは「父と子の対立と和解」である。
まるで志賀直哉のようだが、最後は泣ける。
因みにこの作品は『あなたに会えて困った』の改題である。
『逆転泥棒』より、私は『あなたに・・・』のタイトルの方が好きである。