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シムノンの謎解き序章 メグレ警視像の比較

今回(2022年版)に至るまでの歴代メグレ警視を比べてみる、というのも一興かもしれません。それはもちろん、映画化に携わった監督の「メグレ観」でもあり、そのまま「シムノン観」でもあるからです。原作ではメグレ警視は作者シムノンと同様フランス人ではなくベルギー人ですが、そのような警視(探偵)像に設定したのは「英国人アガサ・クリスティがベルギー人であるポアロを主人公にした」理由と同じではありません。時代を超えた人気作品ではありますが「どこかに違和感が残る」理由は、メグレ警視に見え隠れする人物像こそが「作者シムノンの人物像ではないか」という疑問です。端的に言って「ただの好人物、善人ではない」ということ。
Wikipedia: ジョルジュ・シムノン
ージョルジュ・シムノン(Georges Simenon, 1903年2月13日 - 1989年9月4日)は、ベルギー出身のフランス語で書く小説家、推理作家。
 息子のマルク・シムノン(フランス語版)(1939 - 1999)は映画監督で、女優ミレーヌ・ドモンジョの夫であった。(以下、シムノンに関しては有名作家の賛辞とは裏腹に「胡散嗅い」事実・風評が盛りだくさん。中には当時オランダ・ベルギーを傘下に収めていたナチスへの協力者だった、という説さえある。)
 初期の文学志向の作品を除き、メグレものを含めて彼の犯罪・推理小説での方針は(彼の言明によれば)難しい言葉は使わず、ボキャブラリーを絞り(大体600語程度)として大衆が読み易くすることであったとされる。厳密な推理というよりは「直感から出発する演繹手法」であり、辻褄の合わない箇所も続出で、文章作法も通俗的。
   
上記画像は「仕立て屋の恋」のパトリス・ルコントが監督した新作メグレ警視のもの。定年間近かのメグレの胸に去来するものは何か、に焦点を当てている。
☆ Maigret (2022)(英語字幕をご覧になりたい方はServer 2をご選択ください)
Maigret
トリビア:因みに「Maigret」を辞書でひくとシムノン作品の主人公だという説明しかない。元はフランス語の形容詞で「肉を使わない」こと。カトリックではmaigret dishは精進料理を意味する。シムノンは自称カトリックである。作品が猟奇的な犯罪を描くことが多いので、彼一流の皮肉かも知れない。「喰えない奴」が洋画探偵の総評。

シムノンの持つ闇の面を極力善意に解釈し、「犯罪者を許さない」鬼警視として映像化した作品(ジャン・ギャバンのシリーズはフィルム・ノワールと解釈できる)。
  
最も温厚な人物像に仕立て上げたのが英国BBCであった、というのも面しろい。マイケル・ガンボン主演。
 ある解説:マイケル・ガンボンは、ジョルジュ・シムノンのペンによるテレビの古典的な架空の探偵の一人である、パイプ喫煙者のベルギー人のメグレ主任警部を演じます。直観力があり、知的で、天才的な人間性を備えたメグレは、他のどの刑事とも似ていません。捜査している犯罪の核心をまっすぐに突くことは決してありません
(まるで無能であるかのような:探偵汗)
ok.ru: Patience of Maigret
Or, Youtube


トリビア:メグレの勤務する「パリ警視庁」の通称は日本で言えば「桜田門」にあたる、セーヌ川西岸の「オルフェーブル」、対岸は「犯罪河岸」とも呼ばれる下町。門に立つ若い(美男の)警官はメグレを崇拝し、憧れている。

シムノンは難解なのか、という謎を解く(後で...汗)

     
 【あらすじ】
ある夜、公園で若い女性が殺されるという事件が起き、警察は過去に性犯罪を起こしたことがある仕立て屋イールを怪しいとにらむ。人付き合いが苦手なイールは、日夜、向かいのアパートメントの美女アリスを覗き見。声をかけるでも触れるでもなく、ただブラームスのレコードをかけながら窓から彼女の姿を見ている孤独な人物。そしてイールは真犯人がアリスの婚約者だということを知っていた……イールと対面するアリス。彼の運命が狂い始める……。
Amazonより
 孤独で無口な仕立て屋のイールは、向かいの部屋に住む魅力的なアリスの姿を1人のぞき見ながら、彼女への想いを募らせてゆく。アリスは彼を利用すべく徐々に彼を誘惑。彼女の裏切りを感じながらも、彼が貫いた愛の結末は…。
ジョルジュ・シムノンの同名の原作がもつサスペンス性に加え、「究極の愛こそ悲劇的」というテーマにも挑み、心の奥底にずっしり響く作品に仕上がっている。監督は『髪結いの亭主』『イヴォンヌの香り』など、フランス映画界の巨匠パトリス・ルコント。哀愁あふれるブラームスの四重奏曲、『他人のそら似』のミシェル・ブランの名演技、繊細であでやかな映像美など、見どころ満載の秀作だ。(うさこ チャン)
【キャスト】
ミシェル・ブラン
サンドリーヌ・ボネール
リュック・テュイリエ
アンドレ・ウィルム
予告編に代えて、ブラームスのピアノ四重奏曲Op.25(注:画面は左右方向に縮小されています)
☆ ok.ru: Monsieur Hire
Op.25の完全版は下記
Brahms - piano quartet no 1 g-minor op 25 - by Fauré Quartett


本編(ok.ru:英語字幕入り)
Monsieur Hire (1989) 、Director Patrice Leconte, Cast Michel Blanc, Sandrine Bonnaire, Luc Thullier, André Wilms,

新メグレ警視、2022年


 第42回カンヌ国際映画祭にノミネートされた『仕立て屋の恋』や 第16回セザール賞にて7部門ノミネートされた『髪結いの亭主』など 大人の恋愛劇を手がけてきたフランスの名匠パトリス・ルコント監督の最新作。
 ルコント監督が8年ぶりに制作した最新作は 「仕立て屋の恋」の原作者でもあるジョルジュ・シムノンの傑作ミステリー小説が原作。
 シムノンの代表作である「メグレ警視シリーズ」の中でも人気の高い 1954年に発行された小説「メグレと若い女の死」を基に描かれる。
 犯人探しのための謎解きだけでなく 身元不明の若い女性の死を中心に メグレ警視が女性の素性と生涯を探りながら事件の背景に迫っていく様をエレガントに描き出すヒューマンミステリー。
「メグレ警視シリーズ」は世界中で映像化されており 日本でも「東京メグレ警視シリーズ」として1978年にテレビ朝日系列で放送。そのときは愛川欽也がメグレを演じたが この度のルコント版で主人公メグレ警視役を務めるのは 『シラノ・ド・ベルジュラック』の 名優ジェラール・ドパルデュー。身長180センチ 体重100キロという原作に忠実な姿に 渋みを漂わせる名演が見どころだ。
 また本作は 「フランス映画祭2022」で一足早くお披露目され ルコント監督の来日も予定されている。

『メグレと若い女の死』公式サイト
(日本語字幕入り予告編を含む)

原語(仏語)音声/英語字幕版本編は123.moviesからどうぞ。Server 2を選択してください(速い者勝ち)。
Maigret