【原発PR看板】「老朽化」理由に明日から撤去~標語を考案した大沼勇治さんの「現場保存」叶わず | 民の声新聞

【原発PR看板】「老朽化」理由に明日から撤去~標語を考案した大沼勇治さんの「現場保存」叶わず

福島県双葉町に設置されている原発PR看板の撤去作業が21日、始まる。看板を巡っては、標語を考案した大沼勇治さん(39)が現場保存を求めて署名運動を展開。6900筆を超える署名を町に提出していた。前町長・井戸川克隆さん(69)も撤去に反対。神奈川県内の高校生が学校新聞で取り上げるなど関心が高まっていたが、伊澤史朗町長の撤去方針は覆らなかった。


【無視された6902筆の署名】

 撤去作業が始められるのは21日午前10時。PR看板は町内に2カ所、設置されており、まずは国道6号や双葉体育館に面した看板から解体される。原発事故後、インターネットを通じて世界中に拡散された看板が姿を消すことになる。フリージャーナリストも含めて取材希望が殺到したため、町は送迎車両を増やして撤去作業を〝公開〟する予定だ。

 作業に伴い、町は来年1月10日まで看板周辺を通行止めにする。もう一カ所の町役場前の看板もそれまでに外されることになる。伊澤町長は外された看板を廃棄はしない意向で、将来の展示を視野に入れて保存するとしている。浪江町にまたがる土地に建設が計画されている復興祈念公園内で展示される可能性もあるが、具体的には何も決まっていない。

 PR看板の撤去が浮上したのは今年3月の町議会。老朽化、一時帰宅する町民の安全確保が理由で、議会も撤去費用を盛り込んだ予算案を承認した。

 これを受けて、看板に記載されている標語の考案者である大沼さんは、議会や町に撤去反対を申し入れる一方、署名運動を展開。6月末までに全国から集まった6902筆を伊澤町長に提出した。しかし、町長の撤去方針に変化はなく、6月議会で年内撤去方針を表明。7月発行の「広報ふたば」では、PR看板について「慎重な検討を進めてまいりましたが、老朽化が進んでいて危険な状態にある」と、撤去の理由を町民に説明していた。しかし、倒壊の危険性について、専門家の診断など客観的なデータは何一つない。

 「看板が心配で夢によく出てきます。撤去されてうなされる夢がとうとう、現実になってしまいました」。大沼さんは寂しそうに語る。
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原発事故が起きる前までは、町のシンボルだったPR

看板。小学生の時に標語を考案した大沼さんは事故

後、看板を使って脱原発を呼びかけ、「負の遺産」とし

ての現場保存を求めてきた(いずれも大沼さん提供)


【学校新聞で看板取り上げた高校生】

 神奈川県伊勢原市の向上高校。約50人の生徒が所属する新聞委員会は、10月22日発行の学校新聞「こゆるぎ」で、原発PR看板について取り上げた。同紙は2011年や2012年にも原発問題を取り上げている。

 「震災から4年以上が経ち、みんなが忘れかけていると感じていました。福島のことを調べているうちに、双葉町の被害の大きさを知って、もっと調べたいと思いました。それで、まずインターネットで話題になっていた大沼さんに連絡を取ったんです」

 記事をまとめた3年生の嶋田さんは振り返る。生徒たちの受け取った大沼さんは、原発PR看板に対する悔しさを、次のようにメールで寄せた。

 「真っ先に看板を撤去の方針を打ち出したことで、自分の育った町が、原発とともに歩んできたことが間違いだったと実感しました」

 「誰も責任が取れない原発は、双葉町のPR看板よりも邪魔なものです」

 「原発PR看板は、あった場所で保存するからこそ原発遺構としての価値がある」(原文ママ)

 嶋田さんは何より、大沼さんが小学生の頃に原発をPRする標語を考えていたということに驚かされたという。

 秋の学校行事もあり、毎年、10月に発行する紙面は20ページとボリュームが大きい。7月の編集会議で双葉町について取り上げることが決まると、夏休みを返上して下調べを進め、9月には同じく3年生の寺澤さんが顧問の教諭とともに町役場のあるいわき市を日帰りで訪れた。

 「町役場の計らいで仮設住宅に入居している方々に話を聴くことが出来ました。お年寄りは、ちょっとした環境の変化でも大きなストレスを感じていることが分かりました」
 地震だけなら、原発が爆発しなければ、今まで通り自宅でお茶をすすることができた。畑仕事もできたのだ。短い時間だったが、お年寄りたちの哀しみに接することができた。

 嶋田さんは「取材後記」で、こう綴っている。

 「過ちを二度と繰り返さないようにするため、原発再稼働などに関し再考する必要を感じた」

 そして、こう語る。

 「調べる前は、原発事故について何も知らなかった。住民の方々の声など、もっと知りたくなった」

 2011年7月、同校生徒154人を対象に実施されたアンケートでは、34%が「日本に原発は必要」と回答。「不必要」の17%を上回った(「どちらとも言えない」は49%)。若い世代に原発事故を語り継ぎ、エネルギー問題の判断材料とするためにも、原発PR看板は必要なのだ。
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PR看板を取り上げた寺澤さん(左)と嶋田さん。大沼

さんが考案した標語を軸に、双葉町の現状を学校

新聞でリポートした=向上高校


【「伊澤町長は国の傀儡」】

 「私こそ、あの看板を外したかったんですよ」

 そう話すのは双葉町の前町長、井戸川克隆さん。「もちろん、原発事故以前の話ですけどね。あの標語は原発に媚びているでしょう。原発に依存した町づくりはやめにしたかったんですよ。でも、今となっては残すべきだと思います。広島の原爆ドームのようにね」

 もちろん、町民の間にも現場保存か撤去かで意見は分かれる。「複雑だねえ。原発のおかげでこうやって避難生活を強いられている。あれを見るたびに何とも言えない気持ちになるからねえ」と語る町民もいるのは事実だ。一方で、大沼さんや井戸川さんのように〝負の遺産〟としての現場保存に賛同する町民も少なくない。

 「老朽化」を盾に押し切った伊澤町長。東京五輪までに、原発PR看板を国道6号から見えないようにしなければならない事情でもあるのか。井戸川さんの言葉に、ヒントがあるのかもしれない。

 「伊澤君は国の傀儡(かいらい)だから。言いなりだからね」

(了)