私が医師国家試験が終わって、最初に外来に参加した時のことです。
うろ覚えですが、多分てんかんの病気をお持ちだった方の補助をすることになりました。簡単な挨拶から、これまでの経緯、そしてどのような生活をされているか、つたない質問の仕方で聞いたと思います。ただそれだけでした。その後に、担当の方に引き継いだと思います。次の日に私が外来に行くと、驚いたことにその方が待ってあり、私に用があるからと言われて離れたところに誘われました。どういうことかわからずにいる私に、彼は象牙の印鑑を手渡されたのでした。これまで九州大学付属病院に通院していて、こんなに親切に応対してもらったのは初めてでうれしかった、どうか受け取ってくれと言われました。私は決して洗練された応対技術を持ちません。それなのに。渡すとその方はそのまま去って行かれました。私の手の中には貴重だと言って渡してくれた象牙の印鑑が残っていました。その方は印鑑彫師でした。今から思い返してみれば、それが今の医療というものは適切なものだろうかと考え始めたきっかけでした。