【南相馬訴訟】「20mSvで指定解除するな」~裁判長「極めて重要な訴訟との認識」も意見陳述は拒否 | 民の声新聞

【南相馬訴訟】「20mSvで指定解除するな」~裁判長「極めて重要な訴訟との認識」も意見陳述は拒否

空間線量が年20mSvを下回ったことを理由に「特定避難勧奨地点」の指定を一方的に解除したのは違法だとして、福島県南相馬市の住民808人が国を相手取って起こした民事訴訟の第2回口頭弁論が13日、東京地裁103号法廷で開かれた。バスで駆け付けた原告らは「汚染や被曝の現状を訴えたい」と毎回の意見陳述を求めたが、裁判長は、「原告の主張を理解しないまま判決を下すことはしない」としながらも重ねて拒否。原告らは「視察などで現状を認識してから争点を整理するべきだ」などと怒りの声をあげた。第3回口頭弁論は3月28日。



【「通学路は400万ベクレル超」】

 裁判長の語り口調はやわらかかったが、しかし、原告2人による毎回の意見陳述はきっぱりと拒んだ。

 「裁判所は、今回の訴訟を極めて重要であると認識しています」

 「原告の主張を理解しないまま判決を下すわけではありません。安心してください」

 「ぜひ信頼関係を築いていきたい」

 原告を代表して意見陳述を求めた小澤洋一さん(南相馬市原町区馬場)は「先週、通学路の土壌を測定したら、407万ベクレル/㎡もあった。毎日、被曝の脅威にさらされている私たちにしか分からないことも数多くある。私たち原告の声を十分に反映させてください。たった数分です」と訴えたが、裁判長を翻意させることはできなかった。

 小澤さんは何度も挙手して食い下がった。「この間にも不要な被曝を強いられているんですよ」。満席の傍聴席からは野次が飛び、裁判長が再三、制する場面もあった。原告席の住民らの中には、顔を真っ赤にして耐えている人もいた。しかし、裁判長は「代理人に対して十分ご説明した」、「争点整理の中で意見陳述は必須のものではないと考えている」、「今後、陳述書や本人尋問が必要になる可能性もある」と述べて、この話を打ち切った。

 原告による意見陳述を行わないという裁判所の方針は、年末の時点で弁護団に伝えられていた。280kmも離れた南相馬市から東京地裁まで駆け付ける原告らにとって、口頭弁論は現状を伝える貴重な場だ。この日もバスを借り、午前6時に出発して抗議行動や口頭弁論に臨んでいる。「弁護団が書面を交わすだけで終わらせないで欲しい」(小澤さん)と思うのも当然だ。

 支援者らは、年末年始を利用して署名活動を展開。原告や支援者らの1400筆を超える署名を添えて、今月8日には弁護団が意見陳述の継続を求める意見書を提出していた。弁護団の1人、大城聡弁護士は報告集会で「住民の声を聴かずに一方的に指定が解除されたことや南相馬市の現状を裁判所にきちんと理解してもらわなければ、この裁判の意味は無い」としたうえで「裁判長は原告の主張に耳を傾けるとは言っている。『深い関心を持っている』などと裁判長が発言することは非常に珍しい。そこまで言わせたことは意味がある。リップサービスではないと思う」と評価した。
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原告団長の菅野秀一さん(中央)ら20人が午前6時に

南相馬市をバスで出発し東京地裁に駆け付けた。

しかし、直接の意見陳述は改めて拒否された

=参議院会館


【「なぜ福島だけ年20mSvなのか」】

 住民らの主張はシンプルだ。「年20mSvを基準とした指定の解除は違法」。特定避難勧奨地点の指定は、2014年12月28日に解除されたが、その理由が「年間積算線量が20mSvを下回ることが確実になった」というものだからだ。2011年12月にまとめられた「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ報告書」では、「ICRPが提言する緊急時被ばく状況の参考レベルの範囲(年間20から100ミリシーベルト)のうち、安全性の観点から最も厳しい値をとって、年間20ミリシーベルトを採用している」と記されている。年1mSvでなく、20mSvでも十分に安全だというのが国の考え方だ。

 だが、口頭弁論の直前に行われた経産省前での抗議行動で、原告の1人、藤原保正さん(原町区大谷)は「福島県民だけ差別するのはやめて欲しい」とマイクを握った。報告集会では、次のように切実な想いを語っている。

 「私たちは何も、私利私欲のために裁判をやっているのではありません。どうして福島だけが20mSvで、他の県は1mSvなのでしょうか。こんな差別を受ける必要はありません。しかも、西側の飯舘村蕨平では仮設焼却炉で放射性廃棄物が燃やされています。バグフィルターで放射性セシウムが99.9%除去できるとは信じがたい。子どもたちに蓄積して発病したらどうするんでしょうか」

 汚染の事態を把握するため、小澤さんは「ふくいち周辺環境放射線モニタリングプロジェクト」として土壌汚染の測定を続けている。村長が学校再開を表明している飯舘村では、学校敷地内での汚染は低い所で125万ベクレル/㎡、最高で1340万ベクレル/㎡に達した。東京都葛飾区の水元公園での測定でも、小澤さんの予想をはるかに上回る19万6000ベクレル/㎡だった。「4万ベクレル/㎡を超えたら放射線管理区域。チェルノブイリでは55万ベクレル/㎡超で強制避難とされました。首都圏でも基準値の5倍近い汚染なのだから、あとは推して知るべしでしょう。そのくらい汚染は深刻なのです」(小澤さん)。
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東京地裁前で「なぜ福島県民だけが年20mSvなのか」

と訴える南相馬の住民たち。次回期日は3月28日だ


【「経済・カネより人の命」】

 国は2020年の東京五輪を機に、福島県を含めた東北の「復興」を世界にアピールしようと躍起になっている。「原発事故被害者団体連絡会(ひだんれん)」の武藤類子さん(三春町)は「私たち被害者が、どうしてこんな思いをして裁判をしなければならないのか。どうして、東京五輪のために福島が頑張らなければならないのか」と話したが、法廷でも、福田健治弁護士が「帰還政策に最も欠けているのが、住民の話を聴くということ」、「政府が住民の意見を十分に聴かずに解除を強行したので訴訟を余儀なくされた」と語った。原発事故がなければ、汚染がなければ、国を訴える必要はなかった。これまで通りの平穏な生活が続けられたのだ。

 原告団長の菅野秀一さん(原町区高倉)は「私たちが大切にするのは、経済・カネより人の命です」と訴える。汚染が続く中で子や孫と生活しても大丈夫なのかという不安。しかし国は、住民の心配をよそに、形だけ「原発事故前の状態」に戻すことを急ぐ。
 弁護団は今後、年20mSvという基準が設定された根拠を国に問う。福田弁護士は「2011年12月16日に当時の野田佳彦首相が冷温停止状態を宣言した後も『緊急時被ばく状態』の20mSv~100mSvを採用するのはおかしい。『現存被ばく状況』の参考レベルである年1mSv~20mSvを採用するべきだ」と話す。

 次回期日は3月28日。意見陳述を拒否された小澤さんは、集会で改めて怒りをにじませた。

 「現地を見ることもせず、書面だけで争点整理などしないで欲しい」

(了)