【成人式】あの頃の中学生が語る「放射線」と「被曝」~「普通に部活やってた」「いまは意識しない」 | 民の声新聞

【成人式】あの頃の中学生が語る「放射線」と「被曝」~「普通に部活やってた」「いまは意識しない」

福島県内の自治体で10日、成人式が行われた。原発事故から5回目の成人式。約3000人が〝大人の仲間入り〟をした福島市の成人式会場で、今年もあえて、放射線に関する質問を新成人にぶつけた。甲状腺がんが多発していると言われる福島。いまなお、線源が残る福島。新成人からは口々に「全く意識していない」という言葉が聞かれた。人は忘れるから生きて行かれるのか。原発事故から早5年。しかし、まだ5年。



【5年の歳月が「慣れさせた」】

 「時間が経って慣れ過ぎてしまったのでしょうね。今では放射線を意識することもなくなったし、恐怖心も薄らいでしまった。ほら、地震もそうじゃないですか。何度も揺れを経験すると、ちょっとした揺れでは驚かなくなる。それと同じなのでしょうね」

 式典に出席するために仙台市から帰省した男子大学生は苦笑まじりに言った。原発事故の翌年に福島西高校に入学。「僕もマスクをしていました。授業中、暑くても窓を開けられなかったですね」と振り返る。自宅のある蓬莱町も「放射線量が二けたの状態が続いて、洗濯物は屋外に干せなかった」。しかし、5年という歳月はそれらを忘れさせるには十分なのか。「数値も下がりましたしね」。

 甲状腺検査は、毎年受けているという。「のう胞が見つかりました。医師からは『問題ないレベル』と言われたけれど、こういうことを目の当たりにすると、少なからず影響はあったんだなあと思いますね。厄介だなと思います」。

 別の女性は専門学校生。「初めは自宅から外に出ないようにしていたけど…。テレビでも言ってましたから。でも、合格発表、入学となるにつれて全く意識しなくなりました。今?今はもう、全然です」。笑いながら大きく手を振った。色鮮やかな振袖が揺れた。
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(上)記念撮影に興じる新成人たち。「放射線?全く

意識しません」と口々に語った

=福島市・国体記念体育館

(下)16時頃、JR福島駅西口に設置されているモニタ

リングポストの数値は0.16μSv/hだった


【「普通に校庭で部活動やってた」】

 未曽有の大地震そして原発事故が起きた2011年3月、新成人たちは中学3年生。進学など、4月からの新しい生活を控えているところだった。少し振り返ってみたい。
 福島県立医科大学が公開しているデータによると、県北保健福祉事務所(福島市御山町)の放射線量は2011年3月15日までは0.05μSv/hだったが、翌16日に18.4μSv/hを計測。19日の10.3μSv/hまで二けたの数値が続いた。福島第一原発からの距離は約60km。福島市役所でも同18日に11.37μSv/hを計測し、公になっている数値だけでも尋常ならざる量の放射性物質が降り注いだことが分かる。それにもかかわらず、福島県庁は同16日に県立高校の合格発表(屋外掲示)を強行。「被曝の危険性」どころではない状況の中、中学生たちは合否の確認を強いられた。その中学生こそ、今年の新成人たちなのだ。ちなみに、合格発表から1カ月後の4月16日の福島市役所の放射線量は1.51μSv/hだった。

 しかし、被曝回避のために屋外での部活動が中止されることもなかった。会社員の女性は「福島商業高校では、夏には普通に部活動をやってましたよ。校庭の除染をした後ですけどね」と話した。「福島市は浜通りと違って原発から遠く離れているから大丈夫、みたいな? 食べ物も普通に食べて来たし、県外の人が心配するほど、中の人は気にしていないんですよ」と笑った。

 男子大学生は福島高校でサッカー部に所属していた。「サッカー部は線量の高い所で練習してたから1/3が辞めていったよ。俺みたいに気にしていない奴が残った。俺は今まで一度も放射線何て気にしたことがないから」。彼は何度も「気にしていない」、「意識していない」と繰り返した。
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(上)国体記念体育館近くの国道13号(福島西道路)。

手元の線量計は0.23μSv/hだった

(下)福島市内では除染が続く


【母親は除染作業員】

 成人式は、福島市生まれの作曲家・古関裕而氏の「栄冠は君に輝く」の演奏で始まった。市議会議長は、祝辞の中で「元気な姿を国内外に発信して」と述べた。
 体育館の後方に、わが子を抱く母親の姿があった。10代で出産した息子は2歳になった。母親は昨年まで、除染作業員をしていた。「仕事を探していたら、たまたま知り合いに誘われたから」。夫は今も除染に従事しているという。
 「それまで放射線なんてあまり気にしていなかったけど、除染に携わるようになって実際に数値を目の当たりにすると、逆に意識するようになりましたね」
 福島県立医大の甲状腺検査で、甲状腺がんが見つかっている。疫学者・津田敏秀教授は「福島県で甲状腺がんが多発している」と世界に発信した。そういった情報に接すると「この子は大丈夫だろうか」と心配になるが「過剰には心配していません」と話す。「放射線防護ですか?別に何もしていませんよ」。
 会場と福島駅を往復するシャトルバス。バスを待つ会社員の男性は少し唇を尖がらせて不服そうな表情で言った。

 「県外の人は『原発事故があったのに頑張ってる』って言うけど、地元では放射線の話なんか出ませんよ。親も別に話題にしない。意識なんかしませんよ」

(了)