『千年の糸姫』① | ルーラルアート+ふるいちやすしの日記

『千年の糸姫』①



撮影は順調とは言えないまでも
あとは千年前のシーンを撮る1日を残すのみ。
この橋は主人公、糸が明るく働く町と
重い運命の中で暮らす家を隔てる橋。
ここを渡る糸の姿がどうしても撮りたくなって追加したシーン。




だけど僕が想像していた姿と
表情も足取りも全く違っていた。
それは糸を完全に宿した主演の
二宮芽生が見せてくれた本当の姿。
いつも言ってることだが、
はじめは僕の頭の中にある全ての登場人物は
役者一人一人に託し、彼女達がそれを宿してくれた時、
本物になる。
そうなると僕の想像など全く意味を持たない。
たった2カットのこのシーンは僕の大好きなシーンになった。
そればかりかこのシーンが音楽的にもとても大きな意味を持つことになる




去年、すでに本を書き上げていた僕には
ロケハンを重ねる内に一つのメロディーが聴こえ始めていた。
でもそれには確信が持てなかったことも事実で
それをテーマ曲にする事にはためらいもあった。
ロケ地が下仁田町に決まり、
稽古で役者達が登場人物の姿と思いを
徐々に見せてくれるようになってから
またそのメロディーが甦り
その曲をテーマ曲にすることに決めた。
ただ、当初はそれをクラシックギターで演奏しようと決めていた。
それは町の空気感とぴったりマッチするように思えたからだ。

そして先ほどの橋のシーンだ。
その町に本物の糸が現れて
どうにも拭えない違和感を感じた。
糸の持つ思い
細さと強さ
運命と儚さ
透明と濁り

なんだろう?この響きは?
クラシックギターの響きではないような

いろんなギターで試してみたが
結局愛機ラリビーのスチール弦の中にその「響き」を見つけた
同時に聴こえてきた新たなカウンターノートをアレンジに組み入れ
演奏は更に難しくなってしまったが
まぁ、編集が終わる頃には弾けるようになっているだろう。




これが僕の至福の時。
映画は美術であり、文学であり、音楽でなくてはならない。
それらを役者たちが生き物にしてくれて
舞台を選び、その姿をカメラに収め
彼女達の声も心の響きも音楽として
一つにしてゆく。
ずいぶんしんどい人生だったけど
音楽家で良かった。
今でもしんどいけど
これを一つに感じられる自分で良かったと
心から思う。