上野範子のピアノ・リサイタルに行ってきました。(2019年5月3日、聖徳大学香順メディアホールにて)
前半は名曲コンサート風で、ドビュッシーのベルガマスク組曲から第1・第3曲、ベートーヴェンのソナタ「月光」。後半がアルゼンチン音楽でグァスタヴィーノのソナチネとヒナステラのアルゼンチン舞曲集から。
ベルガマスク組曲は透明感あふれる演奏で、素晴らしい。コンサートの始まりに演奏するにはあまりに緊張する曲だが、ホールの響きと合った演奏だと思いました。
ご本人は「このメディアホールも悪くないが会議・講演用のホールでもあるので響きがもしかしたら気になるかも。前に使っていた同じ大学内の奏楽堂の方がピアノも響きも好きでした」と述べてましたが、私はこのメディアホールのもわもわした響きが結構好きです。同じ大学内の奏楽堂は響きが私には硬すぎるし、椅子も最悪。このメディアホールの椅子はふかふかしていつも気持ちがいいです(どうでもいいことですが)。
ベートーヴェンはリクエストがあって取り上げたとのことですが、第3楽章の扱いが難しい曲ですね。第1楽章があまりにも有名で、第2楽章も軽やかで、しかし第3楽章が突然疾風怒濤の世界に放り込まれるような、そんなバランスの悪さを曲に感じます。
上野の演奏も模範的な演奏でよかったのですが、第3楽章での迫力が少しがんばりすぎだったかも。まあがんばらないと弾けない、形になりにくい曲だとは思いますので、がっちりとしたベートーヴェンになったのはさすがです。
後半は彼女が最近熱心に取り上げているスペイン・南米音楽から。私は昨年のベヒシュタイン・サロンでの上野の「ゴイェスカス」にすっかり魅了されたので、今回も楽しみにしていました。
グァスタヴィーノは初めて聞く作曲家。19世紀終わりから20世紀前半のアルゼンチンの作曲家とのこと。旧世界のグラナドスともアルベニスとも微妙に違う空気感。しかし終楽章の豪快さは19世紀的です。見事な演奏。
ヒナステラは20世紀のアルゼンチンの作曲家。たまにハープ協奏曲や弦楽四重奏曲を聞くこともあります。交互に現れるダイナミズムと静謐さの間がいかにも南米風で面白い曲です。上野の演奏も万全。
アンコールはゴイェスカスから。これも安心して聞ける演奏。
私は上野がスペイン音楽を演奏し始めてから音楽が実に深くなったと感心しています。CDにも録音したとのこと。今後がますます楽しみです。次の楽しみは11月のベヒシュタインかな(仕事が入っていて行けないかも涙)