平安時代の冬はかなり寒かったようで、十二単衣(じゅうにひとえ)はその防寒用に考案されたほど。

『源氏物語』と聞いてこの衣装を思い浮かべる人は多いと思います。

そんな色彩豊かで華やかな衣装とは対照的に、アクセントになっているのが舶来品の黒貂(ふるき=くろてん=セーブル)の毛皮。

 今日は毛皮を着た姫君・末摘花(すえつむはな)を書きます。

 

 源氏18歳の春の初め、ある姫君の噂を耳にします。亡き常陸宮(ひたちのみや)の末娘が古びた邸にひっそりと暮らしていて、琴が巧みだとか。人妻の空蝉(うつせみ)に逃げられ、夕顔に急死され、心さみしい源氏だったので「どこかに夕顔のような女はいないかなぁ」と探している時でした。六条に年上の恋人(六条の御息所)がいて、自宅では未だ幼い紫の上を養育しているというのに……。

 

 女人の噂に敏感な源氏は好奇心をかきたてられ、梅の香ただよう夜、姫の邸に出入りしている知り合いの命婦(みょうぶ)の手引きで邸に忍び込みます。今にも朽ち果てそうな建物の中から流れ出る琴の音。取り立てて上手というわけではないけれど、荒れた庭で聴くと、哀調おびた音色に気持ちが動きます。

 だが、命婦は「今夜の姫様はご気分がすぐれないようです。またの機会に…」とさんざんジラしておきながら源氏に帰宅を促したのです。

 後ろ髪を引かれつつ去りかけたところで、源氏の親友でライバル且つ正妻の兄の頭中将(とうのちゅうじょう)と鉢合わせ。実は彼は、源氏の後をつけて来ただけで、姫に興味があったわけではないのです。源氏は、アイツに先を越されてなるものかとライバル意識全開でせっせと姫にラヴレターや歌を贈ったのです。

 

 姫からは梨のつぶてでした。もともと内気な性格のうえに、姫には恋の手ほどきや手紙の返事の書き方を教えてくれる優秀な女房がいなかったのです。源氏は姫を冷たい人だと思いながらも諦めきれず、頭の中と下半身は、ヒワイな妄想でパンパン。

 

 命婦はその機を逃しませんでした。今こそ、と思った彼女は二人を引き合わせました。

この命婦というのは恋にかけては百戦錬磨で、ウブな姫君は彼女の口車にまんまと乗せられ、源氏を邸に上げてしまうのです。それがどういうコトを意味するのか、まったく知らない姫でした。(末摘花Ⅱに続く)