【自主避難者から住まいを奪うな】避難継続者切り捨て、帰還者優遇改めて明確に~京都の避難者は直訴状 | 民の声新聞

【自主避難者から住まいを奪うな】避難継続者切り捨て、帰還者優遇改めて明確に~京都の避難者は直訴状

原発事故による被曝の危険性から逃れようと、福島県から東京や神奈川、京都に避難している自主避難者たちが15日、福島県庁を訪れ、国や福島県が打ち出した2017年3月末での住宅支援打ち切り撤回を改めて求めた。2900筆を超える署名も提出したが、県避難者支援課は間もなく、期間限定の家賃補助などの〝支援策〟を公表する予定。しかも、公表後に意向調査を実施するという。当事者の声が反映されないまま、非情な切り捨てが着実に進んでいる。秘書から手渡されたであろう直訴状を、内堀雅雄知事は真摯に受け止めるべきだ。



【「福島では普通に生活している」】

 「お気持ちは分かりますけれども、福島県内においても普通に生活しているというのがある」

 なぜ自主避難者だけが切り捨てられるのか。理詰めで次々と問われた福島県避難者支援課の幹部は、答えに窮した挙げ句に、とうとう本音を口にした。もはや汚染も被曝の危険性も無いのに、過剰に心配して勝手に福島県外に逃げ続けている─。県庁としてそう考えていると受け取られてもやむを得ない発言に、自主避難者たちは騒然となった。しかし、幹部には暴言との認識はなく、発言の撤回も謝罪もない帰還推進という国との共通認識を言葉にしただけなのだろう。「避難指示区域は、まだ帰れる状況にない」とも続け、強制避難者との差別化を図っている姿勢を見せた。

 実際、竹下亘復興大臣(当時)も今年6月、参議院の「東日本大震災復興及び原子力問題特別委員会」で「ずっと帰らなくて良いよ、という前提で復興を進めているわけではない」と答弁している。国も福島県も、自主避難者への支援を縮小して福島県への帰還を促そうという意思は明確なのだ。

 「普通の生活?これだけ汚染していて何が普通の生活だ」、「何も好きで逃げているわけでは無い。危ないから、子どもを守りたいから逃げているのに、その言い方はなんですか」、「私たちは悪いことをして追い出された犯人じゃ無いんですよ」

 避難者たちから怒りの言葉が県職員にぶつけられた。しかし、幹部には響かない。自主避難者切り捨てという結論ありき。県職員は、このような要請があるたびに、何度も「ご意見として承る」と口にするが、施策には反映しない。ガス抜き。2時間近く、自主避難者たちから怒りを浴びせられた先の避難者支援課幹部は、散会となるや真っ先に部屋を後にした。顔は真っ赤だった。唇をかみしめていた。原発事故被害者に寄り添うという表情では無かった。これが「被災者の生活再建を支援する」とうたう避難者支援課の素顔なのだった。
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「もはや正攻法では切り捨てられる」と、京都に避難

した福島県民が内堀知事宛ての直訴状を用意した。

しかし、直接手渡すことはできず、秘書課長が代理

で受け取った。


【支援策公表後に意向調査?】

 自主避難者たちの要望はシンプルだ。住宅支援打ち切りを撤回すること、避難先にとどまる県民と内堀雅雄県知事との意見交換の場を設けること。だが、福島県に支援打ち切りを撤回する意思はない。住宅支援が打ち切られれば、特に公営住宅に入居している避難者は退去を求められることになり、民間賃貸住宅への転居費用などが重くのしかかる。福島県は既に、避難先から県内へ帰還する人には転居費用として10万円を助成する方針を打ち出しているが、この日の交渉で避難者支援課幹部は「敷金や礼金についてはどこまで支援できるか検討しているが、引っ越し費用については厳しい」との見方を示した。

 なぜ帰還者と避難先にとどまる者とで差をつけるのか。「財源の問題もある」と口にしたが「財源があれば転居費用も出してもらえるのか」との問いには答えない。帰還推進に伴って自主避難者は切り捨てられる。地元紙はこの日、避難先にとどまる自主避難者について支援打ち切り後2年間に限って福島県が家賃補助を行うと報じたが「具体的な数字は言えない。年内に公表する」の一点張り。自主避難者の収入を詳細に調べ、シミュレーションを行って真の自立に必要な期間を算出しているわけでもない。しかも、今後の支援策を公表した後に、自主避難者たちの意向調査を行うというのだ。

 「年明けにも、今後の生活、住まいについて、どのように考えているか意向調査を行います」

 年内に詳細な支援策を発表しておいて、その後に当事者の意向調査を実施するという矛盾。「意向調査の結果を参考にするのなら、支援策の年内公表を中止して欲しい」という声にも「年内公表は決まっていること」と耳を傾けない。神奈川県に避難している男性が「そもそもなぜ、政府の指示に拠る避難か否か、区域内か区域外かで差別するのか」と質問しても答えられない。郡山市から川崎市に避難中の女性が、我慢できぬと声をあげた。

 「自宅に帰れるのなら、10代の娘を連れて帰りたいですよ。でも、敷地内に汚染物がある。娘は戻せません。好きで避難先にとどまるのではないですよ」

 避難者支援課の幹部はうなずきながら聞いていたが、住宅支援延長に関してきっぱりと拒否した。

 「区域外については、平成29年3月末で終了です」
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2900を超える署名を添えて、改めて住宅支援打ち

切り撤回を求めた自主避難者たち。涙を流し、頭を

深々と下げても「自主避難者切り捨て」の大前提は

覆らない=福島県庁自治会館


【避難者と会わない内堀知事】

 内堀知事に直接、想いを伝えたい─。担当職員との交渉では埒が開かないと、京都に避難した人々が半紙に認めた直訴状を用意。知事室を訪れた。
 「5月から何度も求めて来たのに無視されてきた」。アポなしでの直撃は一見、荒唐無稽な手法だ。当然、秘書らは「公務中」を理由に知事との面会を拒んだ。しかし、避難者たちも生活がかかっており、簡単には引き下がれない。正攻法では切り捨てられてしまう。直訴状には血判を押した人もいた。廊下には、5人の守衛が待機して事態を見守ったが、声を荒げているわけでも暴れているわけでもない。30分ほど押し問答を繰り返した末、秘書課長が代理で受け取り、知事に必ず届けると約束した。

 関西だけではない。首都圏の避難者たちも内堀知事との面会も2回、申し入れたが返事はなかった。「ぜひ機会を作って欲しい。このままでは、何度もこうやって押しかけなければならないですよ」。

 避難者に寄り添うと公言する内堀知事。しかし、当事者たちと会おうともせず一方的に切り捨てる。京都の支援者の言葉が自主避難者たちの危機感を如実に表していた。
 「首をくくる人が出たらどうするんですか?そうならないために、こうやってお願いしているんですよ。避難先にとどまりたいという人たちを路頭に迷わせないでください」


(了)