オヤジハグ | 学白 gakuhaku

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精神科医 斎藤学のコラム

2週間前の日曜日(4月26日)には、私たちが「ジャスト(JUST)フォーラム 」と呼んでいるものがあった。ここ5年くらいは永田町にある日々谷高校の講堂・星陵会館を使わせてもらっていて、300名くらいが集まる。3000円ばかりを徴収する有料のもので、目的は我々(所謂、患者を含む)の日々の臨床で経験する「世間で可視化していないアディクション問題」について世間に紹介するという性格を持つので、その時々の話題に合わせたゲストをお呼びしてきた。少しでも多くの人々に私たちの気づきを知って貰いたかったからである。



母と娘の葛藤に焦点を当てた時は『放蕩記』(集英社)を出して数年後の村山由佳さんをお招きし、彼女とはその後『「母」がいちばん危ない』(大和書房)という対談本を出版した。

ここ2年は父・娘近親姦をテーマにしたので、かつて日本で始めて名前(通常用いているペンネーム)を出して『ファザーファッカー』(文春文庫)を書いた内田春菊さんに来て貰い、さいとうクリニックでの臨床から派生したインセスト・ヴィクティム(近親姦犠牲者)の自助グループ「SIAb.」(シアブ=サバイバーズ・オブ・インセスト・アビューズ)を立ち上げた人々のスピーチを聞いてきた。

それぞれに盛会だったが、年のせいか時間の流れが速すぎる。今年は未だ明けたばかりだ(と筆者は思った)のに広報用のチラシを作る時期だというのでゲストの準備もないまま「パーソナリティは変化する」というテーマを決めた。

かねてからの持論なので、今更なのだが、そう言えばアディクション現象を通じてこれを正面から取り上げたことはなかった。と考え、嗜癖者のキングとクイーンみたいな人々をゲストに招くことをようやく思いついた。

それが近藤恒夫(ダルクの創始者)と上岡陽江(女性ダルクの創始者で私のクリニックで週に一度のシェアリング・ミーティングを開いてくれている)それに松沢時代から私と歩みをともにしてきた岩本昭男(さいとうクリニック職員)で、それぞれ覚醒剤依存、過食症・自傷癖、アルコール依存からの回復者である。この人々と我がクリニック20年の経過を介した成長(パーソナリティ変化)がわかりやすい5名(うち一人は痴漢アディクションで2回計6年近い刑務所暮らしを体験し、ここ6年、再発のない人)との交流を考えた。

そういうわけで身内だけのこぢんまりした会になったが、参加した人々の満足感はむしろ例年より高かったのではないかと思う。私個人としては先史時代(?)からと思うほどに長い友人と思っている岩本、近藤両氏と私とが殆ど同年であることが何ともしれず嬉しかった。近藤恒夫とは半年、岩本昭男とは1年、私の方が年上である。

閉会後壇上で私が最年長であることを他の二人に確認させ、3人でハグした。オヤジハグは見た人には気味悪かったろう。

2週間も経つと他のことが書きたいので、ごく短い紹介になった。「パーソナリティは変化する」ということの中身は、この欄でおいおい明らかにして行く。