真正商品の並行輸入により商標権非侵害 | 知財アラカルト

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平成30年(2018年)2月7日知財高裁2部判決
平成28年(ネ)10104号 販売差し止め等請求控訴事件

(原審:東京地裁平成28年(ワ)10643号)


控訴人(一審被告):ジュエリー・ミウラ

被控訴人(一審原告):ミツムラ


 本件は、 控訴審であって、原審の判断とは異なり、控訴人(被告)輸入販売する身飾品類に対する商標使用行為は、被控訴人(原告)所有の商標権に対する侵害の違法性阻却事由に該当する、即ち、控訴人の当該商標使用は、真正商品の並行輸入における使用と認定され、侵害しないと判断され原判決が取り消された事件に関するものです。原審では、原告商品と被告商品の品質は同一であるとはいえないなどとして、真正商品の並行輸入における商標の使用とは認められず、被告の行為は原告所有の商標権を侵害すると判断されていました。

最高裁HP:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=87483

 

(1)事件の概要
①原告所有の商標権など

 原告(被控訴人)は、登録5799743号の下記商標(本件商標1)に係る商標権と登録5799744号の商標(本件商標2)に係る商標権(指定商品は本件商標1と同じ)を所有しています。

商標:NEONERO (標準文字)

指定商品:第14類「宝玉・・身飾品など」

 

 一方、被告(控訴人)は、イタリアの訴外PVZ社から商品を輸入し、その商品に控訴人標章1などを用いて広告すると共に販売していた。なお、PVZ社は、PVZ社欧州商標の欧州における商標権者であった。そして、その製造に係る飾品類を、「NEONERO」のブランド名(本件ブランド)下に、本件商標2と同一の標章を用いて販売している。

 

 

②原審の判断

 原判決は,控訴人による商品の輸入販売行為はいわゆる並行輸入による商標権侵害の違法性阻却事由該当するとはいえず,被控訴人の控訴人に対する本件商標権の行使が権利濫用当たるということもできないなどとして,被控訴人の請求を全部認容

③争点

 1)並行輸入による商標権侵害の違法性阻却事由該当性(主)
 2)
商標権の行使の権利濫用該当性

 

(2)裁判所の判断
 裁判所は、控訴人(被告)の並行輸入による商標権侵害の違法性阻却事由該当性について次のように認定し、本件被疑侵害行為は、実質的違法性を欠くものと解して、侵害しないと判断しました。

1) 控訴人は,本件商標登録後である平成27年12月11日頃,PVZ社から直接,又はMCE社を介して輸入した身飾品である控訴人商品を販売するための本件チラシに,控訴人標章を掲載して,本件チラシを頒布した(以下,「本件被疑侵害行為」という。)。
 控訴人標章1は本件商標1と色違いにすぎないから,ほぼ同一である。控訴人標章2は,本件商標2と色違いにすぎないから,ほぼ同一である。本件催事に出品された控訴人の商品は,いずれも身飾品であって,本件商標の指定商品に含まれる
2)ア 商標権者以外の者が,我が国における商標権の指定商品と同一の商品につき,その登録商標と同一の商標を付されたものを輸入する行為は,許諾を受けない限り,商標権を侵害する(商標法2条3項,25条)。しかし,そのような商品の
輸入であっても
①当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に付されたものであり,②当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があることにより,当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するものであって(以下,「第2要件」という。),③我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあることから,当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価される(以下,「第3要件」という。)場合には,商標権侵害としての実質的違法性を欠くものと解するのが相当である。(最高裁第一小法廷平成15年2月27日判決)
 そして,商標権者以外の者が,我が国における商標権の指定商品と同一の商品につき,その登録商標と同一の商標を広告に付する行為は,許諾を受けない限り,商標権を侵害する(商標法2条3項,25条)。しかし,そのような行為であっても,登録商標と同一の商標を付されたものを輸入する行為と同様に,商標権侵害としての実質的違法性を欠く場合があり,その場合の上記①の要件は,当該商品に当該商標を使用することが外国における商標権者との関係で適法であること(以下,「第1要件」という。)とすべきである。
 イ 第1要件について
(ア) PVZ社は,本件商標2と同一の標章を用いてその商品を販売している。PVZ社商標は,別紙PVZ社商標目録のとおり,デザイン化した「NEONERO」の欧文字の下部に左から右にかけて緩やかにカーブしながら下がる曲線を配し,その曲線の下に小さく「FORME PREZIOSE」の欧文字を記したものである。「NEONERO」の文字が「FORME PREZIOSE」の文字より格段に大きいこと,PVZ社は「NEONERO」の本件ブランド名を用いて身飾品を製造及び販売してきたことからすると,PVZ社商標の要部はデザイン化された「NEONERO」の文字部分であるものと認められる。

 控訴人標章2は,「PIZZO D’ORO」の欧文字を上段に小さく,「NEONERO」の欧文字を下段に大きく配してなるものであり,その文字の大小に各段の差があることから,要部は「NEONERO」部分であるものと認められる。したがって,控訴人標章2の要部は,PVZ社商標の要部とその外観が類似し,称呼を同一にする。以上より,PVZ社商標と控訴人標章2とは,類似する。
 控訴人標章1は,別紙控訴人標章目録のとおり,「NEONERO」の欧文字を書してなるものであるから,PVZ社商標の要部とその外観が類似し,称呼を同一にするものであって,PVZ社商標と控訴人標章1は類似する。
 そうすると,控訴人標章1及び2は,欧州においては,PVZ社の許諾なくして適法に使用することはできないものであると認められる。
(イ) 上記のとおり,控訴人標章1及び2は,PVZ社商標と類似するものであるが,控訴人商品は,いずれもPVZ社から輸入されたものである上,控訴人がこれに手を加えて販売したとも認められないから,控訴人が控訴人商品の広告に控訴人標章1及び2を付する行為は,PVZ社の商標権の出所識別機能や品質保持機能を害するものではなくPVZ社との関係で適法なものということができる。
(ウ) したがって,本件被疑侵害行為は,第1要件を充足する。
 ウ 第2要件について
 第2要件は,内外権利者の実質的同一性をいうものであって,「法律的に同一人と同視し得るような関係がある」とは,外国における商標権者と我が国の商標権者が親子会社の関係や総販売代理店である場合をいい,「経済的に同一人と同視し得るような関係がある」とは,外国における商標権者と我が国の商標権者が同一の企業グループを構成している等の密接な関係が存在することをいうものである。
 被控訴人はPVZ社と本件ブランド商品について日本における本件販売代理店契約を締結し,被控訴人はPVZ社の日本における独占的な販売代理店となったものであるから,PVZ社と被控訴人とは,法律的に同一人と同視し得るような関係にあるといえ,本件被疑侵害行為は,第2要件を充足する。
 エ 第3要件について
(ア) 第3要件は,我が国の商標権者の品質管理可能性についていうものであるところ,外国の商標権者と我が国の商標権者とが法律的又は経済的に同一視できる場合には,原則として外国の商標権者の品質管理可能性と我が国の商標権者の品質管理可能性は同一に帰すべきものであるといえる。ただし,外国の商標権者と我が国の商標権者とが法律的又は経済的に同一視できる場合であっても,我が国の商標権の独占権能を活用して,自己の出所に係る商品独自の品質又は信用の維持を図ってきたという実績があるにもかかわらず,外国における商標権者の出所に係る商品が輸入されることによって,そのような品質又は信用を害する結果が生じたといえるような場合には,この利益は保護に値するということができる。
(イ) 前記1の認定事実によると,PVZ社は,本件商標登録以前から本件ブランドを付した商品を控訴人及び被控訴人に対して販売し,日本において流通させていたところ,被控訴人が本件商標権を登録したのは,PVZ社の商品を独占的に輸入し販売するためであり,その登録は,PVZ社の許諾を得て行ったものであり,本件商標1は本件ブランド名そのものであり,本件商標2は,PVZ社が本件ブランドのために使用していた標章を用いたものであると認められる。本件において,被控訴人商品は身飾品であり,使用者が他人から見えるように装用して,商品の美しさでもって使用者を飾るという機能を有するところ,被控訴人が,PVZ社パーツの組合せや鎖の長さなどを指定し,引き輪やイヤリングのパーツを取り付けたことは認められるものの,引き輪やイヤリングのパーツは身体を飾るという被控訴人商品の主たる機能からみて付随的な部分にすぎない。被控訴人のウェブサイトには,PVZ社作成の画像及びPVZ社が使用するのと同じ本件ブランドのロゴが用いられPVZ社パーツのレース状の模様は明確に認識できるが,被控訴人が独自に付したパーツが強調されている部分はなく,また,PVZ社パーツのレース状の細工以外のデザインが良いことや,引き輪やイヤリングのパーツが使用しやすいといったことは,上記ウェブサイトには記載されておらず,このような事項が需要者に認識されていたとは認められない。さらに,被控訴人は,被控訴人商品について保証書を発行していたものの,その内容は,「品番」「仕様」のみであり,保証内容から被控訴人独自のパーツが付されていることを購入者が認識できるものとは認められない
 これらの事情を総合考慮すると,被控訴人が,PVZ社とは独自に,被控訴人の商品の品質又は信用の維持を図ってきたという実績があるとまで認めることはできず控訴人商品の輸入や本件被疑侵害行為によって,被控訴人の商品の品質又は信用を害する結果が生じたということはできない。したがって,被控訴人に保護に値する利益があるということはできない
 なお,被控訴人は,独自の検査体制によって商品の品質維持を図り,販売した商品の無償での部品交換に応じて商品の信用維持に努めているなどと主張するが,被控訴人が身飾品の輸入販売業者が通常行っている品質や信用を維持するための行為を超えてこれらの行為を行っているとまで認めるに足りる証拠はなく,上記判断を左右するものではない。
(ウ) 以上より,控訴人商品と被控訴人商品とは,本件商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価すべきであり,本件被疑侵害行為は,第3要件を充足する。

3)以上より,本件被疑侵害行為は,第1要件~第3要件をいずれも充足し,実質的違法性を欠く。

 

(3)コメント

①本件は、真正商品の並行輸入に関して、被告・控訴人の商標使用行為は、要するに、形式的には違法であっても、原告・被控訴人の商品の品質保証機能を害さないから、実質的違法性を欠き、原告・被控訴人の商標権を侵害しないと判示するものです。並行輸入の侵害是非が問われた事件は珍しいと思います。

 一審地裁では、逆に品質保証機能を害するとして実質的違法性を欠くとはいえないなどとして、商標権侵害が肯定されていました。本知財高裁との相違は、解釈の違いによるものと思われますが、本知財高裁の方が原告・被告商品の品質保証機能に関して、比較的緩やかに判断しているように思われます。原告・被告商品の品質保証機能が十分に一致していなくても、あるいは原告商品には+αの品質保証機能があっても、本質が変わらなければ問題ないということかと思われます。本質が変わらなければ、需要者は不測の不利益を被らないとの判断があるからではないかと思います。

各国商標権はそれぞれ独立していますから(商標権独立の原則)、外国で適法に商品に使用された商標であっても、その商品を日本に輸入しても問題ないかと言えばそうではなく、侵害を構成する場合があります。これは、真正商品の並行輸入として認められるか否かの問題です。今日においては、商品流通がグローバル化していることから、十分に起こりうる問題かと思います。

③本件は、商標権に関する並行輸入の問題ですが、古くは昭和40年代に地裁レベルですが、パーカー万年筆事件(大阪地判昭和45年2月27日、昭和43(ワ)7003)があり、当該事件では、商標保護の直接の対象は商標の出所表示機能品質保証機能にあるとし、それらを害さない並行輸入は実質的違法性を欠き商標権侵害を構成しないと判示されました。

 また、今回取り上げました判決でも述べられていますが、比較的最近の判例も存在します(フラッドペリー事件、最判平成15年2月27日、平成14(受)1100、偶然か判決日はパーカー事件と同じ年月)。フラッドペリー事件により、イ号が真正商品の並行輸入として実質的違法性を欠くか否かの要件が示されました。

特許についても同様な問題がありますが、商標権の同問題とは少し趣を異にします。特許の場合は、単に真正商品の並行輸入というだけでは実質的違法性を欠くとはなりません。しかし、一定の並行輸入品については、特許権を侵害しないことが最高裁判決で示されています(BBS事件、、最判平成9年7月1日、平成7(オ)1988)。ここではこれ以上コメントしませんが、特許の場合は国際消尽の問題として考えます。

⑤なお、真正商品の並行輸入として、また国際消尽論から侵害性が阻却されるとの主張は、いずれも被告の抗弁ということになります。

 

以上、ご参考になれば幸いです。