【復興庁】「年20mSvで避難解除は妥当」重ねて強調。「東京五輪で世界に復興アピールを」と本音も | 民の声新聞

【復興庁】「年20mSvで避難解除は妥当」重ねて強調。「東京五輪で世界に復興アピールを」と本音も

避難指示解除の要件となっている年20mSvの基準は高すぎる、年1mSvに引き下げて─。福島県民らが6日、東京都港区の復興庁を訪れた。担当者は「100mSv以下では発がんリスクは小さいと評価されている。20mSvではさらに小さくなる」と重ねて強調。「避難指示解除は戻りたい人のための規制緩和であって、帰還強制ではない」と繰り返した。一方で「東京五輪では福島の復興を世界にアピールする必要がある」と〝本音〟も。「故郷に戻りたい人のため」という錦の御旗の下、避難を続けたい人々が切り捨てられていく実態が垣間見えた。



【「帰還も被曝も強要していない」】

 話し合いは、福島県二本松市在住の男性がメールで送っていた複数の質問に、復興庁の「原子力被災者生活支援チーム」の課長補佐が答える形で進められた。福島市内に住む女性や静岡県内に避難している男性も出席した。

 担当者が繰り返し強調したのは「強制帰還ではない」という点。「避難指示の解除は、福島に帰りたい人のために規制を緩和するものだ。政府として帰還や被曝を強制・強要しているという事実は無い」。

 しかし、避難指示解除後も避難を続ければ、強制避難者も自主避難者となる。政府の指示に拠らない自主避難者への住宅支援は、2017年3月で打ち切られる。復興庁の担当者は「福島に戻る戻らないで支援に差はつけない」と強調したが、避難指示解除と自主避難者への支援打ち切りは結局、経済力のない避難者には帰還以外の選択肢を与えない。汚染の残る土地への帰還は、被曝のリスクを生じさせる。「帰還を強制しない。個々の判断」という言葉は、説得力に乏しい。

 福島県ではこれまで、田村市や川内村などで空間線量が下がったとして避難指示が解除されてきた。担当者は、2015年9月5日に解除された楢葉町を例に挙げ「避難指示解除の要件に『住民との十分な協議』がある。楢葉町でも住民との意見交換を20回開き、個別訪問もして一定の理解を得た上で解除したと考えている」と、一方的な解除ではないと説明。「積算線量が年50mSvを超すとみられる帰宅困難区域以外については、2017年3月までに解除したいというのが政府全体の方針」と改めて明言した。

 また、放射線に関する「放射線障害防止法」や「電離放射線障害防止規則」などは事業者や作業員に関するものであり、「原子力災害対策特別措置法によって設置された原子力災害対策本部の行為を縛るものではない」とも強調した。2011年3月11日夕に発せられた「原子力緊急事態宣言」は依然として解除されていないが、これについても「原子炉の冷温停止状態は続いており、突発的に原子炉がどうこうなるものではなくなった。宣言の継続と避難指示解除に因果関係も矛盾もない」と話した。
1452070478771.jpg

1452070430987.jpg

昨年6月、原子力災害対策本部がまとめた改訂版

「原子力災害からの福島復興の加速に向けて」でも、

避難指示解除の要件として「年20mSv」が明記され

ている


【「年20mSvは発がんリスク小さい」】

 男性らが特にこだわったのは、避難指示解除の基準が年20mSvと高く設定されていることだ。これについて、復興庁の担当者は2011年11月、内閣官房に設置された「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ」(WG)がまとめた報告書の中で「100mSv以下の低線量被ばくでは、放射線による発がんリスクの増加は他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さく、『放射線によって発がんリスクが明らかに増加すること』を証明するのは難しい。これは、国際的な合意に基づく科学的知見である」を引用。「20mSvは他の発がんリスクと比べても非常に健康リスクは小さい」と再三、説明した。

 8回にわたって開かれたWGの会合には当時、長瀧重信氏や丹羽太貫氏、前川和彦氏らが出席。ここでも、彼らを「専門家」とする復興庁側と「御用学者」とみる県民側とで意見が分かれた。ちなみに、第7回会合には〝脱除染〟に取り組む伊達市の仁志田昇司市長も出席している。

 WGの報告書では「発がんリスクは100mSvの被ばくより喫煙、肥満のほうが高い」などと記されているが、疫学者の岡山大学・津田敏秀教授は講演会などで「100mSvしきい値は、ICRP2007年勧告から生じた単なる誤解釈」で、「『100mSv以下は放射線によるがんは出ない』とは誰も言っていない」、「10mSvより低い線量でも放射線の発がん影響は確認されてきた」などと反論。著書「医学的根拠とは何か」(岩波新書)の中でも「『100ミリシーベルト』という数値は、広島・長崎の被ばく条件と観察数のもとで得られた数字であり、絶対的なものではない」と〝専門家〟らの混同を批判している。

 男性らは重ねて避難指示の解除は年1mSvを基準にするべきだと求めたが、復興庁の担当者は「年20mSvは安全と危険の境目ではないが、専門家の方々の意見で定められた。長期的に年1mSvを目指す方針に変わりはないし、田村市や楢葉町でも20mSvピッタリではなく1mSv近傍で解除されてきた」と現行の基準で問題ないと繰り返した。「チェルノブイリ原発事故では、ロシア政府の基準が過度に厳しかったと聞いている」とも。これには、福島市在住の女性から「本当に20mSvで正しいのか、ベラルーシに行って医師の話を聴いてほしい。放射線障害が出ない復興を目指して欲しい」と訴えたが、担当者は「ご意見として承る」と答えるにとどまった。

 「年20mSv」を巡っては2015年4月、500人以上の南相馬市の住民らが「年20mSvを基準とした避難指示解除は違法」として、国に特定避難勧奨地点の指定解除取り消しを求める訴えを東京地裁に起こしている。第二回口頭弁論が今月13日に開かれる予定だ。
20160106_221939.jpg

1452070566610.jpg
福島での甲状腺がん多発を世界に発信した岡山大学

の津田敏秀教授は、講演会などで「10mSvより低い

線量でも放射線の発がん影響は確認されてきた」と

繰り返し警鐘を鳴らしている


【「土壌汚染も考慮を」】

 静岡県内に自主避難した男性は「後になって『実は30年前は被曝のリスクは分からなかった』では、子どもは守れない」と静かに、しかしきっぱりと言った。「人として、年1mSvを基準にしないと動けない親の気持ちも理解して欲しい」と訴えた。

 福島市に住む別の女性は「子どもは土を触り、花や虫をつかむんです。空間線量だけでなく土壌のベクレルも考慮して欲しい」と求めた。復興庁の担当者は「モニタリングをしており、決してベクレルを軽視しているわけではない。ガラスバッジで個人線量を測りながら線量を下げ、ていねいに不安を解消する機会も設けて行きたい」と答えたが、福島県庁の職員は昨年、本紙の取材に対し「放射線防護には空間線量の測定で十分。福島県内の詳細な土壌測定の必要性も計画もない」と答えている。
 二本松市の男性は最後に、「2020年の東京五輪までに避難者も仮設住宅もゼロにしたいのではないか」と詰め寄った。これに対し、担当者は「国内外から注目を浴びる大会。復興できている点はアピールする必要がある」と否定しなかった。
 「子や孫を連れて避難指示区域に住んで欲しい。それで本当に避難指示を解除して良いか判断するべきだ。政府のやっていることは結局、帰還の強制じゃないか」と怒りをあらわにした二本松市の男性。膨れ上がった賠償の打ち切りやオリンピックでの復興アピールが絡み合い、原発事故被害者不在のまま、2016年は被害者切り捨てが加速する。話し合いは平行線で終わったが、国の強い意思だけは垣間見えた2時間だった。



(了)