昭和六十三年九月五日
昭和六十三年(一九八八)、遂に四国は、島ではなくなり、世界有数といわれる瀬戸大橋によって、本州と結ばれた記念すべき年となりました。
中村先生からの新年の賀状に「本年は皆が讃岐へ参上したいと言っております。どうぞよろしく」と書かれていました。
一月に上京し、ご自宅の方へ新年のご挨拶にお伺いした折のお話では、香川県教育委員会、県文化会館、四国新聞社主催で日本画家、野生司香雪(のうす こうせつ・一八八六~一九六九)の回顧展が開催されるので、その記念講演の依頼があり、お引き受けしたとのこと。 野生司画伯と中村先生とは、深い関わりがお有りとのことでした。
また、讃岐(香川県)は中村先生の御尊父の出身地でもあり、九月には讃岐を訪ねることを今から楽しみにしているとおっしゃっていましたので、私も先生の来県に合わせて仕事のスケジュールを組み、心待ちにしていました。
九月五日の夕方に来県され、その夜は高松市内のホテルで宿泊。翌六日午前には香川県庁二階ホールで「インド、サールナートを訪ねて」と題して記念講演をされました。
聴衆約五百名で、座れない方たちがたくさん出るほどの盛況で、喜ばしいことでした。
その後は二、三の各種団体の懇談会に出席されました。
かなり強行スケジュールなのでお疲れかと案じたのですが、このような機会は二度と有るか無いか解らないと思い、私の音頭
で、夕方からは中村先生を囲んで県内の政財界の方たちを御招待して、高松グランドホテルで懇親会を開きました。
この懇親会を催すにあたって、中村先生、また出席される方々にも、以下のように私の意向をお伝えしておきました。
「今の時代は、大部分の人が物質的には充た されているようですが、精神的には貧困さ が目立って来ているように思えます。
そこにつけこんで、怪しい宗教が跳梁し、人は何が正しく、何が本物なのかを見分ける能力が次第に失われているのではないで しょうか。 事の善悪を学ぶには、社会人になってからでは既に遅く、青少年期から正しい宗教を学ぶことが大切だと思います。
讃岐は、かつて空海(真言宗の開祖、七七四~八三五)を生んだ聖域であるにもかかわらず、四国にある多くの大学では東洋思 想(仏教学)を学ぶコースがどこにもないようです。このようなことを地域社会の指導的立場におられる方たちに、御考慮いた だき、また普遍性のある東洋思想を普及させるためにも、御理解をお願い申し上げます」
「懇親会」出席者
東方学院 理事長 中村 元 四国電力(株)相談役 中川以良 百十四銀行 会長 中條晴夫 加藤陸運(株)社長 加藤達夫 香川大学教授 脇谷潤一 延長寺住職 大仏光良
香川県県議会議員 植田郁夫 元香川県知事 金子政則 高松市市議会議員 三笠輝彦 西鶴商事(株)社長 西村嘉明