第303回 突然のセカンドオピニオン | [粒子線治療][陽子線治療][菱川良夫] 名誉センター長のこばなし ~がんから学ぶこと~

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一般社団法人 メディポリス医学研究所
メディポリス国際陽子線治療センター 名誉センター長
菱川良夫による講演からの小話。

先日、センターの受付スタッフから、「セカンドオピニオンをして欲しいという患者さんが見えています」と連絡がありました。

 

当センターでのセカンドオピニオンは予約制で、突然というのは前例がありません。
資料も何もない高齢者の女性でしたが、私に時間があったこと、悪意がなかったこともあり、お話を聞くことにしました。

 

面会が始まると、彼女はゆっくりと話し始めました。
年齢は80代半ばで、なんと中国地方から新幹線と在来線を乗り継ぎ、一人でセンターに来たそうです。

 

ものすごくしっかりしているのですが、少し耳が遠いようでしたので、いつもより大きな声で話しました。

 

 

診療情報提供書(紹介状)なしで来られた理由を聞くと、面白いことがわかりました。

 

彼女は、半年前に腹部臓器のがんで手術と放射線治療を受け、その治療が適切に行われ、完治していたようです。
 

しかし、本人はそのように理解しておらず、主治医に「陽子線治療を受けたいので紹介状を書いて欲しい」とお願いしたそうです。

完治しているわけですから、主治医の先生は「それは書けない」と彼女に言いました。

 

そこで、大切に保存していた去年の秋に私が載った週刊誌の記事を頼りにセンターに来たというわけです。
ちなみに、記事を見た秋の時期は、丁度がん治療が始まったばかりで、指宿行きを断念したそうです。

 

話を聞きながら、「主治医の先生が紹介しなかったのは、治っているからですよ」と伝えました。
何度もゆっくり伝えているうちに理解できたようで、ニッコリと微笑みました。

 

最後に、「どうしても陽子線治療が必要になったら、先生が診療情報提供書を書くから、また来て下さい」と伝え、セカンドオピニオンを終了しました。

 

 

こちらかすると突然のセカンドオピニオンですが、患者さんからすると半年も前から考え、たったひとりでセンターを目指し、この日に至ったわけです。

 

センターのルールにのっとれば、門前払いをすることも出来たわけですが、ここに至るまでの気持ちを汲み取ると、予定を調整してもお話しを聞くのが「優しさ」です。

 

また一人、安心と喜びを胸にセンターから帰る人がいる。
そう考えると、とても嬉しい気分になります。