あの時の音 | ルーラルアート+ふるいちやすしの日記

あの時の音

ルーラルアート+ふるいちやすしの日記

あの時の音を聴こう
そうすればきっと蘇る
飽きずに何度でも心は高鳴る
変わってしまったのではない
確かにたくさんの
ずいぶんたくさんの音が積み重なって
よく分からなくなっているけど
下の下の
肝の奥深くに
きっとまだある共振板
今またそれを振るわせる事は
危険だけど、大人げないけど
あの時の臭いは忘れた
あの時の光はもう二度と見られない
だからあの時の音を
また
聴こう

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とにかくギターに夢中だった中高生の頃
クラシックマニアだった父親が
裕福でもないのに突然買ってしまった
Celestion DITTON25という英国製のスピーカー
頭を抱える母と逆切れに近いふてくされの父
(喜んでもらえるとでも思ったのか?)
それを尻目に大音量でロックをかけまくる
父はカンカンだったが所詮会社員
昼間はこっちの物だ
Allman Brothers Band / エリザベス・リードの追憶
あの時の音だ

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やがて僕はプロのギターリストになった
とは言ってもアーティストとしてではない
いわゆる職人ギターリストというやつだ
その世界は
物心ついた時にはすでに音楽を初めていた人
楽譜を見たと同時に弾き始める人
それが当たり前の世界だった
中学生になってからジャンジャカジャーンとギターを弾き始めた僕が
いや、それでもそうとう頑張ったが
上へ昇っていけるような所ではなかった
演歌であろうとジャズであろうと
好きであろうがなかろうが
とにかく弾かなければならなかった
そんな音が
僕が愛していたロックや
後で愛していると気付いたクラシックや映画音楽の上に
べたべたと積み重なっていった

ついに僕はその道をあきらめて
作曲家としてやっていく事にした
その後、プロデューサーとなり、
今は映像を作るようにもなっているが
職人ギターリストの呪縛からだんだん逃れ
自由になってきている気がする
おかしなもので
今、ギターを弾くのがとても幸せだ
というか、
あの世界では幸せではなかった事に気付く
そして今必要な感性は
おそらくプロになる前の
ギターに夢中だった頃のあの高鳴りなんだろうと思う
それは映像を作る為でも
変わりはない

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その後
父親から譲り受けたCelestionは
女房から“でかすぎる”という理由だけで自宅を追われ
今は僕のスタジオに在る。
もう決してプロの音作りに最適な物ではなく
コーン紙がいつ抜け落ちてもおかしくない老人だ
だけど、できれば、ずっと側にいてほしい
大事な仕事がある
今はCDになってしまって
アンプもモダンな物ではあるけど
Allman Brothers をかける。

僕にはあの時の音を聴く必要があるんだ。