国際人としての「覚悟」 | 欧州野球狂の詩

欧州野球狂の詩

日本生まれイギリス育ちの野球マニアが、第2の故郷ヨーロッパの野球や自分の好きな音楽などについて、ざっくばらんな口調で熱く語ります♪

 去る今月14日から19日まで、ともにフィンランド代表の主軸であるアンドレス・メナ内野手(31)とホセ・メサ捕手(30)の両選手に対し、BCリーグ・四国アイランドリーグplusの合同トライアウト受験のための支援をさせていただきました。結果は残念ながら両名とも一次試験通過を果たせずという形に終わりましたが、期間中ご協力いただきました全ての皆様にこの場を借りて、NO BORDERZ BASEBALL代表として改めて御礼申し上げます。本当にありがとうございました。

 

 さて、今年から新たに2チームが加わったオーストラリア・ABLや、中南米諸国におけるウィンターリーグでの熱戦が展開されている南半球に対し、北半球の各国は目下オフシーズン。メナやメサのように、新天地探しに精を出している選手たちも少なくはない。そうした中でここ数年、国際大会などでの代表チームの活躍などもあってか、少しずつ日本人選手たちの間でも欧州球界のことが知られ始めるようになってきた。彼らの中には、メナやメサとは逆に「日本発欧州行」を検討する人たちもいて、実際今年だけでも自分自身何件かのお問い合わせをいただいている。自分が提供した情報が、彼らの役に立つならもちろん嬉しい限りだ。

 

 その問い合わせをいただいた選手の皆さんに対して、いつも決まって自分がお話しさせていただいていることがある。それは、「欧州球界において成功するために必要な素養やスキルとはどんなものか」という点についてだ。もちろん、自分は残念ながら選手という立場ではないので、あくまでも現地でプレー経験がある方々の声をまとめた受け売りという形にはなってしまう。そして、もしかしたらこの問いに対する自分の答えは、現役選手の立場からすると少しネガティブなものかもしれない。ただ、少なくとも自分が話を聞いた欧州経験者の皆さんは、大体同じようなことを言ってくれているし、外から見る限りでも恐らくそうであろうということはうかがい知れるので、決して100%間違っているわけではないとも思っている。

 

 簡潔に結論から述べよう。「残念ながら、こういう人は欧州に行けたとしても幸せにはなれないだろうな」というタイプの選手は存在する。それは、「自分の価値尺度をフィールド内での能力でしか測れない」類の人だ。「英語?全然できないですけど何とかなるでしょ、同じ野球だし」「それより、投手として自分はこれだけできるんだけど、どこの国だったらフィットしますかね」。こういう考えの選手は実際少なくないと思う。ただ非常に厳しい言い方になるけれども、もしこの記事を読んでいるあなたが移籍先を探していて、なおかつこんな風に考えておられるなら、残念ながら海外行はお勧めできない。特に欧州球界を念頭に考えているならなおさらだ。

 

 欧州球界の各リーグにも外国人枠というものはもちろん存在するし、過去にも有名でないとはいえ少なくない数の日本人選手も実際に渡欧している。しかし欧州においては、彼らは我々がイメージするところのいわゆる「助っ人外国人」とは趣が違う。もちろん選手としての十分な実力が備わっていることは大前提だし、加えてそれぞれの国の事情により相違もあろうけれども、とりわけ日本やアメリカといった「野球先進国」出身者に求められるのはそれプラスアルファ、すなわちグラウンド外での球団に対する貢献なのだ。強豪国の育成システムで育ってきた人間として、いかに所属するチームそのものの発展に貢献できるかが問われているといえる。

 

 少し前の話になるけれども、都内某所でドイツ・ブンデスリーガ1部でプレーする日本人選手の方とお会いする機会があった。今年で3年目のシーズンを終えた彼は一軍で内野手としてプレーする傍ら、傘下にある2つのユースチームで監督を務めている。今年25歳、自分より5つも年下の彼は額は少ないながらも、球団からお金をもらってプレーしていた立場だ。「ドイツはクラブチームなので、極端な話お金さえ払えば誰でもプレーすることは可能。ただ、お金をもらってとなるとそういう形での貢献が必然的に求められる。球団も貴重な枠や予算を割くわけですから。『言葉は通じなくても同じ野球』なんてありえないですよ」と彼は自分に対して断言してくれた。

 

 同じような例は他国にも存在する。昨年オフの話だったと思うが、ベルギー1部リーグに翌年から昇格するヘント・ナイツから、日本人野手を紹介してくれという依頼を頂戴したことがある。その時にもやはり、「ユースチームで指導に当たること」という条件が加わっていた。ベルギーの別の球団では「外国人助っ人はボードメンバー(球団の最高意思決定機関である理事会のメンバー)になってくれ。それができない奴は元マイナーリーガーでも必要ない」というポリシーを採っているところさえあるらしい。彼らが理想とする外国籍選手像がどんなものか、おおよそお分かりいただけるだろうか。

 

 そして、これらの役割を担うにあたって必要なのが、「外国人に囲まれる環境でも物おじしないコミュニケーション能力」「自分の言いたいことや考えを不自由なく表現できる外国語能力」だ。残念ながら、欧州で結果を残せなかった日本人選手は往々にしてここが弱点となっている。実際、自分も半年前にオランダで多くの現地の野球人たちと会い、どの球団のファンからも「優秀な日本人選手を連れてきてくれよ」と言われたのだが、言葉を変えれば「優秀でない日本人選手は必要ない」という意味でもある。そして優秀か優秀でないかの分かれ道は、案外パワプロ的なステータスでは測れない領域だったりするのだ。

 

 現状、欧州球界においてはアメリカ・カナダ・キューバ・ドミニカ共和国・ベネズエラといった北中米諸国の選手が助っ人として主流であり、日本人選手の成功例・定着例はそれほど多いとは言えない。その背景にあるものとして、言葉の壁を見逃すことはできないだろう。一般的に英語が苦手という人がまだまだ多い日本人は、こうした国々の選手と比べて明らかにハンデを負っているといえる(今や欧州の非英語圏の国々の選手でも、野球をやっていれば最低限の英語は誰しも操る時代だ)。そして欧州では、日本が野球強豪国であるがゆえに日本人を「一挑戦者」として迎えてはくれない。

 

 だからこそ、もしもあなたが少しでも欧州行に興味があるのなら、外国語を学ぶ努力は絶対に怠ってはいけない。英語で自分の伝えたいことを自由に言えるようになるのは当たり前、できれば現地の言葉もある程度話せるようになっておくべきだ。スペインで複数シーズンプレーし続けている日本人投手を少なくとも2人知っていて、どちらも非常に自分には日頃からよくしてくださっているのだけど、お2人ともたまに日本人であることをこちらが忘れそうになるくらいスペイン語が堪能だ(たまに日本人同士なのに、スペイン語でツイッター上でのやり取りを始めたりするから面白い)。

 

 かくいう自分も英語以外の欧州言語は挨拶レベルなので、その点については大きな顔はできないのだけれど、それでも「英語はできる」からこそ現地の野球人と不自由なく意思疎通ができているのは事実だ。「英語で自分の言いたいことを表現できる」ことは国際人として、とりわけ国際野球界においては最低限の必須スキル。たとえあなたが選手としてどれだけ優秀であったとしても、ここから目を背け続ける限りは欧州球界挑戦は現実的な選択肢にはなりえないだろう。欧州では専属通訳という概念すら存在しないので、言葉ができなければ野球の前に異国での生活自体が苦痛となってしまうはずだ。

 

 もちろん、欧州行きも視野の1つとしている選手たちの興味を削ごうというつもりは毛頭ない。むしろ自分は野球界における日欧の移籍ホットラインは必要だと考える側の人間で、1人でも多くの選手たちに挑戦し欧州球界を盛り上げてもらいたいと本気で思っている。だが、決して長くはない野球人生の中の1年でも異国での生活に費やすのであれば、行ってよかったと思えるシーズンにしてもらいたいのだ。そのために何を準備すべきか、そしてその準備がしっかりできているかをぜひ選手の皆さんには問いかけたいし、慎重に考えてもらえればと思う。あなたは、「国際人としての覚悟」が本当にできていますか?