<意識>とは何だろうか (A-18a) | 松野哲也の「がんは誰が治すのか」

松野哲也の「がんは誰が治すのか」

治癒のしくみと 脳の働き

 1度も鏡を見たことのない宇宙人は地球に来て、鏡で自分の姿を見ると、それを複製装置と思って、その機能の速さに驚くかもしれません。もっとも光の速さは有限で真空中では 30万Km/秒ですが。

 

   いずれにしても、単なる偶然の一致や明らかに因果関係とは異なる結びつきが自然界には存在します。その1つが対称性です。それはある対象を別の対象に変換しても、特徴の1部が保存される物理的・数学的特性のことを指します。対称性は一般に、たとえ2点間が無限に離れていたとしても、非因果的な相関を瞬時に示すのです。

 もちろん、鏡の作用は光の性質をもとに成立するため、厳密には「量子もつれ」のような瞬間的なものとは言えません。しかし、量子力学では、順相関(お互いに同一の値をとる関係)や逆相関(お互いに反対の値をとる関係)を同時に示す現象が認められます。その最たる例が「スピン」なのです。原子内部の電子の状態を表す4つ目の量子数です。スピンは「アップ」と「ダウン」のいずれかの値をとります。

 パウリの排他律原理に従えば、2つの電子が同時に全く同じ状態をとることはありません。よって、等しいエネルギー準位に入る2つの電子が同じ軌道角運動量をもつ場合、スピンに関しては別の値をとることになります。つまり、弱相関を示すのです(観測によってはじめてそれぞれの値が決まり、それまでは2つの状態が重なり合っている)。

 たとえお互いがほぼ無限に離れていようとも一方のスピンが「ダウン」とわかれば、他方のスピンは「アップ」と決まる。逆もまた然り。このような状況を「もつれ」と言います。遠隔地でも成り立つスピンの逆相関は、いうなればシーソーのような関係なのです。

 

 

 ペアとして示される電子スピンなどの物理量は、因果律に基づかなくても、予想できる量です。逆相関のペアであれば、一方の値が決定されると、即座に他方の値が判明します。

 たとえば、赤と白のチョコボールが1づつ入ったパックを量子ケーキ店で買った場合、1つを食べればもう1つの色は見なくても(観測しなくても)わかります。2つのチョコボール粒子の間で情報交換が行われたわけではありません。つまり、因果律に基づいて情報が伝達されるわけではないのです。

 

 

 普段意識することのない中心力も回転対照性を現します。地球と月の間にはたらく重力もその1つです。地球の重力という中心力は、地球の中心に向かって対象を引きつけるため、公転する対象は地上から見て、エネルギーの大きさなどにかかわらず、常に同じ軌道を描くのです。事実、月の公転軌道は真上の方が遠いというズレを伴うものの、極めて真円に近い。そのため地上から見た月の軌道は、回転対照性を示します(月の満ち欠けは、太陽との相対位置による光の反射面の変化であり、公転対象性とは別問題となる)。

 

 

 

 1950年代以前の量子力学にはさまざまな種類の対称性が存在しました。ペアとして示される対称性もあれば、複数の要素からなる集合同士や、連続性を伴う対称性などもありました。さらに、数学者のアマーリエ・エミー・ネーターによって、対称性はあまねく保存則に従うことが証明されました。そして、その対照性の保存則から非局在的(この宇宙における現象が、離れた場所にあっても相互に絡み合い、影響し合っているといった)相関が導かれる ー すなわち、因果関係を伴わない2点間の結びつきです。