ルーラルアート+ふるいちやすしの日記 -3ページ目

『千年の糸姫』①



撮影は順調とは言えないまでも
あとは千年前のシーンを撮る1日を残すのみ。
この橋は主人公、糸が明るく働く町と
重い運命の中で暮らす家を隔てる橋。
ここを渡る糸の姿がどうしても撮りたくなって追加したシーン。




だけど僕が想像していた姿と
表情も足取りも全く違っていた。
それは糸を完全に宿した主演の
二宮芽生が見せてくれた本当の姿。
いつも言ってることだが、
はじめは僕の頭の中にある全ての登場人物は
役者一人一人に託し、彼女達がそれを宿してくれた時、
本物になる。
そうなると僕の想像など全く意味を持たない。
たった2カットのこのシーンは僕の大好きなシーンになった。
そればかりかこのシーンが音楽的にもとても大きな意味を持つことになる




去年、すでに本を書き上げていた僕には
ロケハンを重ねる内に一つのメロディーが聴こえ始めていた。
でもそれには確信が持てなかったことも事実で
それをテーマ曲にする事にはためらいもあった。
ロケ地が下仁田町に決まり、
稽古で役者達が登場人物の姿と思いを
徐々に見せてくれるようになってから
またそのメロディーが甦り
その曲をテーマ曲にすることに決めた。
ただ、当初はそれをクラシックギターで演奏しようと決めていた。
それは町の空気感とぴったりマッチするように思えたからだ。

そして先ほどの橋のシーンだ。
その町に本物の糸が現れて
どうにも拭えない違和感を感じた。
糸の持つ思い
細さと強さ
運命と儚さ
透明と濁り

なんだろう?この響きは?
クラシックギターの響きではないような

いろんなギターで試してみたが
結局愛機ラリビーのスチール弦の中にその「響き」を見つけた
同時に聴こえてきた新たなカウンターノートをアレンジに組み入れ
演奏は更に難しくなってしまったが
まぁ、編集が終わる頃には弾けるようになっているだろう。




これが僕の至福の時。
映画は美術であり、文学であり、音楽でなくてはならない。
それらを役者たちが生き物にしてくれて
舞台を選び、その姿をカメラに収め
彼女達の声も心の響きも音楽として
一つにしてゆく。
ずいぶんしんどい人生だったけど
音楽家で良かった。
今でもしんどいけど
これを一つに感じられる自分で良かったと
心から思う。

もうすぐ『千年の糸姫』

しゃらっとブログ再開!
年一回ペース?
いやいや、再開させますとも!
この夏、立て続けに二本の短編を撮り、
ついに真打ち『千年の糸姫』が10/10日クランクイン!
すでに今月初めから本格的な稽古に入っており
そこから皆さんには知って欲しい。
この作品はどうしても見て欲しい。
完成は多分来年になるだろうけど、
賭けているんです。

元は僕の中にあった物語の
出演者それぞれの生き様、思い。
それが稽古の中で一つずつ本当の声、眼差し、姿となって
だけどまだ自分の中で暴れ出す。
正直、苦しくてたまらない。
いつものことだが、やがてそれは役者たちのものになって
僕の中からふっと離れて行く瞬間を迎えるだろう。
寂しくも、震えるほど嬉しいその瞬間。
だけどそれは未だ来ない。
未だ僕の中で絡みあったり拒絶しあったりしながら
大きな幾つもの渦になって暴れる。
オーバーロード。
おかしな歪み音に苦しめられる日々。
今が一番苦しいけど
きっと彼女たちならそれを持ち去ってくれる
そんな確信がある。
それほど素晴らしい役者達が集まってくれた。
この物語を託す人がこの人達で本当に良かった。


ルーラルアート+ふるいちやすしの日記

二宮芽生(にのみやめう):糸・糸姫
新人でありながらオーディション全体の空気を変えてしまうほどの圧倒的演技を見せてくれた人。
実際、参加者全員の緊張感も一気に上がり、
あんなすごいオーディションは僕にとっても初めての経験だった。
演じるというよりはその役を生きる人。
だからいつも身体ごとボロボロになってしまう。
ああ、この作品にそこまで捧げてくれているんだと、
感謝の気持ちで一杯だ。


ルーラルアート+ふるいちやすしの日記

藤原シンユウ:源吾
彼もまた、オーディションで出会った人。
キャリアがあって、美し過ぎる声の持ち主。
それだけに心を繋げることができるのか、ちょっと心配だったのだけど
彼は大きく心を開き、僕から源吾という難しい役を吸い込んでいってくれる
これほど繋がれた俳優と出会うのは初めてなんではないだろうか?
ただ、源吾になろうとしてから彼は度々吐き気に襲われるという。
二宮芽生同様、身体が心配だ(笑)


ルーラルアート+ふるいちやすしの日記

高瀬媛子(たかせあきこ):茜
最後の最後までしっくりくる人が見つからなかったこの役を
10年来の友人の彼女に託した。
とは言ってもここ10年は付き合いがほとんどなく
僕が知っている彼女はモデルの仕事をしていたのだが
Facebookで役者をやっている事を知り、会ってみたら
彼女もまた、役を生きようとする役者になっていた。
病気から回復したてのナイーブな時期に
僕からのオファーだという事で引き受けてくれた。
茜という役が持つインテリジェンスと美しさが芽生え始めている彼女を見ていると
この人で良かった。この人しかいない。と思える。

山口快士(やまぐちかいじ):輝昭
今日の稽古はお休みだったので写真がないのが申し訳ないが
もう一人のキーマン。
まだ20代の若さで大きな存在感を放つ男。
僕のような作り方の芝居は初めての経験らしく
まだ戸惑っているようでもあるが
ただただ実直に向き合ってくれている
何より心を開いてくれている。
彼もまたオーディションで出会った一人だ。


相変わらず人集め、資金集めはダメダメな僕だが
この4人に出会えた事は至福の幸運だった。
稽古場は、より深く、より繊細に
という空気で充たされている
10月からはこの4人を取り巻く様々な人々も加わり
最後の稽古に入る。
この『千年の糸姫』という物語を
ぜひぜひぜひ、楽しみにしていてほしい。

深く、深く




広く、深く、人の心に届く映画というのが
もちろん理想ではある。
でももし、どちらかを選ばなければならないとしたら
僕は間違いなく深く届く映画を選ぶし
それを作ろうとしてきた
「彩~aja」「艶~The color of love」の上映が終わった
東京、京都、そして各地から駆けつけて下さったお客様は
言葉、表情、そして時に涙までも見せて
この作品を愛して下さった。
“良かったよ”ではなく“ありがとう”と言って下さった
深く受け取って下さったのだと実感できる事だった。
ありがとう!
僕はとても幸せでした。
素晴らしい体験でした。







そしてこんな小さな上映会・トークショーに力を貸してくれた出演者たち、ゲストの皆さん
広報の松永さん、京都で人を呼んでくれたみなさん
僕の力が足りなかったんです
ごめんなさい
でも、本当にありがとう。
映画は観てもらって初めて映画になる
この言葉が身に染みます
だからこの映画は皆さんと一緒に作った物だと思っています
この作品を一生の宝物にします。



『彩〜aja』エピソード0



「彩~aja(エイジャ)」というタイトルについてよく質問を受ける。
サザンオールスターズの同名曲と何か関係があるのか?とか。
実はサザンもおそらく影響を受けたのであろう、もっと元の同名曲がある。
アメリカのスティーリーダンというグループのアルバム「aja」というのに
おそらく日本盤の担当者が「彩」という文字をあてて
「彩~aja」というタイトルで売り出したのが最初で
ajaという文字は他国ではアヤと発音する事もあるので
この当て字はとても的を得たクリーンヒットだ。
このアルバムのジャケット写真にはオリジナル版でも
日本人モデルの山口小夜子さんが起用され
話題にもなっているので
ひょっとするとスティーリーダンも日本を意識してこのタイトルを付けたのかもしれない。



さて、今日はこの映画の始まる前
つまりエピソード0を話そうと思うのだが
それは画面上の物語には出てこない部分で
キャラクターを決める為に
僕と役者の間だけで話されていた事だ
映画は美しい野原を駆け回り、のびのびと絵を描く彩から始まるのだが
彩は元々東京にいて
特別な画風を持つ天才少女画家だった
その頃に前述のスティーリーダンのエピソードを知り
気に入った彩は自らの名前をaja(エイジャ)にしていた
つまりajaは彩の昔の名前だ。



自由奔放なajaの絵は美術界でも評判を呼び
一躍絶頂を迎えるが
同じく自由奔放なその愛情が
周りの男達、とりわけ男のアーティスト達の心を奪い
そして狂わせていった
度々トラブルを起こすようになったajaは
周りの悪評に傷つき
また、自分のが狂わせた男達の姿に心を痛め
ついには東京を離れ森の中に隠れるように住むようになった






自分の真っすぐすぎる性が凶器だと悟ったajaは
森の木々や自然の中で洗われ
次第に艶を捨て
透き通るような絵を描き
やがて心の平穏を取り戻すのだったが
ある日、近くにアトリエを構える
人気画家の天城蒼(あまぎあお)に出会い
その枯れた心を目の当たりにして母性を呼び戻され
次第に蒼を愛するようになるのだ。




さてここからは劇場でご覧下さい。
なお、劇場がとても小さいので
ご都合がつきましたら
ぜひご予約ください。

モナコ国際映画祭二年連続受賞作品
「彩~aja」(2012)、「艶~The color of love」(2013)、劇場公開のお知らせ
【東京】
9/11(木)-15(月・祝) ①16:00 ②19:00
@原宿・CAPSULE(カプセル) http://capsule-theater.jp/

【京都】
9/20(土)-23(火・祝) 11:00
@木屋町・立誠シネマプロジェクト http://risseicinema.com/

*全回、来場トークあり。

『彩~aja』(49min.)
2012モナコ国際映画祭
最優秀オリジナルストーリー賞・最優秀撮影監督賞
最優秀オリジナル音楽賞・最優秀新人俳優賞(笠原千尋)
出演:笠原千尋(彩)、猪爪尚紀(蒼)、藤原夏姫(ルイ子) 
蒼の絵: 天野弓彦 助監督:前田達哉

『艶~The color of love』(19min.)
2013モナコ国際映画祭
最優秀アートフィルム賞
出演:古池千明(天の女)、鈴木宥仁(書家)

【チケットのご予約】
東京プチ・シネ協会 tokyo_petitcine@yahoo.co.jp


まで、お名前、日にち、時間(東京のみ)をお書き添えの上、メールをお送り下さい。
全席自由席 ¥1,500 (京都のみ、会員割引あり)

『艶〜The color of love』のこと



2013年モナコ国際映画祭で「最優秀アートフィルム賞」をいただいた
『艶~The color of love』は旧知の書道家、
鈴木宥仁(すずきゆうじん)とのおよそ10年以上ぶりの再会から生まれました。
彼の作品は今、フランスの美術サロンで評価を得て、
売れっ子の書家になっているが、
出会った当時はまだまだ駆け出しの書家で、
パーティー等で出会っても売り込みとカッコつけるのに必死で、
それは僕も同じだった。
僕はその後、そんな自分がすっかり嫌になり、
人からもパーティーからも離れ、
実は彼も時をほぼ同じくして、故郷の静岡へ帰ってしまっていた。
それがかえって良かったのだろう。
再会した時にはすっかり肩の力も抜けとてもいい字を書くようになっていた。




「あの頃は・・・」という話題にはお互い苦笑いの連続で、
力の抜けた者同士、じゃあ何か一緒に作ってみようかという話になり、
この作品が生まれたのです。
テーマを決めようと話し合った時、
今、何か一文字書くとすればなんだ?という僕の質問に
かれは「うーん、『愛』かな・・」と答え、
僕はすかさず「嘘つけ!もうカッコつけんなよ」と突っ込んだところから一気に勢いは増し、
結局スケベな僕らは
隠しきれない性と
勝ち目のない女性の強さを表現する『艶』を映像化のテーマに決めた。



そうなるとやはり美しい女性が必要だという事になり、
女優の古池千明とヘアメイクの加藤早紀に声をかけ、
結局この四人と静岡でお茶を作っている松島 弘明のサポートだけでロケを行った。
静岡の掛川で行うことになった撮影だが、
東京でできる衣裳やメイクを加藤と相談しながらやり、
ロケ場所やお茶に関する事は鈴木に任せたのだが、
いざ行ってみるとどうにもしっくりこない。
鈴木自身も僕や加藤のこだわりや古池の集中力を目の当たりにして、
「来月、もう一回来てくれ。一から考え直したい」と言い出した。
全員、それが嬉しくて、
ひょっとしたらその時が初めてチームが一つになれた瞬間だったのかもしれない。



さて、内容に関してはまたお話しするとして、
完成した時にまたチーム全員集まって観て、
その一体感と美を喜び合った。
ちょうどその頃、モナコで『彩』が受賞した時だったので、
盛り上がったみんなのたっての希望でこの作品も出品する事になった。
実は僕自身、映画祭に出すなんて事は全くイメージしていなかったのだが、
みんなに押されるまま出してみたら幸運にも賞までいただいたという無欲の作品です。
徹底的に拘った日本の色を楽しんで頂きたいです。

モナコ国際映画祭二年連続受賞作品
「彩~aja」(2012)、「艶~The color of love」(2013)、劇場公開のお知らせ
【東京】
9/11(木)-15(月・祝) ①16:00 ②19:00
@原宿・CAPSULE(カプセル) http://capsule-theater.jp/

【京都】
9/20(土)-23(火・祝) 11:00
@木屋町・立誠シネマプロジェクト http://risseicinema.com/

*全回、来場トークあり。

『彩~aja』(49min.)
2012モナコ国際映画祭
最優秀オリジナルストーリー賞・最優秀撮影監督賞
最優秀オリジナル音楽賞・最優秀新人俳優賞(笠原千尋)
出演:笠原千尋(彩)、猪爪尚紀(蒼)、藤原夏姫(ルイ子) 
蒼の絵: 天野弓彦 助監督:前田達哉

『艶~The color of love』(19min.)
2013モナコ国際映画祭
最優秀アートフィルム賞
出演:古池千明(天の女)、鈴木宥仁(書家)

【チケットのご予約】
東京プチ・シネ協会 tokyo_petitcine@yahoo.co.jp

まで、お名前、日にち、時間(東京のみ)をお書き添えの上、メールをお送り下さい。
全席自由席 ¥1,500 (京都のみ、会員割引あり)