【自主避難者から住まいを奪うな】「入居後6年」の猶予と避難者のジレンマ~京都府の取り組み | 民の声新聞

【自主避難者から住まいを奪うな】「入居後6年」の猶予と避難者のジレンマ~京都府の取り組み

2017年3月末で自主避難者向け住宅(みなし仮設住宅)の無償提供が打ち切られるのを受け、避難者受け入れ自治体の対応にばらつきが生じている。京都府は、来年4月以降でも入居日から6年までは無償入居を認め、府営住宅への優先入居枠を設けた。一方、避難者の側にも安住の地を求めて早めに動くと自己負担が生じてしまうジレンマを抱える。切り捨てられようとしている避難者と受け入れ自治体の行政マンの想いを、京都で聴いた。



【最大で2018年12月まで入居可】

 「何が、どこまで出来るか分かりませんが、最大限のことはして差し上げようということです。その点は、震災直後から山田啓二知事も理解があります」
 京都府防災・原子力安全課の被災地応援担当課長は語る。福島県が、2017年3月末で自主避難者向け住宅の無償提供を打ち切ることを受けて今月1日、府営住宅の中から5戸を優先入居枠として確保し、募集することを公表した。現在、みなし仮設住宅に生活しているか否かにかかわらず、2011年3月11日の時点で福島県内(避難指示区域を除く)に住んでいて、府営住宅への入居を申し込む時点で京都府内に生活していれば対象となる。

 当然、収入要件などの資格を満たしている必要はあるが、それでも「公営住宅への優先入居を各都道府県にお願いしているが、具体的には検討途中」とする福島県や、「公営住宅に優先的に入居できるかは、方向性も含めて検討中。現在、都営住宅に入居している避難者には、基本的には2017年3月末で退去していただき、自力で住まいを探していただく」という東京都と比べて、はるかに前向きだ。
 京都府には1月末現在、把握できているだけで697人が避難しており、そのうち、7割近い480人が福島県からの避難者だ。府災害支援対策本部は原発事故翌年の2012年6月から7月にかけて避難者を対象にアンケート調査を実施したが、複数回答ながら、その時点で既に「不安な事、困っていること」の最上位が「住まいのこと」だった。いつまで「みなし仮設住宅」として扱われ、家賃が免除されるか不安な日々を送っていたかが分かる。災害救助法を根拠に、自主避難者の「みなし仮設住宅」は2014年以降は1年ごとに更新されてきた。それが来年3月末、いよいよ打ち切られる。「自立」を名目に避難者は自己負担を求められる。

 そこで、京都府は福島県の意向に関わらず、避難者の現在の住まいへの入居期限を「入居日から6年」と決めた。打ち切りまでは、受け入れ自治体が負担した家賃を福島県に請求し最終的には国が負担するが、来年4月以降は京都府の「持ち出し」となる。受け入れ自治体によって対応が異なるのはそのためだ。

 「2017年3月末で一律に打ち切ってしまっては、避難した時期によって1年しか今の住まいに居られない世帯も出てくる。公平性を保つ意味でも、入居日を起点にすることにしました」と被災地応援担当課長。「みなし仮設住宅」への新規申し込みは福島県が2012年12月28日で終了したが、締め切りギリギリに京都に避難した場合は、2018年12月まで猶予を与えられることになる。

 自主避難者向け住宅の無償提供延長を求める声は依然として高く、自主避難者自ら何度も国や福島県との交渉を続けているが、現状では福島県は「打ち切りの方針は変わらない」との姿勢を崩していない。公営住宅に入居している避難者に対しては京都府も当然、6年が過ぎたら退去を求めることが前提だ。少しでも時間的猶予が与えられることは、避難者の精神的負担がどれだけ軽減されることか。
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京都府は、住宅の無償提供が打ち切られる自主避難

者のために、府営住宅に優先入居枠を設けた

=京都市内


【「夜の仕事とWワークしようかしら」】

 17日午後、京都市伏見区の市民放射能測定所に、自主避難者が集まった。原発事故直後から支援を続けている「うつくしま☆ふくしま in 京都」の相談会だ。福島県避難者支援課が「打ち切り後の新しい支援策」と胸を張る、2年間限定の家賃補助などに関して、同団体代表の奥森祥陽さんが解説した。しかし、浮き彫りになったのは支援策の中身はもとより、避難者たちが抱えることになるジレンマだった。

 奥森さんは言う。「そもそも無償だった家賃が有償に転換するだけ。早めに動いて府営住宅などに転居したら、その瞬間から家賃負担が発生する。ギリギリまで今の住まいに住んでいればタダ」。

福島県いわき市から避難中の女性は、高校1年生と中学3年生の2人の娘と3人暮らし。民間のアパートに移り住むとなれば、福島県の家賃補助(1年目は3万円、2年目は2万円)を受けるにしても、5万円近い負担が毎月生じることになる。引っ越し業者に頼めば、初期費用は50-60万円はかかりそうだ。「夜の仕事とダブルワークしようかしら」と冗談交じりに話したが、目は笑っていなかった。
 公営住宅への入居を検討しているが、当選して入居できるか否かは「賭けのようなもの」。今回は、優先入居枠が5戸分用意されたが、今後はどれだけ用意してもらえるか分からない。一般募集でも、子どもの学校など家族のニーズにあった住宅があるかどうかも分からない。しかも、府営住宅に当選したら、敷金として3カ月分の前家賃を用意しなければならない。打ち切りを前提に早めに動かなければと焦る気持ちもあるが、2012年3月下旬に避難したため、じっくり探すことにしようと考えている。
 「汚染が続いている以上、いわき市には帰りません」と女性。結局、住宅支援を打ち切っても自主避難者たちの多くは帰還しない。むしろ、放射線被曝を避けようと避難するなかで、困窮を強いるだけの施策なのだ。
 34歳の女性は、2012年2月に福島県会津美里町から京都市内に母子避難した。同町は福島第一原発から約100km離れているが、小学生の息子を放射線被ばくのリスクから遠ざけたかった。悩んだが、息子の同級生が京都に避難したことを知り、決心した。避難を始めてから4年が経つが、福島には戻らないと決めている。
 「現在の住まいは家賃が7万1千円。負担が大きいので公営住宅への転居を考えています」

 避難後に京都の男性と再婚。昨年、第二子を出産。現在も妊娠中で夏の出産を控えている。原発事故がなければ避難する必要などなかった。再婚したが、所得は決して多くは無い。新しい命と住まい。母親は11カ月の息子を抱いて自宅に帰った。
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どういう身の振り方が最善か。母子避難者にとっては

家賃負担は死活問題。京都府が退去期限を「入居日

から6年」としたことで、少しでも猶予が生じるのが救いだ


【「何をもって『自立』と言うのか」】

 京都府の被災地応援担当課長は「ただ単に追い出すわけにもいかない」と話す。今後は府営住宅への優先入居だけでなく、不動産業者などと連携して、多くの選択肢を提供していきたいという。「自主避難者の方々は、自分から避難者であることを言いにくい傾向にある。そういうことを一から言い出さなくても業者との話がスムーズに進むように、橋渡しが出来たら良いですね」。
 同じ行政マンとして、福島県避難者支援課の対応について、慎重に言葉を選びながら「国とギリギリの折衝をしたのだろう」と語る。だが「今の福島が安全なのか危険なのか。どちらなのか私たちには判断できない。あくまで避難者がどう捉えるかです」。京都に定住したいと考える避難者にどんな支援が出来るのか。財源は府民の納める税金だから府民の理解も要る。この先、10年も20年も支援を継続するのは難しい。昨年8月に実施した避難者への意向調査では、定住希望が少なくなかった。府職員も苦悩を抱える。

 国や福島県は、自主避難者たちに「自立」を求める。しかし、原発事故が無ければ福島で「自立」していた人たちばかりだ。これまで多くの避難者と接してきた被災地応援担当課長も「何をもって『自立』と言うのか。避難者に対して安易に使うべき言葉ではないのではないかな」と話す。「避難者と話すなかで、『自立』という言葉に抵抗感を示す方々もいらっしゃる。それは理解できます」。
 「避難の必要はなくなった」と言い放つ国。「福島では普通に生活している」と帰還を促す福島県。避難を継続する人々を救うか否かが、受け入れ自治体の善意に頼るしかないところに、安倍政権の原発事故被害者への冷淡さが伺える。


(了)