東京、横浜、東名高速、JRは雪の被害がありましたが、皆様の地域は如何でしょうか?

雪の話が出たところで、今日は源氏と紫の上の雪見の場面を話題に致しましょう。

 

 現存しない古い「枕草子」の伝本の中に、十二月の月は殺風景で面白くないものと書かれていたそうです。が、紫式部はこの月を美の対象として「源氏物語・朝顔の帖」に描いています。

 

 雪がたくさん降って今も降り続いている夕暮れに、源氏は紫の上と雪見をしながら言います。

「花紅葉の盛りよりも、冬の夜の澄み切った月に雪の照り映えている空こそ、華やかな色彩などない眺めでありながら不思議と身にしみて、これ以上のものは無いと感じられます。これを興ざめなものと言った人の何と考えの浅いことか」と。

清少納言が殺風景と評した月を、紫式部は源氏の口を借りて美の極致だと賞讃しているのです。

 

 冬の月の冴えて凍てついた光が、地上を白一色に埋め尽くした雪に照り返って現出する雪明りの世界。これは情景描写であるとともに、源氏の心の色でもあります。

 実は、前帖「薄雲」で義母の藤壺中宮が他界しています。源氏と藤壺は密通の果てに不義の子をもうけた仲です。母の面影を持つ藤壺への追慕と悲嘆が源氏の心を重く支配していて、この苦しみから逃れたいという悲しい心の色なのです

 

 一方、この景色は紫の上の心の色でもあるのです。源氏はこの頃、朝顔の君に求婚しています(実際にはフラれました)。その噂を耳にした紫の上の嫉妬、そして源氏の心の奥深くに住んでいる藤壺の存在が心を寒くするのです。

 〔14歳で突然オンナにされて、一夜のほど朝(あした)の間も恋しいと、あなたは寝室から出ることもなく愛の交わり三昧だったのに、あなたの心は私に向いていない。淋しいわ。どう生きていったらいいの?]

 紫の上の孤愁が、月光と雪が織りなす冷たさに重なっています。同じ景色を眺めていても交差しない心。男と女の間に流れる深くて暗い川は、平安の昔も現代も変わらないようですね。

 

 (※戦国時代の魔女の独り言・・・実際の風景を二人の心象風景に重ねた紫式部の小説家としての才能に、文才の無い私は、ただただ嘆息するばかりです。)

 次回は「その③女もいろいろ」に戻ります。頑(かたくな)なまでに古風な女性「末摘花」では如何でしょうか?