ちょっと笑えて、でも物悲しい短編集。どこから読んでもOK!どれも面白かったが痛いモノガタリばかりでもある以下の7編。

①元相撲取りの探偵「探偵には向かない職業」。

②元バンドのボーカルの演歌歌手「冬燕ひとり旅」。

③漫画のアシスタント「夜明けはスクリーントーンの彼方」。

④元キャビンアテンダントの車内販売員「アテンションプリーズ・ミー」。

⑤ゆるキャラの中身になった市役所職員「タケぴよインサイドストーリー」。

⑥売れないモデル「押入れの国の王女様」。

⑦小説を書き始めた専業主婦「リリーベル殺人事件」。

⑧お笑い芸人を目指すコンビニ店員「ギブ・ミー・ア・チャンス」。

ガンバリが空回りする様がこれだけ並ぶと、なんだか身につまされて最後は笑えなくなっていた。

僕的には①、②、④、⑤、⑦が良かったかな。

★★★★☆

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「人生やり直したい!」と思ったこと、ありませんか?でも、夢を追うのも楽じゃない。それでも、挑み続ける人々の姿を描いた少しだけ心が強くなる短編集。

 

一人の少女がショッピングモールで2000人を虐殺していくお話。
なんといってもモモちゃんをなぜか応援したくなるがスゴイ。カフェで知り合った5人が協力するという5人の役割分担も凄いし、毒殺なので例の金正男殺害事件が起きて、こういうことが実際にあるかもという恐怖感倍増。

でも小麦から探すというのがそもそも砂漠から何か探す以上に困難で、実現性は無いからこそ書けることなのだろうと思うが油断できないぞ。
正直、動機や協力者の常識感覚など薄い部分もあるけどそんなの差し引いてもお釣りがくる迫力、テンポの良さ、ストーリー展開。

汐留のモールの図解が最初にあるので想像がしやすいのが良かったけど、どこにいるのかがわかるのは映像のほうがいいかも。でもこんな凄惨なものは映像化できないだろうな。
★★★★☆

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暑さが残る初秋の、とある土曜。コーヒー専門店店員・篠崎百代は、一人で汐留のショッピングモールへと向かった。できるだけ多くの人間を殺害するために。一方、百代の協力者・藤間護らは、仲間の木下が死亡しているのを発見する。計画の中止を告げるため、百代を追う藤間たちだったが…。緻密な設定と息もつかせぬ展開で、一気読み必至の傑作大長編!

556ページもある厚さの本だったけど、面白くてスイスイ読めた。

昭和40年代を知っている身としては、舗装していない道路や、濃いめのコーヒーなどなどなんだかしみじみした。

「蜜蜂」はなかなか出てこなくて、いったいどういう意味があるのかと思っていたら、原爆に代わるものの中にいた。でもだからといって現代から蜜蜂が消えている理由が特に開設されないままだったのが残念。

ちょっと不思議なモノガタリ。仕事や人間関係でギスギスしていたら読むといい精神安定剤になるかも。

★★★★☆

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信じられないかもしれないけど、この東京の地の底には、ひとつの大きな町がすっぽりと納まっているの。突然の歯の痛みに飛び込んだ歯医者で、小柳薫は「蜜蜂がこの世からいなくなると人類は滅亡する」という不思議な予言を受ける。その日から、小柳薫の身に次々と不思議な出来事が巻き起こり、多田野黄昏という美女とともに昭和40年代の東京に迷い込むのだが…。

ずっと気になっていたが、やっと読んだ。しかも上下なのに一気読み。映画は見ていないので新鮮。いやー面白かった。3つの家族の生き様が、山神という殺人犯はいったい誰、3つの家族が遭遇する男の誰なのか?を引っ張って、この3家族はいずれもマイノリティ(ゲイに発達障害に母子家庭)いずれもイジメにあっていたりする。
殺人犯山神ののっぴきならない焦り、暑さの中での殺意。
哀しい話だけど、最後のほうでは涙がこみ上げるほどだった。
映画は日本アカデミー賞候補。「愛子」役が宮崎あおいらしい。小説ではちょっと太った女の子なのでエッと思ったが、演技力を勘案すると宮崎あおいは適役かもと思った。
★★★★★
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吉田修一の『怒り』が新刊として発売されたのは2年余り前だが、この秋、映画化によってあらためて注目されている。これを機に新しく巻かれた文庫本のカバーには、渡辺謙ら出演俳優の顔写真が組まれ、華やかだ。

八王子の郊外に暮らす若い夫婦が自宅で惨殺され、目撃情報から精緻なモンタージュ写真が作られる。犯人は山神一也、27歳。すぐに全国に指名手配されるも手がかりがないまま1年が過ぎた夏、房総の港町で働く親子、東京の大企業に勤めるゲイの青年、沖縄の離島で母と暮らす少女の前に、身元不詳の男が現れる。当初は訝られながらも、男はほどなく受けいれられていくのだが、警察が整形手術後の山神の写真をテレビ番組で公表したあたりから状況は慌ただしくなる。この男は殺人犯ではないかとの疑念が3者それぞれに湧きあがり、彼らの日常が震えだす──どの男が犯人かわからないまま絶妙な場面転換に従って各地の人間関係の変容を読み進めるうち、気づけば登場人物たちと同じく、私もまた信じることの意味について自問自答していた。

相手を信じきれるかどうかは、突きつめれば、そう信じている自分を信じられるかという問いになる。自分の身を賭すぐらいでなければ、信じきることなどできないのではないか。だから、それとは違う立場の他者や社会に対しては怒りがこみあげる。自分を信じていなければ、本物の怒りも湧いてこない。怒りとは、つまり、自分を信じている証しなのかもしれない。

信じることの難しさと、尊さ。この小説が突きつける問いは禍々しく、ヒリヒリするぐらい切ない。

評者:長薗安浩

ALS患者の尊厳死についてが大きなテーマで、終始暗いが一気読みした。
内容は医師が殺害され、婚約者が第一発見者となり。。。警察の捜査が始まり、他方、厚労省の調査も着手され。。。捜査と調査の競争のようでもあったが、調査担当者の変わり者が活躍する。
犯人は誰?が結構最後のほうまでわからないが、トリックは案外普通で、それより人間関係が複雑で、愛する人のために殺人を犯す、尊厳死のための自殺ほう助など、ムムム僕には絶対無理!という内容だが、モノガタリとして面白かった。
病気が深く関わっていて、なりたくて病気になったわけではないのに、辛いことが待ちかねている。さらに、死をどう迎えるか、まで言及され、なかなか辛い。
★★★☆☆
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マンションの一室で男は血塗れで死んでいた。
死亡推定時刻に現場を訪れていたのはいずれも同じ病院の医師たち。
一方、厚労省の医療事故調査チームも手術ミスの報告を受けてその病院を調べていた――。
医療サスペンス+本格ミステリーが鮮やかに融合する。

今週も通勤時間内で読み切れた。それだけ読みやすく面白かった。

ただし冒頭、多賀が殺されたところから入っているのに、いったい誰が殺したのかということは最後まで不明だし、都合よくシェルターに入った稲葉が怪しいのはわかるしで、ちょっと引っかかる部分はあるものの、テンポが良くて緊迫感もあり、311福島原発事故を連想させるようなところもあり、ロボットとの戦いはリアリティもあってドキドキしながら読めた。

★★★★☆

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腐乱死体に遺されたメッセージと化学工場の危険物漏洩事件。事故か、陰謀か。原因不明の化学工場災害。刻々と広がる薬物汚染をふたりの男は阻止できるのか。圧倒的なリアルとスリル!異才の放つパニックエンタテインメント!!

お正月の気分を吹き飛ばすちょっと重たい内容。

「無戸籍」がテーマ。失踪した父親の生い立ちと、父を探す娘の行動が交互に描かれて、様々な謎が解き明かされて真相に迫っていく。

会話文が多く読みやすかった。

娘の香といとこの響子がナイスコンビで行方を捜し始める。父親の行方とともに香自身の秘密も明らかになり父親に隠された謎と無戸籍だった父親の半生が繋がっていく。

法的に存在しないと宣告された男性の過酷で無慈悲な人生、戸籍を買ってもそれは自分ではない氏名と生年月日。無戸籍の問題を改めて考えさせられる読み応えのある内容だった。

総務省のホームページで無戸籍について記載されているので、少しはマシになったのかなと胸をなでおろした。

普通に「住民票」が取れることができない環境におかれる過酷さがヒシヒシ伝わる佳作だった。

★★★★☆

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突然失踪した父。行方を追う娘は、父が25年前の殺人事件の法廷で、被告に有利な証言をしていた事実を知る。真相を求めて父の過去をたどる娘は、「無戸籍」という不条理な境遇に生まれた彼の、あまりにも過酷で無慈悲な人生に向き合う。『代理処罰』で第17回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した著者渾身の書下ろし長編ミステリー!

2017年のレビュー書き込み第1号は、昨年香取慎吾が犯人役で映像化されたもの。終盤には誰がどのようにという状況が読めてしまうし、「感動と慟哭のラスト」では無かったけれど、問題提起作品としては成功しているように思う。章ごとに語り主が変わるので最後まで飽きることはないし、中だるみもないし時系列なので読みやすさは抜群。日本国の負債、アメリカ同盟国としての在り方など誘拐犯の主張に同調できる部分が多いのも良かった。実際にこんな勇気と正義感と行動力のある若者がいたらいいのにと思わせる、スカッとはしないが、よくぞ書いてくれたという内容だった。

★★★★☆

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日本政府に突きつけられた驚愕の要求―。「元副総理の孫を誘拐した。財政赤字と同額の一〇八五兆円を支払うか、さもなくば、巨額財政赤字を招いた責任を公式に謝罪し、速やかに具体的再建案を示せ」。前代未聞の要求にマスコミは騒然。警視庁は捜査一課特殊犯係を直ちに派遣し、国家の威信をかけた大捜査網を展開する。やがて捜査陣は、あるブログの存在に行き着くが…。感動と慟哭のラストが待ち受ける“憂国”誘拐サスペンス巨編!2014年第12回『このミステリーがすごい!』大賞大賞受賞作。

今年の最後はコレ。誘拐犯はいったい誰なのかが最後にほうでわかるまで、スリリングな展開が続く。大物政治家が黒幕という話はよくよくある話でそこに新鮮味は無いが、誘拐犯の目的は金ではなく、自分が警察を辞める原因となったであろう、とある情報で、その情報を手に入れるために警察を信用できない朝倉は悪党の岸谷と手を組み、若い職場に知り合い戸田を巻き込みながら満身創痍になりながらも駆けずり回る。GPSとタブレットを駆使して都内をおっかけっこ。犯人・神奈川県警・妻の奈緒美の動きと2重構造に、娘を救うために奔走する。スピード感、緊迫感があり、あっという間に読めた。真犯人は・・・。かも知れないという思いもあったが・・・。

★★★★☆

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3年前に警察を辞め、家族も離れて暮らす真志に、娘を誘拐したと匿名電話がある。自力で誘拐犯を捕まえるため動き出すが、誘拐事件はやがて真志がすべてを失った原因となる過去の事件へとつながり!?    


 

冒頭の0章で「なんだかスゴイ」と引き込まれ、1章からすこし辛抱が続き、低体温のまま読み進めることになるがジワジワと引き込まれる。語り手が誰なのかわかっていないと辛くなるが、

人間の肉体と意識の分離の認識に、神学問答が加わった内容なので仕方なし。作家(ぼく)、死刑囚(おれ)、教誨牧師(わたし)、作家の父親(わたし)の語り手が故人の意識を理解する度に入れ替わる。先の語り手が理解を示すと、次の語り手はその反証や前の語り手の思い違いを指摘してきて、箱庭的な時間軸のブレを感じる様になる。科学的な見方にくみしたいのに神学的な見方にも魅力を感じてしまう。 難しかったけど面白かった。

★★★★☆

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長野県松本で暮らす作家のぼくは、連絡がとれない父・伊郷由史の安否を確認するため、新潟の実家へと戻った。
生後三カ月で亡くなった双子の兄とぼくに、それぞれ〈文〉〈工〉と書いて同じタクミと読ませる名付けをした父。
だが、実家で父の不在を確認したぼくは、タクミを名乗る自分そっくりな男の訪問を受ける。
彼は育ての親を殺して死刑になってから、ここへ来たというのだが……
神林長平、三十六年目の最新傑作にして最大の野心作。