映画探偵室 -5ページ目

拘りの歌詞 シルヴィー・バルタンの『アイドルを探せ』

大ヒット以来、日本での訳詞も誤解されたままで今日まできました。聞き捨てならないと思いながらも自分では訂正すらしなかったタンテイはx(ぺけ)でした。歌のタイトルはLa plus belle pour aller danser(ダンスには最も美しい私で臨む)です。

誤訳の典型は「ダンス・パーティで一番美しいのはワタシという高ビーな金髪女=シルヴィー」というものでした。フランス語も「歌い手がお針子」という設定も判らない大見当違い。ならば私メがと息込んでみたら、それよりgooな解説を見つけました。

アイドルを探せ:シルヴィ・バルタン(歌と訳詞)、2017.03.13

Ce soir je serai la plus belle
Pour aller danser
Danser
Pour mieux évincer toutes celles
Que tu as aimées
Aimées
Ce soir je serai la plus tendre
Quand tu me diras
Diras
Tous les mots que je veux entendre
Murmurés par toi
Par toi

Je fonde l'espoir que la robe que j'ai voulue
Et que j'ai cousue
Point par point
Sera chiffonnée
Et les cheveux que j'ai coiffés
Décoiffés
Par tes mains
Quand la nuit refermait ses ailes
J'ai souvent rêvé
Rêvé
Que dans la soie et la dentelle
Un soir je serai la plus belle
La plus belle pour aller danser (x3)

Tu peux me donner le souffle qui manque à ma vie
Dans un premier cri
De bonheur
Si tu veux ce soir cueillir le printemps de mes jours
Et l'amour en mon cœur
Pour connaître la joie nouvelle
Du premier baiser
Je sais
Qu'au seuil des amours éternelles
Il faut que je sois la plus belle
La plus belle pour aller danser (x3)
La plus belle pour aller danser 一番きれいになって踊りにいく

今夜、踊りに行く子の中で私が一番きれいになる(1)
あなたが好きだった女の子みんなに勝つために
今夜、あなたが私に一番甘い言葉を語るの
あなたにささやいてほしいと思っている言葉をみんな

ほしかったドレスに望みをかけているわ
ひと針ひと針自分で縫ったドレス(2)
あなたの手でしわくちゃになるわ(3)
私が結った髪もあなたの両手がくずしてしまう

夜がその翼を閉じると、よく夢見ていたわ
夢を
絹とレースを身にまとい、ある夜、私が一番きれいになるって
一番きれいになって踊りにいくわ

あなたは私に息吹をくれるの。私の人生にはなかったものよ
はじめての幸せの叫びで
もし、今夜、あなたが私の人生の春を摘み取りたいなら
愛は私の心の中にあるわ

初めてのキスの新しい喜びを知るために(4)
永遠の愛の始まりの時は
一番きれいにしなければいけないの
一番きれいになって踊りに行くわ

微妙な箇所にアンダーラインを引きました。
(1)「一番きれいになって踊りに行く」とは言ってはいても、「ダンスパーティでは自分が断然イチバンだ」とまでは言っていない。パーティで出遭ったイチバン素敵な男性から自分がイチバンきれいと言って貰いたい、という願い。
(2) この娘は洋服を作る事において「素人」ではない、「お針子」なのです。日ごろ他人のために服を縫っている。しかし、この一番とパーティのために自分のドレスを縫ったのです。一針一針心を込めて。1970年代とはいえ、フランスはまだまだ「階級社会」で、「お針子」は下層庶民でした。
(3) 髪(les cheveux)と並べて目的語になっているので「しわくちゃにする」としたのでしょうが、Décoiffés par tes mainsは「あなたの手で脱がされる」ですね。そこまで覚悟しているわけです。日本の女性のように「ぶりっ子」ではありません。
(4)この一言で今夜出遭うかも知れない素敵な人とは初対面であることが分ります。
最後に、これはしがないお針子の生涯一度の賭け、そのような「夢」を歌ったものであることを。シルヴィーに幸せあれ、と願わずにはいられなかった....

別タイプの異邦人、それはキース・ポピンガ

と探偵が書いても、「何それ?」程度の興味しか抱かせないと思いますが、探偵はなぜこの男の名前をアメブロのハンドルネームにまでしているのか?
   
下は米国で出版されている単行本の表紙。主人公の貌(かお、プロフィール)が判然としないという本作品のテーマをズバリ表現しています。今風に言えば「異次元」でしょうか。
    

  
映画版の画像で必ず登場するこの女優さんは今日では忘れられている(日本ではお馴染みのない)マルタ・トーレン。実は、原作では殺されているのです。
     
原作はメグレ警視シリーズで有名なジョルジュ・シムノン。タイトルは『汽車を見送る男』。映画はサスペンス型エンタテインメントして或いはパルプ・フィクションとして「相当」デフォルメされています。理由は「難解さ」にあるのではなく、主人公に感情移入できないからです。重要な役どころ=主人公の唯一の理解者を演じる女優であるアヌーク・エーメ(あの「男と女」の「女」ですよ)もタイトルには出るものの筋の上では異なって解釈されています。

しかし、解るひとには解る。探偵よりは年下ではあるもののそこは一流の作家、「パラサイト・イヴ」の瀬名秀明です。
小説の神様に手が届いて…
 氏も指摘しているように、本作品の初翻訳は英文学者菊池武一によるもので、なんと以後原語(仏語)からの翻訳さえ刊行されていません。シムノン財団の投げやりさというか、頑固さというか、再翻訳が認められていないようなのです。
 あり難いことに本作品(映画)も時代の流れに沿ってデジタル・リマスター化され、ようやくその謎が解明できそうです。

主人公キース・ポピンガはただの汽車オタクでは無かったのです!!
ok.ru: The Man Who Watched Trains Go By 1952
or, The Man Who Watched Trains Go By (1952) ( The Paris Express 「パリ行き特急」) [ NON-USA FORMAT, PAL, Reg.0 Import - Italy ]
ちなみにフランスでの刊行はFolio叢書から
 (筆者蔵)  L'Homme qui regardait passer les trains
infos
なお、菊池武一の翻訳は国立国会図書館のデジタル・コレクションに蒐集されています。
『汽車を見送る男」斉藤武一訳、1954

ジャンヌ・モロー

      

「裁かれないジャンヌ」というのが洋画探偵の表現です。まあ善悪の彼岸というか別格というか(汗。
 8月1日にアメーバブログから「2年前の8月に書いた記事があります。」というお知らせが届いたので、その回「それは悪女なのか 追憶のジャンヌ・モロー (改)」を再訪してみたところ、Upしていた動画に適切な字幕が付いていないことに気付きました。
「それは悪女なのか 追憶のジャンヌ・モロー (改)
そこで改めて別の動画を捜索したところ、日本語字幕入りこそありませんでしたが、きちんとジャンヌのフランス語が聴ける「英語へ自動翻訳(注)される字幕入り」という動画を発見しました。ま、デジタル時代の今では当たり前なのでしょうが。

サービス動画 ジャンヌ・モロー賛
(死刑台のエレベーター、英語字幕版),
Internet Archiveより
Lift To The Scaffold
注:英題にあるScaffoldとは足場とか処刑台等を表します。ここから、この死刑台が絞首台であるかのように思われますが、本作品当時のフランスでは、1981年にミッテラン政権下で死刑が廃止されるまで、唯一の執行方法はギロチンでした。
Wikipedia: フランスにおける死刑

注:ラテン系言語からゲルマン系言語への自動翻訳は現在かなり品質が向上していますが、映画字幕用に用いられているAIエンジンはさ程ではありません。

で、洋画探偵が「マルグリット・デュラスに影響を与えた女優」とされるジャンヌ・モローの重要映画、「雨のしのび逢い」も原語重視としました。
☆ Studio Canal提供→ok.ru
Moderato Cantabile [1960 ] (FHD)
(英語字幕入りはStudio Canalからも提供されていますが、日本では版権の関係で視聴不能です:館長)