先帝の四の皇女で、源氏の父帝である桐壺帝に嫁いだ藤壺の宮は、亡き桐壺の更衣に瓜二つの美貌と容姿の持ち主で、非の打ち所のない輝きを放っていた。

 それ故、前回書いた弘徽殿の女御の嫉妬を買ったが、右大臣家出身の弘徽殿が内親王である藤壺にイジメの手は出せない。攻撃的な弘徽殿にしてみれば自らの感情で苦しんだことだろう。

 

 桐壺の更衣を忘れられない桐壺帝は、更衣そっくりの藤壺を更衣の身代わりに愛した。

 「亡き女の代わりに君を愛している」と言われて喜ぶ女はいない。藤壺は不満だったに違いない。

 

 帝は10歳の源氏を藤壺に紹介し、仲良くやってくれと頼んだ。愛らしい源氏の姿に感心した藤壺。

 しばしば遊びに来る源氏と一緒に、日がな一日囲碁や双六(すごろく)に興じ、時には絵を描いたりして楽しんだ。まるで本当の母子か姉弟のようであった。

 しかし、12歳になった源氏に藤壺と遊べなくなる日が来た。元服である。

左大臣家の葵の上を妻に迎えることになり、宮中を出て新たに二条の院という屋敷を構えることになった。

 元服した男が女の部屋に入れるのは、その女が妻、愛人、娘だけであるので源氏は藤壺に会えなくなったわけだが・・・。

 

 源氏17歳の春。宮中に参内した源氏は懐かしさのあまり藤壺の部屋の近くに佇み、夜を待った。

 

 人の気配に気づいた藤壺は、命婦(みょうぶ=中級の官位の女官)かと思い声をかけた。源氏はその声が藤壺だと知ると一気に御簾の中に入り藤壺を捉えた。藤壺は帝の妃である自分の立場があるので抗ったが、遂に契りを結んでしまった。レイプである。

 

 藤壺は体調を崩し、側近らを連れて三条の屋敷に宿下がりをした。後を追うように源氏から熱情を綴った手紙が届く。藤壷の心はどんなに揺れたことだろう。いくら何でも義理の息子と不義密通するなんて・・・。

 

 それから二日後、源氏は藤壺の屋敷を訪ね、制止する命婦を説き伏せて藤壺の部屋に入り、二度目の契りを結ぶ。

 陶酔から覚めた藤壺は、源氏にきっぱりと言う。

「もうお逢いすることはありません」と。

 

 この密通のあと、藤壺は懐妊に気付く。

 

 生まれた子は、光り輝く玉のような源氏そっくりの皇子だった。

帝や周囲は大喜び。しかし、秘密は守らなければならない。

 

 帝は、弘徽殿が産んだ春宮(とうぐう)を朱雀帝(すざくてい)とし、藤壺が産んだ皇子を新たな春宮とした。そして、自らは退位して桐壺院となった。

 

 藤壺は決心した。

 もし、愛欲を求めて女を続ければ、源氏も、自分も厳罰を受ける。帝に大恥をかかせることになる。秘密は守らねばならない。それには母として生き、皇子を守ることに徹するのが一番である。

 

 女としてより母として生きる決心をした藤壺は賢い女性だと思う。

だが、この秘密ゆえ一生苦しむことになり、やがては出家してしまう。