Fender Telecaster Thinline | ルーラルアート+ふるいちやすしの日記

Fender Telecaster Thinline



なんともゴージャスなFender Telecaster Thinline。
実は僕が19歳でプロのギターリストになった時、
始めて買ったヴィンテージギターが1969年製のこれ。
いや、もちろん昔のギターなのでこんなゴージャスな物ではなく
ボディーはオリジナルのマホガニー材。
ネックも所々塗装が剥げているものだった。
70年代に入ってハムバッキングマイクになる前のシングルコイルが付いてる物で
写真でしか見た事なかったがずっと憧れのギターだった。
それをある日先輩ギターリストが使っているのを見て
何度も何度も頼み込んで
やっとの事で売ってもらった。
そう言えば当時はヴィンテージギターのお店なんて
今のようにはなかった。
だからこんな珍しいモデルが日本で見られる事が稀で
当然、高かった。
正確な値段は覚えてないが、
優しい先輩がプロになったお祝いも兼ねてかなり安くで譲ってくれた。
それでも当時の僕にとってはとんでもない買い物だった記憶がある。



そんな価値の高い物だったもんだから
お金に困った時には真っ先にお金に換わってしまう。
「なんだ、そんなもんか。」と言わないでくれ。
そりゃ愛着は普通のギターとは格段の差がある。
それがヴィンテージともなると
もう二度と再び、買い戻す事はおろか、お目にかかる事もないと覚悟しなければならない。
貧乏を呪い、そうなってしまった自分の力のなさを呪い、
最悪の気持ちでお別れをする。
また、珍しいギターでもあったので
仕事の度に「あれ?シンラインはどうしたの?」なんて聞かれてしまう。
何度も何度も屈辱を味わう。




その後も懲りずに何度かヴィンテージギターを買った
1953年製Fender Telecaster、1968年製Gibson ES-330
だが結局同じ運命を辿り、
貧乏の沼に吸い込まれていった。
そしてその度に味わう特別な屈辱。
ついにトラウマとなって
僕は二度とヴィンテージを買わなくなった。
今では楽器屋も増え、
手頃な値段でかなりできのいいレプリカモデルも売り出されている
だがヴィンテージはもちろん、レプリカですら買う気にはなれない。
悔しくって。




そして今日、
ちょっとした部品を買いにいった楽器屋で
このゴージャスなシンラインが中古品として出ているのを目にした。
以前の物とは似ても似つかないきらびやかさ。
あまりに違うギターなのでトラウマの痛みは感じない。
で、弾いてみると、ああ、やっぱりシンラインの音。
ちょっと待て。一回冷静になろう。
一旦外に出てカフェに入り平静を装う。
確かに今でも仕事としてギターは弾いている。
でもスタジオミュージシャンをやってる訳ではないので
そんなにいろんな音を求められる状況ではない。
はっきり言って今持ってるギターで充分事足りている。
ふと、今も一線で活躍している友人のギターリストの顔が浮かんだ
そいつがあろう事か「買うてまえ!買うてまえ!」と笑顔で連呼している。
いやいや、お前とは状況がちゃうんや。
よし、このまま帰ろう!
カフェを出て15分後、


クレジットカードを差し出す僕がいた。
あああああ・・・・・・・ええ音や・・・・。
今はただこのギターが貧乏沼に吸い込まれる事がないように祈るばかり。
そんな時にはきっと10万倍の屈辱が僕を襲うだろう。