りくりゅうは欠場中も『希望を失わなかった』落ち込んでいた木原龍一を支えた、三浦璃来の″ある一言”『あらためて良いチームだと思いました』

  モントリオール世界選手権で、前年のタイトル保持者として挑んだペアの三浦璃来と木原龍一。木原の腰椎分離症という大きな怪我でシーズン前半を欠場した中、精いっぱいの演技を見せ、連覇こそならなかったものの、銀メダルを手にした

 

『たとえ滑れなくても…』毎日リンクを訪れた木原

  昨シーズンは三浦璃来が夏に左肩を脱臼し、およそ2カ月ほどトレーニング期間を失った。今季、木原の負傷が判明したのは、すでにシーズンに入っていた10月のことだったという。『リュウイチの痛みの原因がわかったのは、10月のジャパンオープンで日本に行った時でした』コーチのブルーノ・マルコットは独占取材に応えてこう語り始めた

 

『腰の痛みは以前から訴えていたのですが、日本で検査を受けて、最終的に腰椎分離症であるという診断が出たのです』

 

  昨シーズンは出場した試合ですべて勝ち続けてきた二人だが、今季はGPシリーズ、全日本選手権を欠場せざるを得なかった。そんな彼らをマルコットコーチは精神的な面を含めてどのようにサポートしていったのか

 

『リクは他の選手たちと一緒にずっとリンクでトレーニングを続けていました。リュウイチはフィジカルセラピーなどの治療を受けて身体を休めながらも、リンクには毎日来てもらっていたんです。たとえ滑れなくても、彼がリンクにいることは大事だと私は考えていました』

 

欠場中のりくりゅうは『希望をずっと失わなかった』

  不安になったり、モチベーションを失ったりした時はどう対応したのか

 

『もちろんつらかったと思います。出られない大会を映像で見ているのも、つらかったでしょう。でもリュウイチの痛みが少しずつ引いていくにつれて、慎重に、少しずつできることをやっていきました。ですから希望はずっと失わなかったと思います』

 

  医療関係者の指示を受けながら、少しずつスケーティング、2回転ジャンプ、リフトなどの練習を再開していったのだという

 

  ようやく平常のトレーニングができるようになったのは、2月に上海で開催された四大陸選手権のわずか2週間前のことだった。結果はステラトデュデク&デシャンに次いで2位。だが得点は自己最高スコアよりも30ポイント低く、特にSPでは3シーズンぶりに60点台となった

 

『SPのスコアが65点というのは、とても受け入れられなかった。あの時点ではそれが現実で、仕方のないことだったとはいえ、彼らはそんなスコアを目指してトレーニングしてきたわけではありませんから』

 

フリーを以前のプログラムに戻した理由

  モントリオールでは、フリーを2シーズン前の『Woman』に戻してきた。そのことを決めたのは、この四大陸選手権中のことだったという

 

『SPも、フリーも、手直しが必要でした。でも世界選手権までに両方完成させる時間はとてもありませんでした。我々の選択はSPかフリーのどちらかを、以前に滑り込んでいたプログラムに戻すこと。僕は「Woman」を彼らに強く勧めて、二人がそれに同意するという形で決めたんです』

 

  2020年から2シーズン使用した『Woman』は、10位だった2021年世界選手権から、翌年2位へと飛躍し日本のペアとして史上初めて表彰台に到達した二人を支えたプログラムである

 

『彼らにとても合っている作品ですし、良いイメージのあるプログラムに戻したことは正解だったと思っています』

 

緊張気味の三浦の横で、ニコニコしていた木原

  モントリオールのフリーでは、三浦はやや緊張した表情で、木原はニコニコと笑顔で登場した。『演技前は笑っていたので、多分余裕があったと思うんですよ』と木原は翌日、フリーを振り返って他人事のようにそう言った

 

『お客さんみんなに僕たちのことをもっと好きになってもらいたい、僕たちのことを知らなかった人もこれから応援していこうって思ってもらえるような演技をしたいと思って滑りましたし、カナダのお客さんは素晴らしい。良い演技を必ず応えてくださる。良い演技をしなくても全員に素晴らしい拍手してくれる方々なので、それに全力で応えようと思って滑りました』

 

フリー演技を終えた後、ぜんそくの発作が…

  馴染み深いメロディが始まると、二人はまるで着なれた服に袖を通すようにごく自然な動きで高い3ツイストから演技を開始した。後半のサイドバイサイドサルコウで三浦が2回転になった以外、ノーミスで滑り切った。フリーは144.35で1位。だがSPでの点差を補うことはできず、地元カナダのステラトデュデク&デシャンが初優勝を果たした

 

  思わぬハプニングが起きたのは、その後である

 

  ペアの表彰式が始まるまで長い時間がかかったが、三浦&木原が体調不良で式に出られないことが、発表された。木原の腰の負傷がぶり返したのか、と頭によぎったがそうではなかった

 

  表彰式を待っている間に木原の席が止まらなくなり、血中酸素濃度が落ちて酸素吸入を受けることになったのだという。その後も立ち上がろうとしてもふらつきがあったため、表彰式と記者会見を欠席することになった

 

『ここまでひどいのは今回初めてで…』

  会見場にはマルコット・コーチが来て事情を説明し、40歳で女子として史上最年長世界チャンピオンとなったステラトデュデクとパートナーのデジャンへ、木原からの祝福の伝言を伝えた

 

  後に日本チームのドクターから、運動誘発性のぜんそくの可能性が高いとの発表があった。モントリオールは連日雪で、空気が極度に乾燥していた影響もあったのだろう

 

運動誘発ぜんそくとは?

 

 

  翌日の一夜囲み取材で、薬で症状が落ち着いたという木原はこう説明した

 

『試合後に症状が出ることがあったんですけど、ここまでひどいのは今回が初めてで、今思い返せばここ数カ月ぐらい違和感は確かに出ていて、練習中から明らかに息があがることもありましたし、手のしびれとか感じてたんですけど、トレーニング不足から来てるものだという風に思っていました。今思えば違っていたのかもしれない。これから日本に帰国して治療を受けていきたいと思っています』

 

『あなたは出来るんだよ』木原を励ました三浦

  ここに到達するまでに、不安も抱えていた木原を三浦が支えてきたのだという

 

『龍一くんからネガティブな発言が出てくるというのはすごく珍しいというふうに感じました。良い練習を積んでいる中でもネガティブな発言がすごく多かったので、「あなたは出来るんだよ」って言って(笑)。私よりも自信を持った方が良いという話はしました』と三浦

 

  普段は年上の木原がリーダー的役割で、特に昨年は怪我をした三浦を木原が支えてきた

 

『普段からぼくの方がしっかりしていますし、サポートする立場は多いんで。その中でも(今季は)自分の弱い部分が出ることが多かったんですけど、初めてサポートしてもらって嬉しかったですし、感謝していますし、良いチームだなと改めて思いました』と木原はパートナーへの感謝の気持ちを口にした

 

  最終日の男子の表彰式の後に、3組揃ってのペアの表彰台写真撮影が改めて取り行われた。曇りのない笑顔で、他の2組を祝福した三浦&木原。大会後はしばらく日本で休養し、検査と治療に専念すると語った。オフシーズンにしっかり体調を整えて、万全の状態で来季に備えてほしい