梅雨の晴れ間無きころ、17歳の源氏が宮中の自分の部屋(亡き母・藤壺更衣が使っていた部屋)に籠っていると、親友の頭中将(とうのちゅうじょう=源氏の正妻・葵の上の実兄)が訪ねて来た。夜の10時ごろである。

 

 彼は、他の女達が源氏にあてたラブレターを見たがり、源氏が差し支えない手紙を見せたりしているうちに、話題は世の女君達への評価に移っていく。

 それは、頭中将の「理想的な女はめったにいない」という発言から始まった。そこへ、彼らに仕える左馬頭(ひだりむまのかみ)と藤式部丞(とうのしきぶのじょう)が加わり、雨夜の品定めは白熱してくる。

 

 頭中将は、女をその身分から上、中、下の3ランクに分け、「上流の生まれであっても興ざめする人もあり、中流の受領(ずりょう=現在の県知事クラス)階級の中には思わぬ掘り出し物があるものだ。彼らは充分な費用をかけて娘を教養豊かに教育し、大切に育て上げる。そういう娘が成人して宮仕えに出れば、幸運を引き当てる場合もある」と中流を賛美。

 それを皮切りに、男達はそれぞれの体験を語り始める。そぼふる雨。深夜。と、くれば武勇伝ではなく自ずと惨めな経験談となる。

 

 左馬頭は「家事万端そつがなく情が深くていい女なんだけど、嫉妬深くてイヤになったんだよね。それで、息抜きに愛想のいいセクシーな女に通い始めたら、そいつには別のオトコがいてさぁ、もうショックで」と告白。

 頭中将は「常夏(とこなつ=実は後の夕顔)」という愛人との間に女の子「撫子(なでしこ=後の玉鬘(たまかずら)」まで設けたのに、アイツは黙って姿を消したんだよ。酷くね?」と恨み節の連発。

 

 「雨夜の品定め」は、若い貴公子達の勝手な女談義ではない。彼らにとって家柄の良い女の婿になれば出世も叶うが、彼らが心から求めた理想の女とは、家柄や出自とは無関係に自ら男を愛し、男の心に寄り添い、男と共感できる人。式部はそこに、男女平等で対等な恋愛や結婚を示唆し、当時の男尊女卑や政略結婚への批判を込めている。

「源氏物語」の別の読み方がここにもある。