秋が深まりかけた星月夜。源氏は襖(ふすま)を隔てて姫と向き合います。秋風がかすかな香の香りを運び、姫が間近にいることを思わせます。

 

 源氏は何通も手紙を出し続けてやっと願いが叶ったと告げますが、姫は返事らしい返事もできないでいます。たまりかねた源氏が即興の歌を詠んで渡しても、歌の才能の無い姫は応えるすべもなく沈黙したまま。見かねた女房が大慌てで姫の声色をまねて、ヘタな返歌をしたほどです。

 

 源氏はそういう姫を世間ズレしていなくていいね!と感じ、我慢できずに勝手に襖を開け、中にいる姫に迫ったのです。秋風とともに高貴な薫香(たきもの)がふんわりと姫を包みます。

 

 源氏の強引な行動に、側にいた命婦や女房たちは驚き呆れ、灯を消して早々に立ち去りました。初夜は灯りを消した暗闇の中で行うのです。

 闇の中で源氏は姫の細い手首をつかみ「ほぉら捕まえた。もう逃げられないよ」と耳元でささやきます。姫は、これは悪夢に違いないと思っても「イヤ」とも言えず抵抗もできず、どうして良いか分からないでいるのです。

 源氏は姫の衣を手探りでたぐり寄せ、はぎ取ろうとしましたが「あれま、何これ、マジすか!」と瞬間、手の動きを止めました。今まで何人もの女人を脱がしてきた経験からは様子が違ったのです。そう、姫は袿(うちぎ)ではなく、唐衣(からぎぬ=女子の礼服)に裳(も=正装の時、はかまの上から付けるスカートのような服)で装っていたのです。脱がせる楽しみなんてまるっきりなし。

 

 ようやく思いを遂げた源氏でしたが、どことなく腑に落ちず後味が悪い。カラダは鳥ガラみたいだし無反応だし面白くないや、と《夕顔》を期待した源氏は幻滅してさっさと帰宅してしまいました。

 

 後朝の文(きぬぎぬのふみ)はすぐに書かず、夕方になってやっと届ける始末。

 後朝の文というのは男女が結ばれた翌朝、男から女に「昨夜は良かったよ」を歌に詠んで送る手紙のことで、朝のうちに送るのが礼儀。それを夕方になってやっと送ったのだから、源氏がいかに興ざめだったかがよく分かりますよね。姫からの返事は色気も情趣もなく、古びた厚紙に角ばった字で書かれてありました。

 幻滅にさらなる幻滅が重なった源氏でした。(末摘花Ⅲに続く)